口説き文句と村娘~公爵騎士と国王愛妃たちの珍道中1
目を覚ましたミンナスは、名門伯爵家出身のフローラに出会う。お忍び旅行に出かけようとしたミンナスに、ツンデレな彼女が同行することに。彼女の騎士だと言うドリューゼルもついてきて、村の娘たちを口説き始め・・・・どうなるのか。
「わたくしがヨボヨボの老婦人になるまで待たせる気かと思いましたわ、王妃様。」
声をかけてきたのは、ベーチェル伯国から嫁いできたロジャー伯爵家出身のフローリア・レリア・ロジアという、名のある貴族の令嬢であった。
瞳は、オーロラかというほどに様々な色彩を描く大きなキャンバスのよう。それは真に不思議な瞳であり、透き通るような白き肌は雪を連想させつつ、その瞳の引き立て役となっている。この香りが、彼女を美しく見せているのだろうか、それとも美しいわたくしの過去が美しく見せているのか。それは正直よくわからない。
「良い香りですね。」
「貴女の故郷では気付け薬として、薔薇水が用いられると聞いたから…ついでに政略結婚って言うくだらない風習なんてなくなってしまえばいいのに、って思って魔法でどうにか解決したかったの。」
部屋に広がったあの馨しい香りが花を擽り、ついつい望郷の念に駆られてしまう。故郷では薔薇は病の治療に使われ、料理にも、美容に良いとも、恋の妙薬ともされ、広く用いられていた。日常の中に深く溶け込んだ薔薇の花は魔法で変えられるものでもなく、好き嫌いもあり、もし、変えることが出来るならば人の心次第だと言えよう。
「王妃様には、この国の殿方の使うアンモニア水なんて似合いませんもの。」
「フローラ、僕のフローラ。」
彼女の名を呼ぶのは一人の騎士。空色の瞳が美しく、叙情的にその名を呟く彼はドリューゼルという、名門リューネ公爵家令息であった。
「…騎士は騎士らしく、私の傍に控えてらっしゃい!」
「今日は引き下がらないよ。さあ、こっちにおいで。」
「王妃様の御前よ。控えてらっしゃい!」
彼は全くと言っていいほど騎士らしくなかった。生真面目な人間とは程遠く、愛の詩を吟じては熱っぽい視線で彼女を見ている。彼女と言えば、そんなものお構いなしといった風で一向に相手にしようともしない。そんなわけで、このやりとりの無限ループは止まらない。
「…ドリューゼル様、気分転換に散歩でもいかがです?」
仲の良いことは美しいこと。けれども、あまりにもツンドラなやり取りが続くものだから声をかけることにした。
「いえ、散歩どころじゃありません。旅行です!我が国の葡萄畑や、ここから近い湖水地方に出かけるのです。存分に羽を伸ばし、日頃の煩わしさから解放されようではありませんか!」
オーバーリアクションで彼は答えた。全身で喜びを表現するのがどうも癖らしい。同盟を結ぶために隣国に出かける予定だったわたくしは、これに同意した。結果、3人の小旅行が始まった。




