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Abyss Eternal ; Golden Witch  作者: 川合 佑樹


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第8話

 やがて、酒場「鉄槌の杯」に辿り着いた。

 煤けたランプの揺らめきが、粗末な木卓を優しく照らす。

 湯気の立つスープ、黒パン、干し肉の皿が並び、魔女の獣どもを倒した余韻を、ほんの少しだけ息抜きに変えてくれる温かさが広がっていた。

 テオがジョッキを高く掲げる。

「よし、乾杯だ! 魔女のクソどもをぶっ飛ばして、俺たちは今日も生き残った! 明日も良き日を!」

 バルバドが低く喉を鳴らすような笑いを漏らし、干し肉を豪快に齧りながらテオの肩を叩く。

「テオ。次は俺の斧で、奴らをスライスしてやるよ」

 ミラがルークとジャックを交互に睨みつけ、ジョッキをテーブルに叩きつけるように置く。

「若造ども。酒はガンガン飲めよ。魔女にやられる前に、まずはここで男になれ!」

 ルークが慌てて背筋を伸ばし、照れくさそうにジョッキをグイッと傾ける。

 ミラの視線に負けじと一気に飲み干し、むせ返りながら咳き込む。

「はい、ミラ姉! ……けほっ!」

 ジャックが小さくクスクス笑い、ルークの背中を軽く叩く。

「へへ、ミラ姉の言う通りっすよ! 今日は潰れるまで付き合いますぜ!」  

 カイトはスープの湯気に頰を緩め、苦笑を浮かべてグラスを口に運ぶ。

 隣のリナが静かにパンをちぎり、視線を交わす。

 彼女の瞳には、戦場の灰がまだ薄く残っていたが、今は柔らかな灯りが揺れていた。

 ミラが突然、カイトの肩に逞しい腕を回し、グイッと引き寄せる。

 酒の匂いが混じった息が耳元にかかり、彼女の声がからかうように低く響いた。

「今回も頑張ったみてぇじゃねーか、カイト。ご褒美に、抱いてやろうか? たっぷり優しく、な」

 ルークの顔が一瞬で真っ赤に染まり、ジョッキを握った手が震えてスープにこぼれそうになる。

 ジャックがそれを見て腹を抱え、ゲラゲラと笑い転げる。

「ぷはっ! ルークの顔、トマトより赤ぇ!」

 バルバドも低くクックッと笑い、テオがジョッキを叩きつけて大笑いする中、カイトはミラの腕を優しく、しかしきっぱりどかしながら、腰のマシンガンを軽く持ち上げて見せつけた。

「悪いな、ミラ。俺のはコイツより凶悪だぞ?」

 マシンガンの黒光りする銃身を、からかうようにミラの鼻先に突きつけると、酒場に爆笑の渦が巻き起こった。

 ミラが目を細めて大笑いし、バルバドがテーブルを叩き、ルークの赤面がさらに深まる。ジャックは涙を拭いながら息も絶え絶えだ。

 リナがそんな仲間たちの輪を眺め、静かにカイトに囁く。

「楽しそうな仲間たちだな。君の周りには、いつもこんな空気が……羨ましいよ」

 カイトがリナに視線を向け、穏やかに頷きかけたその時、二人の間からひょこっと小さな影が顔を出す。

 十三歳ほどの少女、エラだ。

 茶色の短い髪を揺らし、腰の双眼鏡を軽く叩きながら革鎧の裾を払う。

 灰の回収任務から遅れての合流だったが、息を弾ませて卓に駆け寄り、無邪気に手を振った。

「みんな、ごめん! 待たせちゃった! カイト、魔女の灰、回収しておいたよ。ほら、これ!」

 エラが布袋をカイトに差し出す。

 中には、ガルフィアの残骸から採取した青みがかった灰が、丁寧に詰め込まれていた。

 カイトはそれを受け取り、軽く頭を下げて微笑む。

「ありがとう、エラ。助かるよ」

 テオが即座に空いたグラスを彼女に押しやり、陽気に肩を叩く。

「おう、エラ! 遅ぇぞ、罰として俺の隣で肉食えよ。今日の英雄はガトリングのカイトと、エラだ。ほら、遠慮すんな!」

 エラが頰をぽっと赤らめ、テオの隣にちょこんと座る。

 小さな手で干し肉を掴み、ガツガツと齧りながら双眼鏡をテーブルの端に置いた。

「わーい、ありがとうテオ!」

 テオが皆の笑いが収まったところで、グラスを軽く回しながら声を張る。

「ところでよ、火薬庫の件だけど……襲われたのは間違いねえ。でも、エラが事前に察知して、大半を先に移動させていたおかげで、最悪の事態は避けられたぜ。爆炎は派手だったが、被害は最小限だ」

 カイトはスープの匙を止め、ゆっくりと息を吐く。

 あの爆発の規模を思い返せば、もし火薬がそのままなら……。

「そうか……実際に火薬庫が直撃していたら、あの辺り一帯は火の海だったはずだ。エラ、お前のおかげだ。本当に、よくやった」

 エラが目を輝かせて首を縮め、頰をさらに赤らめる。

 テオがエラの肩に大きな手を置き、ジョッキを彼女のグラスにカチンと合わせる。

「そうだぜ、エラ。お前にも乾杯だ! 俺たちの小さな英雄に!」

 リナがエラに視線を向け、珍しく柔らかな微笑を浮かべる。

「あなたがいなかったら、被害はもっとひどかったわ。ありがとう、エラ」

 エラが照れくさそうにグラスを掲げる。

「えへへ……。みんなで勝ったんだよ! 次もがんばろ!」

 酒の苦みが喉を滑り、笑い声が霧のように酒場に広がる。

 外の風に、遠い角笛の音が微かに混じり――新たな夜の予感を、静かに運んでくる。


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