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 作業が始まるや否や、天幕はあっと言う間にたたまれた。

 風にはためいていた商業連合の標旗も降ろされて、大地は再び岩の荒野に戻ってしまった。

 隊商の人々は積荷の確認をしている。

「あっちの車の積荷は全部あったよ。あとはここだけだ」

 その時、小さな悲鳴が上がった。

 遅れて、けたたましく音を立てて木箱が地面に落ち、その中身がぶちまけられた。

 一瞬だけ、辺りは静まり返る。

「ばか!なにしてんだ!」

 最初に状況を把握したのは、その傍にいた見習いたちだった。

 そして、原因となったトリの少女は、地面に転んだまま、起き上がれないでいる。

「ニキ、またおまえか!」

「あああああっ、割れてる!これ商品だよ?!」

 怒鳴る見習いに、少し離れた場所にいる女たちはやれやれとため息をついた。

 渋々、隊長の妻が仲裁に入る。

「おだまり!ニキ、落ちたもんをさっさと拾え!」

「はい・・・」

 少女はようやく起き上がったところである。衝撃を受けたばかりの細い足ではまだ立てない。

 女は次に、地面に散らばったかつての交易品を見て、見習いたちをにらみつけた。

「誰だ、商品をこいつに持たせたのは!」

「いや、だってさ・・・」

「ったく、せっかく出発するってのに、騒ぎばっかおこすんじゃない!」

学士は少し離れた場所から事態が収まるのを見守っていた。

 少女が立ち上がったのを見て安堵し、持っていた荷物を持ち直して荷車に載せる。

 荷車の陰では、ウマのこどもたちが上手く仕事を逃れていた。

「あーあ、ニキまたやってるよ」

 ウマの少年は呆れた調子で言う。

「どうせ役に立たないんだから、手伝いなんて逃げときゃいいのにねぇ」

「そこんとこ出来ないからばかなんだよ」

「それにしてもよく転ぶよな」

「ばかだからじゃない?」

 他の大人たちならば手伝えと叱るところだが、学士にそんな気はなく、こどもたちもそれを察している。「そうでしょう?」と同意を求められた学士は、穏やかに応えた。

「トリはウマほど強靭な足を持っていない。むしろ歩いたり走ったりは、苦手な者が多い。あの子がよく転ぶのも仕方がないことだ」

「ふーん。せんせーは?フクロウなんでしょ?フクロウもトリでしょ?」

「私は半分ウマだ。どちらかといえばウマが強く出ている。トリのような翼はないが、旅に適した足だ」

「トリとウマの混血は、ペガサスっていうんじゃないの?」

「ペガサスとは、飛べる翼と走れる足があるものをいう。だが、伝説のような存在だよ。そんな固体が生まれても、他が弱くてすぐ死ぬ。そもそも混血で健康に育つ者は少ないんだ」

「だから他の種族と結婚しちゃよくないんでしょ、そんくらい知ってるよ」

「そうだな、私たちは良く似ているようで、違うらしい」

 その時、今まで聞くばかりだった少年が、口を開いた。

「そうだよ、違う。トリは大地を渡る生き物じゃない。だからニキは隊から抜けたらいいんだ。うざいだけじゃん」

 声音はとげとげしい。

 学士は困りながら、同意した。

「・・・確かに、あの子の足は旅に適していない」

「でしょ!」

 こどもは勢いづいて、さらに何か言おうとした。それに気づかぬふりをして、学士は淡々と告げた。

「どのみち、――長くは歩けない。あの足は遠からず使い物にならなくなる」

 時間にしてほんの数秒、こどもたちは反応できなかった。

「は・・・・・・?」

 聞き返す声も、戸惑いを含み、消えていく。

 学士は淡く微笑み、首をかしげた。

「どうした。君たちには都合がいい話だろう?」

 こどもたちは互いの反応をうかがう。

「・・・・・・・そう、・・・だけど」

「でも」

 それ以上の言葉は出てこなかった。

 学士は微笑を残して、荷運びの作業に戻る。

「おーい、ちびども。さぼってねーで手伝え!」

 男が遠くからこどもたちを呼んだ。

 即答と言うには微妙な間を置いて、こどもたちは応えた。

「はいはい!」

「今行く!」

「ちっ、うっせぇな」

 こどもたちが駆けて行く姿を、学士はしばらく見つめていた。






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