第6章 清らかな香り~歌姫の夜想曲(ノクターン)
忘れるはずがない。
妖艶な美貌の女伯爵のことを。父の、あの瞳を。
父親を、殺したのは私だ。皆、死んでしまった。
(………歌?)
透き通った硝子のような声。私の心を優しく包んで、雪のように溶かしていく。
(…繊細で……美しい。)
誰が歌っているのだろう?
私は夢中になって追った。
平和は訪れる 争いの無い世界
全てのいのちが幸せに
全ての人が輝けますように
この世は輝いています。
どうか 道端の花にも 愛を注げますように
人は過ちを繰り返すでしょう
しかし、愚かではありません
学ぶことが出来るのですから
過ちを犯したのならば 学べば良いのです
不意に金髪が見えた。それは月光を浴びて黄金色に輝いている。
私は人影の手を掴んだ。
「……!」
人影は驚いたようで、身を硬直させた。
「殿下、お手をお離し下さい……」
「何故、私だと?」
彼女の話によると、未来を見ることが出来るのだという。
「わたくしは隣国から来た者です。殿下の妻になるよう仰せつかり、此処に参りました。…ですが、わたくしはまだ、殿下の妻ではございません。さぁ、お早く立ち去って下さい。」
*
「…胸が、痛い。」
(……甘さの中に、みずみずしい香り)
衣服に付いた残り香は清らかで。
(…何故、胸が…。)
これは…罪悪感などでは、なく。
「…わからない。」
寝室の月を見れば朧月が出ている。彼女に会える日は3日後の戴冠式。
その日になれば、わかるだろうか?私の気持ちが。




