表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Abyss Eternal ; Golden Witch  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/24

第21話

 トマヤは砲声の予感に震えていた。

 イナの斥候たちは、数日前から不穏な空の揺らぎを報告していた――リテンの空中要塞「霧の聖櫃」が、霧の王国領から南下を開始したという噂。

 石の期限が迫る今、王国は最後の賭けに出た。

 浮遊の魔女のコアを核とした飛行機構は、青白い魔力の輝きを放ちながら、補給船団を伴って進軍。

 甲板に翻る聖戦の十字旗は、狂信のプロパガンダを象徴していた。

「神の意志により、異端の盾を、浄化せよ!」

 船上から、神父たちの祈りが拡声管で轟く。

 教徒部隊――白いローブに十字の刺繍を纏い、瞳に狂気の炎を宿した五百の影――は、要塞の側面からロープを垂らし、降下の合図を待つ。

 石の魔力は強力だが、持続時間は限界を迎えつつあり、要塞の機動性はすでに補給船の遅れで鈍り始めていた。

 爆音が空を裂いた。

 ドドン! ゴロゴロ……。

 聖櫃の砲口から、聖油の火球が雨のように降り注ぐ。

 ナパームを思わせる橙色の炎弾は、城壁の外郭を直撃し、大地を舐め取る。

 煙幕が視界を塞ぐ中、農村のイナ軍――主に農夫と民兵で編成された人海の守備隊――はパニックに陥った。

「……神の罰だ! 逃げろ!」

 一人の農夫が、火球の直撃で体を溶岩のように溶かされ、肉の焦げ臭いが風に乗って広がる。

 悲鳴の合唱が響き、逃げ惑う群衆は互いに押し潰し、泥濘の道に倒れ伏す。

 炎の壁は城壁への退路を塞ぎ、守備隊の士気を砕く。

 その隙を突き、教徒部隊の降下が始まった。

 数百の教徒が地上へ滑り降りる。

 だが、着地は決してスムーズではなかった。

 方向を見失い、数名がロープから滑落、岩肌に叩きつけられて骨の砕ける音を立てる。

 生き残った者たちは即座に散開し、祈りの盾――魔力で強化された薄い障壁――を構えて廃墟に身を潜める。

 イナの守備隊は、混乱の中でようやく反撃を開始。

 投石機が唸りを上げ、石塊が教徒の集団を薙ぎ払う。

「異端よ、悔い改めよ! 石は神の恵みだ!」

 一人の教徒が、投石の直撃で槍のように串刺しにされながら倒れる。

 狂信の連鎖――死が信仰の糧となり、前進を促す。

 剣を抜いた教徒たちは、煙幕の隙間を縫ってイナの波に突っ込む。

 白兵戦の混沌が広がり、剣戟の衝突音が反響する。

 テオは剣を構え直し、冷徹に観察する。

「リテンか。東の連合傭兵に伝令を――東側で火球の死角を突き、側面から対空を集中。俺たちはコアの揺らぎを待つ」

 エラは双眼鏡を構える。

「船の下面に、石のコア。青く光ってる……砲撃の源よ。魔力の揺らぎが確認できる。狙えば、墜落の可能性が高いわ」


 カイトは一人、聖櫃のシルエットを睨んだ。

 テオの伝令が届く前に、カイトの頭に同じ判断が閃いていた――コアの弱点を突く。

 銃の重みがカイトの肩に決意を刻んだ。

 廃墟の瓦礫から回収した鉄管と火薬で、即席の対空砲を組み立てる。

 彼の手が素早く動き、揺らぎを計算に入れた角度で固定した。

 孤独の重みが、カイトの静かな覚悟を深めた。

「あれを食い止められれば、城壁の援軍が来る……」

 リテンの聖戦は、大陸を縦断していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ