第2章 銀の幻想曲(ファンタジア)『 旧話:妃選びの舞踏会~金の花と銀の花あなたはどちらを選びますか?』より
「あら、あそこにいらっしゃる方は隣国フトロポワン王国から遙々いらっしゃったというベシルコス・エブヘンディ伯爵様ではなくって?」
「まぁ、なんてお美しい方だこと。」
ベシルコス・エブヘンディ伯爵。齡14で当主となった、齢18の女当主。輝くばかりの妖艶なる美貌の持ち主で、教養も家柄も申し分のないと、すでに虜になった者が多くいる。彼女は姉に言った言葉通り舞踏会に出席した。
腰までストンと流れ落ちる銀髪を美しく結い上げ、頭には代々伝わる当主の冠を高々と頂き、一流の職人が技巧を尽くして磨きあげた宝石を天の川のように散りばめている。
『辺りが霞むような神々しさ』さえ覚える彼女への求婚とダンスの御誘いは途絶えることがなかった。
「ミス・テタルゥラ、僕と踊って頂けますか?」
濃い色をした金髪に海のような深い青をした目。この澄んだ良い目をした青年は葡萄酒にでも酔ったのだろうか?それとも、甘美な花の蜜を纏う蝶の芳醇な香りに溺れたのか?
「えぇ、喜んでお受け致しますわ。」
彼女の虜となり、『フラれたor見惚れた』という取り巻きの殿方から落胆の声があがる。貴婦人たちは羨望の眼差しを通り越して
「3000人の求婚とダンスの御誘いを断ったくせに」と嫉妬の眼差しを向けている。
殿方から『伝説の貴婦人』と称されし蝶は洗練された淑女の礼を取り、楽士の演奏するバイオリンの甘ったるい音色に決して劣ること無き魅惑の微笑を湛える。
(...こんな世間知らずのボンボンを手玉に取ることなど簡単過ぎて飽きそうだわ。もう、わたくしに酔っていらっしゃるなんて...。仕方ないけれど、遊んで差し上げるしかなさそうね。)
「ねぇ、王子様。後でチェスをなさいませんこと?わたくしの祖国には舞踏会がございません。少し疲れてしまいましたの。」
甘えた声で言う彼女に王子は惚れてしまったようである。今宵の舞踏会はどうやら、一人の淑女の争奪戦で怪我人が出そうな予感。