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遊女の私に五匹の竜からの溺愛は重すぎますっ!!  作者: 穂村 ミシイ
第一章 光冠祭と入学編

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23 シャオン・フレイブは悩む 2

 美しいブロンドの髪に青空を宿した瞳。貴族の女にしては痩せすぎな体つきは、力を入れれば簡単に折れてしまいそう。

 

 捲れた袖から覗く手首に付けられた竜印は「これは俺の女だから近づくな」という威圧している。


 ――ああ……、忌々しい。


 この女はど田舎の男爵家でアルマに一目惚れしたらしいが、その実は売られてきたのではないだろうか。地方の領主は王都の貴族とはまるで違い、領地経営が厳しく平民と一緒に働いているところもあると聞く。そんな苦しい中で公爵家から見初められれば、誰だって付いていくだろう。

 

 転びそうになった彼女を助けた時、この女から金と権力を欲する奴らと同じ匂いの他に変わった匂いがした。今までの女からは嗅いだことのない独特な香り。この香りの正体は分からなくとも、自信はあった。


 「俺に乗り換えろよ。」


 嫌われ者の異端な黒竜より、俺を選んだ方が得なのは明白。お前らみたいに金や権力が欲しい女がこのチャンスを逃すはずないんだから。


「貴方、人を愛せないのね。」


 差し出した甘い誘惑に返ってきたのは、俺を見抜いたような哀れみの視線と言葉だった。


 ――人を、愛せないだと?

 

 そんな訳ないだろう。

 俺はクソ親父とは違うんだ。愛してくれたらちゃんと愛せる。


 ――本当に…………?


 長年、鍵をかけていた箱が開いてしまった音がした。


「自分以上に貴方を愛してくれる人なんていないと言うのに。」


 女の言葉は正確に俺の心に牙を立てた。

 ずっと俺の心の中には不安があったんだ。


 ――俺は、人を愛せるのだろうか……?


 俺は、愛を知らずに育ったから。

 愛の正解が分からない。

 

 どれだけ恋愛小説を読もうと主人公に共感できたことはないし、人を見てドキドキや胸の苦しみを感じたこともない。ただ漠然と、愛とは素晴らしいものなんだと、思い描いていた。じゃないと、父と同じ血が流れている俺もそうなってしまうかもという恐怖に飲まれてしまいそうだったから。


「はっ! そんなに言うなら、お前はあの穢れた血を愛しているのか?」


 そこからは八つ当たりだった。

 ひどいことを言ってしまったように思う。怒鳴って脅して力任せに馬乗りになって、泣き叫んでもおかしくない状況だ。そんな中、俺の下に寝転んだ女は俺の本音を聞き逃さなかった。


「あの男が俺より幸せになるなんて、絶対に許さない。」


 黒竜の血を色濃く受け継いだアルマは、何を言われても無反応で言い返しもしない。まるで自分はお前らとは違うとでも言いたげに。その姿は、父や兄が俺に課してきた理想像のようで。


 そんな男が幸せになんかなってくれるなよ。俺が否定した人格が幸せになったら、俺はどうしたらいいのか分からなくなるだろう。お前はずっと苦しんで、そのまま死んでくれ。


 穢れた血の意味も知らなかった婚約者に手酷く振られて傷付けばいい。

 

 これが俺の本音。

 さぁ、黒竜の婚約者よ、恐怖に顔を歪めてあいつを切り捨てろ。


「…………なんで、笑っていられる?」


 無様で幼稚な俺の思惑を打ち消すように、彼女は笑って馬鹿らしいと言った。

 

 なんで? どうして?

 そんなのおかしいだろ。あいつは幸せになんかなっちゃいけない存在だ。


「あいつに幸せになる権利なんてない。その点、俺ならお前を幸せにしてやれる。なんでも与えてやれる。俺を選べよ。」


 ――さぁ、早く……っ!!


「今の腑抜けた火竜なら、私は要らない。」


 彼女は強い意志を宿した瞳をした。それはまるで、戦いに臨む戦士のよう。されど残すのは優雅なカーテシーのみ。

 

 なんだあの女は。

 愛と呪いの両極端な花言葉を持つ黒百合みたく傲慢で。選べという俺を「いらない」と捨てる白百合のような威厳ある立ち振る舞い。黒竜の穢れた血に染まった訳じゃない。あれは本人が生まれ持った輝きだ。


「あはは、名前ぐらい聞けばよかった……。」


 この俺が振られるなんて初めての経験をするなんて。

 自分でもなんでか分からないが涙と一緒に笑いが止まらなかった。


「アルマ、絶対に勝ちなさい!! 負けるなんて許さないからっ!!」


 そんな彼女との再会は思いの外、早かった。

 なにを言ってもされても無反応だったアルマ・フェリタが、俺から婚約者の匂いがするというだけで喧嘩を売ってきたのだ。正直、驚きよりもこれが竜の特性というやつか、と落胆が大きかった。


 ――やっぱり、俺が受け継いだ竜の血は薄いのだ……。


 喧嘩が大きくなり第一演技場で武器を合わせている最中でも、戸惑っているように見えるアルマ。喧嘩を売ってきたのはそっちだというのに、愛剣を鞘から抜こうとしない体たらく。


 それがどうだ。

 ブーイングを送る野次馬の中から彼女の「勝て」という一言で、俺の得意とする魔法を簡単に切り伏せてしまった。


「セルティアっ!」

 

 突如として襲った大きな地震の中、真っ先に動いたアルマ。彼は婚約者を助ける為に崩落している瓦礫の中へ躊躇なく飛び込んでいった。


「きゃぁぁああーー!!」

 

 その隣には俺の婚約者ケルロッテ嬢も居て。

 一瞬、目が合ったように思う。ただ、俺は咄嗟に顔を背けた。俺は自身の命と天秤にかけ死にたくなかったから。

 

 幸いにもケルロッテ嬢は軽傷で助かったが、翌日には婚約を破棄して欲しいと申し出があり、承諾した。

 その時になってようやく俺は彼女の、セルティアが言った言葉を理解した。


『シャオン様。愛は貰うより与える方がよっぽど素敵なのですよ?』


 愛してもいない者から返ってくるものは何もない。まずは自分が愛さなくてはいけないのだと。


 ――だったら、君を愛せば君は俺を愛してくれる?


 セルティア・リリース。

 俺は君に振られて初めて胸の高鳴りを覚えた。

 これが恋なのか愛なのか、ただの興味本位なのか。俺には分からないけど、君が黒竜の婚約者だなんて勿体ないって事は確かだ。


 ――ゆっくり見極めてやるさ。


 例え、黒竜を相手取るとこになろうとも。

 今度は絶対に負けないから。

 


⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎

 


「シャオン。本当に推薦者を取り消していいんだね?」

「ええ。婚約破棄になりましたし。ケルロッテ嬢にとってもその方がいいでしょう。生徒会長は気に食わないでしょうけど。」

「そんな事ないよ。僕は同い年のシャオンとアルマを特に仲がいい存在だと思っているからね。」


 地震から数日、生徒会室に呼び出された俺は、こちらも同い年の生徒会長ルフォリオンと対峙していた。


「でも……、そうだな。もう少しいい勝負が見れるとは期待していたね。」

 

「期待外れで残念だ」と笑う男はアルマ以上に腹の内が読めない。丸眼鏡の奥は暗黒で、時々この男こそが悪魔なんじゃないかと錯覚する。


 腹黒いなんて可愛さはない。

 俺の本能が「敵に回すな」「隙を与えるな」と叫んでいる。


「それで、俺を呼び出すなんて本題があるのでしょう?」

「ああ、よく分かったね。」

「そりゃあ、長年お仕えしていますから。」

「そうだった。じゃあ早速だけど、今回の地震の原因を探ってくれ。」


 彼の真剣な眼差しが只事ではないと言っていた。

 でも、先の地震の原因を探るって、俺に地面の中を掘ってこいって言いたいのか?


「今回の地震はかなり妙なんだ。」

「妙、とは……?」

「あれだけ大きな地震なら、首都全域で災害が怒ってもおかしくない。なのに、落石が起きたのは我が校だけだった。」


 確かに、今回の地震で被害が一番大きかったのは第一演技場。首都ではいつも通りの微弱な揺れだったらしい。でもそれはソルドン王立学院が首都から少し離れた高台にあり、地震の影響を諸に受けたからだと聞いたが……。

 

「それはうちがオンボロ、いや、古い建物だからじゃないのですか?」

「僕は常に最悪を予期しているんだよ。」

「最悪、ですか。」

「ああ。今回の地震、故意的に起こされた可能性と僕は思っている。」

「――そんなことっ!?」

「ないとは言い難いよ。」


 国を揺らすほどの大きな地震を発生させるほどの魔法使いがいるなんて、あり得ない。そんなの竜の魔法があっても不可能だ。なのに、ルフォリオンは真剣なまま。

 いつもはのほほんとした笑みを浮かべて仕事もアルマに押し付けてばかりのこの男がそこまで言うなんて。


「そんな事が出来るやつなんて、神話で封印された悪魔ぐらいなんじゃ……、」

「そのまさかだよ。僕は近々、悪魔が復活する可能性があると思っている。」


 それが本当なら、俺に探らせたい地震の原因は、悪魔と繋がっている者を探れと言っていることになる。それも、そんな恐ろしいやつがこの学院にいると。


「で、でも、そう言うのは風の竜が得意な範囲ですよね!?」


 火竜は攻撃特化。

 戦闘向きであり、情報収集には向かない。それはルフォリオンも分かっているじゃないか。

 

「彼は今、他の用事で手一杯らしくて動けないんだ。それにこれは生徒会長としてじゃなく、この国、ソルドン王国第二王子としての頼みでもある。」


 同い年ということで昔から交流があったこの男。

 ルフォリオン・バルド・ヒュペリ。


 彼はこの国の第二王子で、王位継承権第一位の時期国王。光の竜の血を受け継ぐ者でもある。そんな彼は、あまりその名前で呼ばれる事を好かない。学院内では徹底的に自身を生徒会長と呼ばせているのがその証拠。


 そんな彼がその名を使うとは。

 

「調べてくれるかい?」

「そこまで、言われたら断れませんよ。」

「ありがとう。」

「じゃあ、俺は行きます。」


 この男との会話はいつも疲れる。

 頭の痛い話か腹の探り合いになるから。今は早くこの場から逃げ出してしまいたいと思う俺の背に、ルフォリオンは声を投げた。

 

「ああ……、言い忘れてた。今年は生徒会に二名の生徒を入れようと思っているんだ。指導よろしくね?」


 …………?

 今年の一年から役員に入れるのは一人と聞いていたが、一体誰を入れるつもりなんだ?


 まぁ、誰でもいいか。

 俺の興味は今、たった一人の女に向いているのだから。

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