猫とコーヒー
私は猫です、私には名前が二つあります。
一つは前の飼い主にもらった名前と、もう一つは今の飼い主にもらった名前と私が人だった時の名前。
三つあるように聞えるけれども、私が人だった時の名前と今の名前が同じなのです。
それが偶然なのか、それともわかっていて名付けたのかは私にはわかりません。
人だった時の私を知ってる彼が気が付いたのか、それともなんとなくつけたのか、とても気になるところです。
私が人だった時、彼はよく私の後ろにいて泣いていた気がします。
たまに姉と弟だと勘違いされることもありました。
でも彼が私より大人なところが一つだけありました。
彼はいつも見せつけるように私にコーヒーを飲む姿を見せるのです。
彼の両親がコーヒーが好きなのがきっかけなのでしょう。
彼はいつもコーヒーの匂いをまとわせていました。
一度彼のコーヒーをもらいましたが、私には苦すぎると彼に返すと、彼は笑って勝ち誇った顔をしました。
私がむっとした顔をしたら彼はちょっと驚いた顔をのあと少しだけ涙が出てました。
それに気づいて私はまた彼を慰めました。
少し大きくなってからもなく頻度は少なくなったけれどもそれでもよく一緒にいた気がします。
それこそ私が死ぬときも一緒にいました。
私がなんで死んだかをよく覚えていませんが、病院だったのでたぶん病気なんだと思います。
それから暗い所にいて一緒に何かがもぞもぞと動いていました。
どこにいるのか考えようともしましたが、いつも頭がぼーっとしていて考えることができませんでした。
ある時強い光と一緒に私は外に出ました。
外に出てしばらくは目がちゃんと開かなったけど、開いたら時には私の目の前には大きな猫がいました。
何かおかしいとは思いましたが、まだ頭がきちんと回りませんでした。
だんだんと自分が猫になったんだと悟りました。
私が新しく生まれたのは親子仲いい家族の飼い猫からでした。
子供は私が死んだときと同じくらいの年頃の子でした。
元気な女の子は私たち兄弟姉妹をいつも嬉しそうに抱きしめて愛でてくれました。
それはとても幸せなひと時でした。
猫としての生を謳歌しているうちに人であったことを忘れていました。
しかし、その幸せは永く続くことはありませんでした、
なぜそうなったのかはわかりません。
ある時から家族の空気が悪くなってきたのがわかりました。
それからしばらくして私は捨てられました。
女の子が最後に変わりの人を見つけられないことを謝っていました。
きっとほかの兄弟姉妹たちはほかの人に引き取られたのでしょう。
そういえば前に何人かが私たちのところに来てたのを思い出しました。
いったいなぜ捨てられたのか、そんなことを考えても仕方ありませんでした。
私はただ鳴くだけでした。
待ってと、置いていかないでと、
立ち去る時のあの子の悲しそうな顔が今でも忘れられません。
その姿が見えなくなっても私は鳴き続けました
のどが痛くなるくらい鳴いた後、彼が来ました。
昔と変わらないコーヒーの匂いをまとわせながら、私に手をさしのべました。
涙が出そうになるのを抑えながら私はゆっくりと彼の手に頬を寄せました。
そうして、私は新しいお家に迎え入れられました。
私が最初に死んでから随分と月日がたっていたのか、私より小さかったのにお父さんより身長が高くなってました。
少しばかりかっこいいと思ってしまったのは内緒です。
彼との生活はとても穏やかでした。
彼は今でもコーヒーが好きで、いつしか自分のお店を持ちたいと猫の私に何度も言ってくれました。
昔と変わらない無垢な笑顔でした。
彼と再会して嬉しかったのは、彼がいまだに私の写真を置いていてくれていたことでした。
ですから私はあえて写真の横でよく寝ていました。
時折彼の友達が来ては私を撫でようとするのですが、彼と彼の家族以外に触られるのは嫌でした。
幸せでした。
しかし猫としての寿命というのは人間と比べるとひどく短いものです
もう一度、彼に看取られ私は逝きました。
もっと一緒にいたいし、彼と一緒に年老いていきたいと思っていたので残念でした。
もう一度生まれ変わる保証はありません。ですからもう一度私のために泣いてくれる彼を名残惜しく思いながら見ていました。
二回目だからか、とても冷静に見ていました。
実はちょっと癖になってしまったのは内緒です。
しかし、意外と奇跡というのは私の予想以上におこってくれるものでした。
もう一度神様はチャンスを与えてくれました。
こんどは人として生まれましたが、生まれてからしばらくの間記憶はありませんでした。
驚いたことに今の私の名前と最初に人であった時の名前が同じだったのです。
そんな私が8歳になったころ、両親の仕事で引っ越した時に引っ越しの作業が終わった後にみんなで近くのカフェに行ったときに、ずいぶんの嗅ぎなれた匂いがしてきました。
すんすんと鼻を鳴らしていたら、両親に怒れました。
と、その時の聞えた声に私はハッとなりました。
もう何度も聞いた声。いくら年老いてしゃがれていても、聞き間違えることはありません。
ああ、なんて幸運なんでしょう。
何度生まれ変わってもあなたに会えるなんて。
小躍りしそうなのを必死に抑えつつ。
両親やその友達がおしゃべりに夢中になるのを待って席を立ちました。
こっそりと彼の前に座わると、彼は懐かしそうな顔をして私を見ていました。
もしかして私に気が付いてくれてたらいいなと思いつつ、私は彼に笑顔で尋ねてみました。
「ねぇ。猫を飼ってませんでした?」
初投稿ですので、もしよろしければ評価などいただけると幸いです。




