第7話
倒れた敵のリーダーの体が横たわる。
テオが腰の鞘から短剣を引き抜き、男の左手へ滑らせる。
親指の付け根に刃を当て、一閃。
骨の砕ける乾いた音が響き、血が噴き出す。
男の悲鳴が鋭く裂け、体が痙攣する。
リナが顔をわずかに逸らし、唇を噛む――その瞳に、わずかな動揺がよぎった。
一方、カイトは、敵の増援気配を探る。
「火薬庫の狙いは? 魔女の数は?」
テオの声は低く抑揚なく、しかし陽気な調子を残す。
男の顔が蒼白に歪み、歯を食いしばって黙り込む。
テオの笑みがわずかに深くなり、再び短剣を男の指へ――今度は人差し指を狙い、刃をゆっくり押し込み、皮膚を裂く。
男の体が再び痙攣し、抑えきれない悲鳴が漏れる。
「魔女の正確な位置は?」
男の抵抗が崩れ、震える声で吐き出す。
「ぐあっ……魔女様の……計画は……倉庫に……獣を召喚……三体、獣を……!」
その言葉が途切れた瞬間――倉庫の方から、爆音が轟いた。
ドゴォン!
炎の柱が夜空を焦がす。
火薬庫が、爆炎に飲み込まれる。
破片が飛び散り、熱風が路地を駆け抜ける。
煙の黒い壁が視界を塞ぎ、耳鳴りが響く中、カイトは風向きを瞬時に読み、路地の壁際にリナを押しやりながら身を低くした。
二次爆発の熱波が迫る前に、ポジションを確保した。
「何、あれ……!」
彼女の声が、鋭く響いた。
弓を即座に構え、煙の向こうを睨みつける。
テオの目が細まり、即座にカイトを振り返った。
煙の向こうの爆炎を睨み、低く吐き捨てる。
「倉庫だ。カイト、お前とリナで偵察を急げ。俺は後衛のバルバドたちと憲兵を呼んでくる。合流は倉庫の東側路地」
カイトは状況を即座に飲み込んだ。
「魔女様ぁあ! こいつらに……死の鉄槌を!」
「うるせぇ」
テオの剣が閃き、男の首を冷徹に刎ねる。
頭が転がる音が響く。
彼は剣を拭い、立ち上がる。
「無理はするな。勝てなさそうなら逃げろ。援軍の角笛が鳴ったら、即合流だ」
明るい笑みを残し、彼は奥へ消えた。
カイトとリナは、爆炎の熱気を背に倉庫へ向かう。
炎の轟音が耳を圧し、煙の臭いが肺を焼く。
リナの弓が構えられ、カイトの短銃が握られる。
二人は倉庫の崩れた壁に身を寄せる。
煙の向こうに、青光がうねる。
そこに、魔女がいた――ぼろ布を纏い、杖を掲げ、三体の狼型召喚獣が周囲を徘徊する。
獣の鼻が、爆炎の熱気の中でも鋭く動き、二人の存在を嗅ぎつける。
低いうなりが響き、赤い目が貫く。
「わらわはガルフィア、獣の魔女なり!」
カイトが応じる。
「傭兵カイト、お前を穿つものなり」
戦闘の火蓋が切られる。
彼は銃声を響かせる。
バン! バン!
狼一匹の頭を撃ち抜き、続けて胴体の急所を撃ち抜いた。
獣の体が痙攣し、地面に崩れ伏す。
リナの矢が放たれる。
シュッ!
二番目の獣の目を貫く。
カイトは即座に弾道を補正しながらフォロー射撃――バン! と一発を獣の急所に叩き込み、倒す。
「あなたは魔女を! 獣は私が!」
彼女の叫びに、カイトが応じた。
「了解。だが、まずは様子を見る」
彼の目は冷静にガルフィアを射抜いた。
杖の動きを予測する。
ガルフィアの肩を狙い、バン!
一発がぼろ布を掠め、青の血を散らす。
「……わらわの従魔を舐めるなよ!」
残りの狼が唸りながら飛びかかる。
リナの矢が喉元を射抜き、倒す。
だが、魔女の杖が閃き、青の光が爆発的に広がる。
「影に蠢く牙と翼よ、飢えを抱きて集え」
「我が血肉を門として飛び立て――《ナイト・スウォーム》!」
呪文が響き、新たな魔物が湧き出る。
黒い羽音が倉庫の空気を切り裂き、十数匹のコウモリ型従魔が一斉に飛び立つ。
カイトの唇がわずかに上がった。
「新武器、使ってみるか」
彼は背中の鞄から、手回しのマシンガンを取り出す。
リナが後退し、弓を構え直す。
「何だそれ……!」
「援護を頼む。獣の残りを抑えろ」
彼は柄を素早く回し、銃身が唸りを上げる。
前世のガトリング銃を基に、セラフィナの魔力結晶で蒸気圧を強化したこの武器は、回転機構に魔力を注入して耐久を倍増させる。
ガトリングの回転音が倉庫を震わせ、連射音が爆発的に響く。
ダダダダダッ!
弾丸の雨がコウモリ群の大部分を蜂の巣にする――が、数匹が煙の隙間をすり抜け、カイトの背後に回り込む。
黒い羽が血しぶきとともに散る。
狼の残りも巻き添えで蜂の巣にされ、地面に転がる。
リナが即座に弓を構え直し、鋭い矢を放つ。
シュッ! シュッ!
残りのコウモリを喉元と翼に射抜き、地面に落とす。
流れ弾の数発がガルフィアの腹を掠め、青の血が噴き出す。
「ぐあっ……なんだ……!」
彼女はうずくまり、杖を支えに膝をつく。
召喚の光が揺らぐ。
その隙を、カイトが見逃さなかった。
短銃をホルスターに戻し、素早くシリンダーを開いて魔女弾を装填した。
だが、ガルフィアの杖が再び輝きを増し、残りの魔力が渦を巻く。
彼女の唇が呪文を紡ぎ始める――新たな召喚の予兆だ。
コウモリの残骸が蠢き、青光が再燃しようとする。
その瞬間、後ろから剣の風切り音が響き渡った。
テオだ。
東側路地の合流点から、援軍を従えて駆けつけた――バルバド、ルーク、ミラ、ジャックの四人が弓を構え、即座に援護射撃を浴びせる。
シュッ! シュッ!
矢の雨がガルフィアに次々と突き刺さる。
矢羽が魔女の肩を掠め、青の血を散らし、彼女の呪文を一瞬乱す。
テオは巨大な両手剣を振り上げ、後ろからガルフィアに肉薄。
一閃が、魔女の杖を薙ぎ払う勢いで迫る。
刃の風圧が青光を裂き、ガルフィアの体勢を崩す――大剣の重みが空気を震わせ、彼女の視線を後方へ引きつける。
「カイト、撃て!」
ガルフィアの目が見開かれ、悲鳴が途切れる前に、カイトは確実に当たる距離へ滑り込む。
バン!
魔女弾が頭部を撃ち込み、赤黒い血煙が内側から蝕む。
煙の粒子が肌に食らいつき、骨まで溶かす抑制の呪いが発動する。
最後の抵抗で青光を放とうとするが、彼は通常弾を即座に撃ち込んだ。
バン!
額を貫き、ガルフィアの体が倒れ込む。
青光が散り、獣とコウモリの残骸が静まる。
勝利の静けさが、爆炎の残響に溶ける。
バルバドが弓を下ろし、息を吐きながら肩を回した。
ベテランの目が死体を一瞥し、いつもの低い笑い声を漏らす。
「ふん、魔女の獣どもも大したことねえな」
ミラがジャックとルークを軽く睨み、声を張る。
「おいおい、若造ども。怪我はねえか? ルーク、足元見て走れよ。ジャック、まだ油断すんな」
ルークが照れくさそうに頭を掻き、ジャックが小さく笑う。
「へへ、ミラ姉の言う通りっす」
テオが剣を拭い、息を荒げて皆に笑いかけた。
カイトは短銃を収め、マシンガンを背負い直す。
バルバドがカイトの肩を軽く叩き、からかうように言った。
「お前さんの新玩具、派手だったな。次は貸せよ、試してみてえ」
カイトは苦笑し、軽く手を振る。
「それはご法度だ、バルバド。命が惜しけりゃな」
テオがカイトの腕を叩き、ため息混じりに周囲の残骸を見回す。
「火薬全部燃えちまったなぁ……上から怒られるんだろうなぁ。まぁ、しょうがねえか」
テオの明るい笑いが、皆を促すように路地を指差す。
「さ、行こうぜ。報告の前に一杯やるか」
消防隊の喧騒を背に、傭兵たちは街路へ足を踏み出す。
廃墟の静けさが息を吹き返す。




