[(小)2章<挿話>] 魔物の森(シャイノン)に舞い降りた蝶(テタルゥラ)~魅惑の貴婦人オフェリアの休日
ネタバレが嫌な方は どうか、お戻りになって。読まなくても本編に支障は
ございませんから。
足を踏み入れたら二度と戻れない道を進む覚悟がある方はわたくしと一緒に参りましょう。それでは、シャイノンへ一緒に参りましょうか。
姉の焦りとは裏腹に口元に余裕の微笑みを湛えた一人の貴婦人。
「あら、愚かな歩兵達ね。命を落とし、朽ち果ててなお、わたくしの花と資源を求めるなんて・・・。」
と、足下に転がる髑髏たちに甘い視線を投げかけている。それは、蕩ける蜜のように甘美な視線・・・。たとえ、その視線が彼女の猫のような瞳のせいで、本当は死霊を見下して、憐れむことを楽しみ、紫色をした片目で欲望と悲しみの詩を貪っていたのだとしても、彼女を見た殿方は一目見ただけで恋に堕ちるであろう。彼女を見初めた殿方は堕落の道を辿ること間違いなし。
『お帰りなさいませ。オフェリア様。』
と、茨が挨拶をする。茨は主人が帰ってきたことが嬉しかったらしい。よほど淋しかったのか喜び勇んで道を開け、女王のためにアーチをつくった。茨の森の茨達曰く、
『女王様が1000年不在では困ります。』
『わたくし達の女王さまが嘆いておられました。』
『「わらわの心の友であるオフェリアの、最上級のゲホッ、神の血が混ざったドンペリのような血はゲホッ、何処じゃ~、何処なのじゃ~」と。』
『「今すぐ飲まないと、わらわは死んでしまうぞよ。人間の血をゲホッ、飲みすぎて、喉が渇いて、腐ってゲホッゲホッ・・・もうちょっと老いぼれを労わらんかの。あのピチピチの若さを半神であるあの娘が保ってられるのも・・ゲホッ、わらわのおかげだというのに・・・。・・・ゲホッゲホッ。」とおっしゃっておりました。』
つまり、いつも通りどおり『金貨○○○○○枚の価値がある血と引き換えに望みを叶えてやるぞよ。』ということか。|(悪く無い条件ですわ。)とオフェリアは思った。
優雅に絹のような髪を揺らし、蓮歩の足取りで歩を進める様は神々しく、獰猛で危険な魔物達は道をあけて、めいめいアーチの両側に頭をたれ、
『今宵も見目麗しゅうございます。女王様。』
『知恵薔薇の姫君様。叡智に溢れたお方。女王様ほど学問を究め、通暁している方はおりません』
と、彼女の傾国の美女というべき妖艶な美貌や、教養の深さを賛美する。
オフェリアは賛美のシャワーを浴びながら薄暗い霧の立ち込める中を歩く。
目指すは魔物の森の心臓、『ウィルダネス』。
嘆いている心の友である老いぼれ。|(いや、乳母かもしれませんわね。)のために!?それとも自分のため?なのか。|(もちろん。わたくしの美貌を保つためと殿方のお心を射止めるためですわ。)
馨しい香りを放つ知恵薔薇を目指して蝶は旅をする。光るコケが怪しく辺りを照らしている中を。