第24話
イナの民の屍が転がり、ドラゴン部隊の残骸が空から落ち、ルプスの山岳が砲煙に黒く焦げついていた。
トマヤの盾兵たちの盾が、折れ曲がり、地面に突き刺さった槍が、青の血と赤の血を混ぜて川のように流れ出していた。
風が運ぶのは腐臭と鉄の味だけだった。
聖戦の果てに残るのは、勝利の幻影ではなく、ただの絶望の残渣――大地が、癒えぬ傷を刻まれていた。
その時、空を裂くように赤い照明弾が上がった。
盾の王国、トマヤからの合図だった。
石が盗まれた。
知る者はごく一部、テオの瞳がその意味を即座に読み取った。
傭兵の隊列が、剣戟を交える中、彼の声が雷鳴のように轟いた。
「全隊、戦闘中止! 合流地点は森影の第三岬、負傷者は優先回収! 命を落とすな――生きて復讐の機会を掴め!」
テオの剣が鞘に収まり、傭兵たちが即座に陣を崩した。
テオはエラの肩に軽く触れ、合図を送った。
「お前はルートを先読みしろ。俺が先導する」
二人は連携を崩さず、脱出した。
テオが岩陰を転がり、地形を活かした迂回路を即座に選び、エラが背後を振り返りながら低く指示を飛ばした。
「左の岩棚、崩落の兆しあり!」
砲煙の死角を抜け、遠くの森影へ身を滑らせた。
背後で、砲撃の残火が爆ぜたが、テオの足は止まらなかった――地図を頭に刻んだルート沿いに、味方の後衛が次々と合流し、損失を最小限に抑えた。
二人は第三岬に到達した。
息を切らさず、周囲を警戒しながら、残存隊の点呼を取った。
霧の聖櫃。
船内の玉座の間は、祈りの残香に満ちていた。
リテンの教徒たちが、勝利の賛歌を謳う中、王の玉座に、白いローブの影が寄りかかるように座っていた。
エルドリックは玉座の王を冷徹に睨む。
王の声が響いた。
「エルドリックよ、よくぞ戻ってきてくれた」
その手は安堵の震えに包まれていた。
額に冷や汗を浮かべ、指先が玉座の肘掛けを白く握りしめていた。
王の瞳に、勝利の陶酔と安堵の余韻が交錯していた。
その傍らに――意外な人物が立っていた。
それはリナだった。
革鎧を脱ぎ捨て、白いローブを纏い、弓を脇に置いていた。
黒髪が霧に溶け、瞳に十字の光が宿っていた。
斥候のクールさが、信仰のヴェールに変わっていた。
彼女は王を見据え、言葉を紡いだ。
「王よ、あまり調子に乗らないことだ。まだ期限まで時間はある」
玉座の前に、黒い絹の箱が置かれていた。
賢者の石の輝きが、漏れ出していた。
青い炎が、船内の空気を震わせていた。
外の空で、砲撃の轟音が遠く続いていた。
イナの人海の屍、ルプスのドラゴンの折れた翼、トマヤの盾の砕け散る残骸――酷い戦乱の記憶が、船を包んでいた。
天秤は、完全に傾いていた。
聖櫃のエンジンが、うなりを上げ、船体が霧のヴェールに溶け込んだ。
残り一週間――新たな追撃の幕開けか、それとも終わりか。
リテンの王国は、ようやく息を吹き返した。
聖戦の嵐が収まり、新たな時代が芽吹いた。




