第4話
十年前。
世界はカイトを変えた。
彼女の工房で、魔女の殺し方を教わったのは、転生して間もない頃だった。
工房の光の下、ホムンクルス・スライムが青く輝きながらカイトの試作品を眺めている。
マシンガンの手動ガトリングを回す練習中、ふと口を開いた。
「セラフィナ、俺にも魔法って使えるのかな……前の世界じゃ、そんなの夢物語だったけど」
魔女は細い指でスライムを撫で、瞳をカイトに向けた。
「ふふ、使えるかもね。でも、魔力ってどこに宿ると思う?」
カイトは首を傾げた。
「魔力って……どこに宿るんだ?」
彼女の声が、蜜のように甘く響く。
「血に宿るのよ、カイト。魔力は全身を駆け巡っているの。それ故に魔女が他の魔女の血を飲むと、魔法が使えなくなってしまうの。強力な魔力干渉――絡みつく糸が、互いに食い合ってね」
カイトは息を呑んだ。
セラフィナはニッコリと笑い、カイトの首筋に指を滑らせた。
「あなたが魔女だったら、私はとっくに死んでるわね」
その言葉に、胸が熱く疼き、頰が一気に火照った。
セラフィナの指先から伝わる魔力の温もりが、前の世界の凄惨な記憶さえ溶かすような幻を呼び起こす。
目を逸らし、言葉に詰まるカイトの鼓動が、工房に響くほどに速くなる。
「そ、そんな……セラフィナ……」
彼女の瞳が妖しく輝いた。
カイトの震えを優しく、しかし貪欲に溶かした。
翌日、魔女は工房に一体の魔女の死体を運び込んできた。
「研究をしましょうか」
カイトたちは骨を砕き、血を混ぜ、肉を固めて弾を作った。
砕ける音が耳に残り、前の世界の爆撃の記憶がフラッシュバックする中、セラフィナの無表情な手つきに罪悪感が募る。
強力な魔力干渉を宿した、切り札の誕生。
実戦は、すぐに始まった。
魔女狩り──五十体。
雨の降りしきる森で、最初の標的を追う夜。
ガトリングの軋む音が闇を裂き、魔女の呪文が木々を焦がすが、弾一発で彼女の血が噴き出し、魔法の糸が絡みつくように崩れ落ちる。
味方の叫びが響き、泥に塗れた手で死体を運ぶ重み。
十年で四十発の弾を作成できた──限界の証。
彼女の笑顔だけが支えだった。
あの核心の瞬間──工房の奥、セラフィナはカイトの目を見つめた。
「カイト、石を手に入れたら、私たちは永遠に結ばれる――呪いから逃れ、別れの鏡に映る影として」
その声は蜜のように甘く、母性と恋慕が溶け合う。
カイトは胸の鼓動を抑えきれず。
「セラフィナ、約束だ。君の夢を叶えよう。俺のすべてを、君に捧げる」
取り戻す。
必ず。
夕陽が市場を赤く染め、魔法灯がぽつぽつと灯り始める。
喧騒が静まり、死体の片付けに傭兵団のざわめきが混じる。
皆の疲れた視線が交錯する中、魔女の残党の噂が囁かれる。
テオの陽気な笑い声が遠く聞こえた。
現実の重みが、カイトの肩にのしかかる。
遠くの影が、再び動く。
風に混じる血の匂いと、魔女の呪文の残響が肌を刺す──待ち伏せの罠か、それとも大規模な反撃の先触れか。
魔女の気配か?
いや、次はもっと大きな敵だ……。




