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我々はなぜ求めるのか。

我々の求める心はいずこより出で来たか。


天の星を見上げて測り、紙の上に大地を表し、砂粒の構造を想う。

己の存在を問いかけ、世界の始まりへ語りかけ、宇宙の広がりを追う。


この無限の探究の先に、我々は何を見出すのか。


さあ、私の前に立つ若き探究者よ。

私は今より問いかけよう―――







 赤茶けた岩がごろごろと転がる、岩石砂漠だった。

 そんな無機質な世界に、異質な天幕の群れがある。――遠方へと旅する隊商である。天幕群の中央で、商業連合の標章であるの馬蹄をあしらった旗が、風にはためいていた。

 天幕の周囲で、〈ウマ〉のこどもたちが遊んでいた。これといったルールもない、ただ足の速さを競ったり、相手を追いかけたり逃げたりといった戯れである。

 そんなこどもの一人を、天幕から出てきたばかりの女が呼び止めた。

「アナ、ちょっと」

「はーい、なーにー」

「頼みたいことがあるんだが・・・」

 アナと呼ばれたこどもは行き過ぎて、振り返る。遅れて、前を行っていたこどもたちも立ち止まり、振り返った。

 女は用事を言いつけるより先に、「おや?」と首をかしげた。

「ニキはどうした」

「あっちの岩の上。まぁたやってるよ。何もおもしろいもんなんてないのにさ」

「まあ、仕方ない。あの子は〈トリ〉だからね」

「馬鹿だから、の間違いじゃない?捕まえてこようか?」

「いい、あいつはほっときな。それより水を汲んできてくれ。隊長の熱がまた上がってきたんだ」

「ニキに言えばいいじゃん、どうせ何にもしてないんだからさ」

「あの子が運んだら、桶に水が残ってないよ。さっさと行っておいで」

 こどもは不満げに息を吐き、承諾した。

「はーい」

 手渡された桶を持って、他のこどもたちとともに水場へと走っていく。




 大地を突き破るかのようにせり出した巨岩の上で、そのトリは〈風読み〉をしていた。

 奇形の両翼で風を受け、目と耳が届く範囲よりも遥か遠方を見渡すのだ。

「・・・来る。来るよ。誰?トリじゃない、ウマじゃない。ムシケラでもキバでもない。誰?」

 問いかける。

 風は必ずしも明確な答えをもたらすわけではない。

「――!」


 ――見つけた。


「来たー!来たよー!」

 岩を降りて走り出す。周囲にいる隊商の面々が何事かと驚いている中を駆け回る。

「来たよー!来たー!来たー!」

 彼らは何事かと顔を上げ、少女の姿を認めると呆れ顔になった。

「なんだ?」

「またニキの馬鹿が・・・」

 駆け回るトリの少女を、女が捕まえた。

「こぉら!天幕の近くで走ると危ない!病人も居るんだから静かにする!」

「でも、来たのよ!」

「何が」

「何かが来るの」

「はあ・・・?」

 女は早々に少女との問答をあきらめた。

「――おい、見張り・・・・・・立ってねぇじゃねーか!ニキなんぞに任せんな!ちょっとあんた、見て来い!」

 若いウマの青年が、それに応えた。

「はいはい!――・・・と」

 ウマの健脚は、あっというまに高台を登った。

「なんか見えたか?」

「あー・・・・・・あ、ほんと、誰かいる!一人っぽい!歩いてる!」

 ざわり、と天幕の周囲の空気が変化した。

「一人ぃ?」

 その空気の色は、不安や疑心だ。

 人々は、その心に湧いた灰色をささやきあう。

 そのうちの一つが、誰の耳にも響いた。

「・・・まさか、旅人だとでも・・・?」


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