第3話:一ノ瀬直也
盛岡行きの新幹線は、昼下がりの陽を大きな窓から受けて、静かに北へと走っていた。
座席のテーブルに置いた一冊の雑誌――『ニューズデイズ』。
表紙の自分の顔が、どこか他人事のように見える。
最近は、通勤のときも、こうして出張に出るときも、伊達メガネを欠かさなくなった。
少しでも人目を避けるための、小さな工夫だ。
――記事が出て以降、街で声をかけられることが格段に増えた。
GAIALINQの認知度向上の為の広報戦略だと割り切っているものの、ただ煩わしいだけだ。
現場を知る日本JVチームが懸念していることは、痛いほど理解している。
玲奈も同じような観点からもうずっと懸念をオレに繰り返していた。
この特集記事で、現場のフラストレーションはさらに高まったはずだ。
「上ばかり見て、泥臭い現実を知らない若造」――そう言われるのは目に見えている。
だが、それも承知の上だった。
従来のようにGAIALINQのロジックを語るだけでは、温泉街の一人ひとりの住民を納得させ、自治体を動かすことはできない。
地方経済の疲弊は、すでに三十年以上続いている。
人口は減り続け、高齢化は加速度的に進む。
不足する労働力を埋め合わせるためだけに、安易な「移民政策」をなし崩しで進める――そこに見えるのは、目先の帳尻合わせばかりで、中長期の戦略を欠いた日本の姿だ。
――このままでは、どんな理屈も通じない。
だからこそ、今日の「お忍び」の視察を決めた。
目的地は盛岡郊外。八幡平にも近い場所に、数年前、ライバルの総合商社・伊東注が開発した「複合型シニアタウン」がある。
保奈美が言ってくれた「サンタローザのホスピスのような施設」。
その理想と、日本で民間主導で進められた高齢者福祉の現実――その対比を、自分のこの目で確かめる必要があると思ったのだ。
窓の外に広がる、まだ雪の残る山の稜線を眺めながら、オレは思う。
――机上の理論ではなく、現場の現実を。
そこからしか、GAIALINQの次の道は拓けないのだ、と。