第7章 波乱の婚宴[後編]~囚われの身
わたくしは今、とても奇妙な部屋にいる。民にノックアウトされ、目を醒ますと『とても奇妙な部屋』にいたのだ。人質を見つけることは出来なかった。
(……鉄格子に囲まれた不思議な部屋)
暗闇の中は饗宴と言うべきか。ネズミの鳴き声、耳元でブンブン唸る蝿の羽音。故郷の婚宴に負けない賑やかさだ。
それとは対称的に人気の無い場所であった。唯一、扉と言えるようなものはある。だが、錠が掛けられている為に脱出不可能であった。仮に開いていたとしても、逃げる気は無い。
「レイ、居ますか?」
守護妖精の名を呼ぶものの、木が囁くあの、サラサラという音は聞こえない。
(……レイが居ないって解るとかなり心細いのね。)
契約を交わした妖精が、呼び掛けに応えないのは恐らく、無機質で味気のない場所を嫌うのが原因だろう。森神族は自然を大切に想う一族。争いや血を求めず、平穏な暮らしを求める。来なくても仕方ない気がする。
「……あっ。」
刹那、少し思い出した。
『お前を見つけてみせるよ、必ず。』
「シルヴィ……?」
口に出すと懐かしい響きがする、誰かの名前。そう、これはきっと誰かの名前だ。……忘れてしまった誰か。どんな関係だったのか、容姿がどんな風だったのか、いつもなら頼りになる予言は未来の出来事を知るもので、それを教えてはくれない。どんなに手を伸ばしても届かない何か、があった。
「……誰か来ないかしら?」
いや、来ないだろう。まさか、ね。魔物とか亡霊の類いは出そうなものだが…生身の人間は珍しいのではないか。わたくしは半分だけ生身の人間というべきか。半年なら飲まず食わずでも生きていけるのだったが……
(…絶体絶命【窮地から逃れることができない状況】のような気がする。)
此処には、清らかな水など一滴もありはしなかった。あるのは足元の不浄な水(汚水)ばかり。
祖父曰く、
『綺麗な水の傍で生活すれば1000年程生きるはず。』
だそうで、明らかに寿命を縮め続けているわたくしは、果たして何時まで人間でいられるのだろうか?
(……任務はどうなるのかしら?)
周囲の暗闇と同じく、この先の行く末すらも真っ暗なミンナスなのであった。




