04 学力が問題だ
「ねぇ、そもそもの疑問を一つ聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
「なぜ貴方の婚約者としてソルドン王立学院に入学しないといけないの?」
私の記憶ではあの王立学院は平民も入学出来たはずだ。
「セルティアの言う通り、王立学院は一定の学力が認められたら平民も無償で入学を許可される。でもその倍率は非常に高く、金を積めば簡単に入学出来る貴族とは比べ物にならない程の努力が必要だ。」
なるほど。
平民の遊女だった私では、何年掛かっても入学は出来そうにないわね。
「更に言うと、貴族と平民では学びの要素が違う。だから建物自体も別々だ。登校する道順まで貴族と平民が顔を会わさないよう徹底されている。」
「そんなの名前が一緒なだけで全く違う学校じゃない。」
「そうだ。だからセルティアは貴族として入学してもらわないと困る。そして、リリース男爵家には入学金を用意できるほど余裕がない。」
リリース男爵家と前々から交流があった訳でもないフェリタ公爵家が肩代わりするにはそれなりの理由が必要な訳ね。
「だからアルマ様の婚約者になる必要があると。」
「理解が早くて助かる。」
アルマの説明にようやく自分が裏口入学を果たす闇貴族なんだと理解した。
「何処の世界もやっぱり金ね……。」
本当に世知辛い世の中だ。
ため息が出る。
「入学に必要な制服などは全てこちらで用意している。」
「かかる費用は?」
「もちろんこちら持ちだ。」
よし。それなら安心ね。
アルマには見えない様に小さくガッツポーズした。来年のこのぐらいの時期にはその制服も売って一儲け出来そう。そう思うとこの状況も悪くない気がしてきた。
全ては一年だけの我慢よ。
「ただ、入学式の後にクラス分けがある。君には必ず一番優秀なAクラスに入って貰いたい。」
「…………なぜ?」
「攻略対象の男はみな、生徒会所属。だから君も生徒会に入る必要がある。」
「別に生徒会に入らなくても学院の何処かで会うことぐらい出来るでしょ?」
「学年も爵位も上の人間に何度も会うには効率が悪いだろう。生徒会に入れば一瞬で解決出来るんだ。生徒会入りは外せない。その為には成績、作法、魔法に秀でた者が集うAクラスでなければならない。」
さっきまでの余裕が嘘みたく剥がれ落ち、背中に大量の汗が流れていく。成績、作法、魔法に秀でた者って……。
「マスカレードで見たセルティアのカーテシーや所作は少し改善すれば立派になるだろう。魔法も使える。残るは学力だ。」
ピクリと肩が動いた。
「…………。」
「セルティア、どうした?」
きょとんとした表情でこちらを見るアルマ。
ここは素直に白状するしかないだろう。
「私、魅了の魔法しか使えない。それと学力、というか……、文字すら書けない。」
「…………嘘、だよな?」
アルマが驚くのも無理はない。ソルドン王国は平民でも抜きん出た才能があれば育てる国政を敷いている。その政策のひとつに平民が誰でも通える無償の学舎があり、城下町だけでも神殿と同じぐらい数多く存在していた。
「なぜ学舎に通わなかった。あそこに通えば常識的な事は全て教えて貰える。城下町だとほぼ全ての子供が通っていると聞いているぞ。」
私は、一度も学舎に通った事がない。というか、どんな建物なのかすら、知らない。だって私は遊女だから。
「親に売られた遊女にそんなところへ通う余裕があると思って?」
「…………すま、ない。俺の配慮が足りていなかった。」
遊女に学を付けさせるな。
これが昔から変わらない娼婦街の掟だ。
「遊女なんてそんなものよ。」
遊女に学を付けさせると金勘定が出来てしまう。男の話に口を出してしまう。そんな女は厄介だ。遊女は美しい笑みを浮かべる人形であるべき。
娼婦店はどこも同じ考えだろう。男に色を売る方法だけを年上の姉様から教わるのが常だ。セルティアもその例にもれなかった。
「数字ぐらいなら読めるわ。」
「そうか……、まずい。魔法は一旦置いておける。しかし、学力が問題だ。今から詰め込めるか?」
未来視でもこれは見通せなかったのかしら。相当焦るアルマは新鮮だった。
「金の為なら頑張るわよ。私、覚えるのは早い方だから。」
「…………いや、無理だ。」
「なんでよ、諦めないで!!」
「違う。王立学院の入学式が一週間後、だからだ。」
「あ…………、それは。」
――終わった………………。
二人は同じように項垂れた。長い沈黙が続く中、私の思考は今日の日給分ぐらいは貰えるだろうかと言う不安だけだった。そんな矢先、アルマが唐突に立ち上がった。
「こうなったら推薦枠を使おう。まだギリギリ間に合うかも知らない。」
「推薦枠……?」
「街に行くぞ。今すぐに!」
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