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コメディ、その他+α(短編)

私達の愛する大切な皆さん〜ゴージャスでファビュラスな姉妹からの予告状 〜

作者: いのりん

・過日、Xでバズっていた内容にインスパイア

・特に中村颯希先生の引用リポストの影響大

・金曜〇ードショーのOPを流してからどうぞ

 マツドナカムラ(MATUDONAKAMURA)


 1926年に松戸へ移転し、日本初のダイヤモンド専門書を発刊した日本の老舗ハイジュエリーブランド。勇壮で壮大なその旗艦店内には、限定会員であるセレブ以外は基本的に立ち入ることができない。


 しかし本日、その広大な店内には多数の警官が押し寄せていた。


「警部さん、本当にこの警備の中、来るんですかね」

「必ず来るでしょう、怪盗と長年闘い続けてきた俺の勘がそう言っている」


 支配人から警部さんと呼ばれたグッドルッキングガイの名前はガニマータ。

 その名前が示す通り、彼は日本人ではない。

 怪盗の本場、フランスから派遣されてきたICPOのエリートで凄腕だ。先日フランスで、小回りが利きウサギのエンブレムがトレードマークの大泥棒、ラパンを捕まえた実績を持つ。


 そう、本店は現在、怪盗から予告状を出されているのだ。


「しかし正直、本店内のどの宝石よりもこの予告状の方が、ずっと価値があると思ってしまうのは私だけでしょうか……」


 数々の『本物』を見てきた支配人がそう唸る、宝石模様の蝶があしらわれたファビュラスでゴージャスな予告状には、それ以上にふつくしい女性的な筆致でこう書かれていた。


☆☆☆☆☆☆☆


 ~私たちの愛する皆様~


 秘宝クレイジーダイヤモンド、その他もろもろを頂きに参ります。


 全ての人が求めているような「宝石」ですが、本当は誰もが着用しなければならないものではありません。その人にとって興味がなければ一生しなくても構わないものなのです。


 カノウ・キョウコ (妖艶なキスマーク)


☆☆☆☆☆☆☆


「まったく、この国の怪盗姉妹はどんな神経をしている!目当ての宝石以外にもいろいろ頂いていくだと!?しかも予告時刻は夜ではなく早朝だ(プレシャスモーニング)!!」


 憤慨するガニマータ。しかし、頭はクールで、警備は完璧だ。

 秘宝クレイジーダイヤモンドが飾られているのは店内のど真ん中、予備電源は完璧、カーテンも開け日光も入っている。そして現実世界は漫画の様に完璧な変装などできない。どこからでも来るがいい。

 こんな案件さっさと片付けて、長年取り組んでいるDVクソ男事案に速く戻らねば!


 そう思っていると、正面玄関の前に白いリムジンが止まった。

 リーゼントパーマの東洋系グッドルッキングガイが下りて、車から店内まで赤いカーペットを広げる。


「いやなっ?!」


 いやなにをやっている貴様!と突っ込もうとしたガニマータは途中で固まった。なぜなら、リムジンから二柱の美の女神が降臨してきたからである。


 グレートでスよ

 こいつはぁ~~~~~っ


 なにせその二柱、顔が凄くいい。

 先を歩く女神は強い意志を感じる眼差しで輪郭もシャープな印象。薄い皮膚の下に形の良い骨格を感じる顔立ち。PDファッショナブル。

 それに一歩下がって寄り添う女神は、慈愛に満ちた目元。頬にはいつも微笑を絶やさないような丸みがあり、全体的にカーブを感じる。PDロマンス。


 そしてその二柱、首から下だって物凄い。

 グラマラスなボディラインに、全身ピンクのハイブランドドレス。ラグジュアリーな雰囲気を全身に纏っている。そこに大ぶりのサングラスや、ジュエリー、アクセサリーまで身に着けて非常にゴージャスだ。


 警備にあたる全員があっけにとられているうちに、女神たちはレッドカーペットの上を優雅にあるき、クレイジーダイヤモンドの前まで進む。

 前を歩く姉の方と思わしき女神はショーウインドウ前でついと指を滑らして、言った。




「ここからここまで、全て頂くわ」








 宝石のラッピングは警備の警官も、支配人も、ガニマータも総出で行っていた。


 何せここはハイブランドの宝石店。

 そのままハイどうぞと渡すわけにはいかず、量も多かったから。

 そして何より、バルコニーでカプチーノを飲んで待つ姉女神を、あまり待たせるわけにはいかなかったからだ。


 慣れない作業にもたつく警官たちを見かねてか、妹女神が手伝ってくれた。手慣れた様子で11個にも及ぶルイ・ヴィトン製のハードケースに宝石達をパッキングしていく女神。なんと優しく、しごでき妹なことか!


 パッキングが完了すると、妹女神は言った。

 『お姉さま、皆様、お疲れさまでした。』


 ガニマータは思う。なぜ、東洋系ガイにかしづかれ優雅にカポプチーノを楽しんでいた姉にも『お疲れ様』なのか。その表情を読み取って、姉女神はやさしく教示(レクチャー)してくれた。


 『疑似体験なのよ。ミカさんがやったから私がやったのと同じ』


 そうだったのか!

 ガニマータは自分の浅慮に顔から火が出そうだった。




 怪盗姉妹に宝石を頂戴されてしまったことにガニマータたちが気づいたのは、全員総出で90度のお辞儀をしてリムジンを見送った後だった。


 「まんまとしてやられた!」

 「いえ、警部さん、これで良かったのです」



 支配人は言う。予告状に書かれていた通りだと。

 最近、自分たちは老舗ハイブランドの誇りを忘れ、営利目的に走りすぎていた。『本当は好きでもないのに自己顕示欲のために宝石求める客』に迎合しすぎていた。宝石とは、それが本当に好きで似合う女性にはタダで差し上げても良いと考えなければならないのに……


「それを教えて頂いたから、持っていかれた分はいい勉強代です。」


 と、そこに警官がやって来た。

 

「警部、大変です。こんなものが!」

「こ、これは……!?」


 一同は目見開く。それは小切手だった。実は、女怪盗のミカは帰り際に胸の谷間から小切手を出して、警官に渡していたのだ。

 全員、頭がのぼせていたり、視線が谷間にディレクションされていたり、血流が頭以外の箇所に過集中していたりで全然気づかなかった!


 そして書き込まれていた額は、姉妹が持ち帰った宝石の総額よりも桁が一つ多かった。


「これでは被害届など出しようがありません」


 まんまと宝石を頂戴しながら、店の利益と俺たちのキャリアも守るだって!?

 なんてエレガントなんだ!!


 そういって感涙にむせび泣く支配人や警官たち。

 しかし、グッドルッキングガイであるガニマータは別の事を考えていた。


(何を言っているんだ。あの姉妹、それ以外にもとんでもない『もろもろ』を頂戴していったじゃないか。)






 そう、ガイたち全員の心です!




 ホテルニューナカムラ千葉


 1964年、東洋一の規模を誇る国際ホテルとして創業。国際サミットのメイン会場を歴任し、ミスタープロ野球の結婚式にも使用されるなど日本を代表する超一流ホテルである。そのスーパースウィートルームに今、怪盗姉妹はいた。



 面会希望者がいるのですが、いかがいたしましょう。

 スィートルーム専用のコンシェルジュから聞かれ、キョウコは短く答える。


「いいわ、通して頂戴」



 面会者はガニマータ警部だった。

 警察が根城(城よりも絢爛)まで追ってきたという状況。

 しかし、姉妹は一切動じることがない。なぜなら恋泥棒の二人をガイが追ってくるのは日常茶飯事(よくあること)なのだから。


 一方のガニマータはというと、自分の中のよく分からない感情に翻弄されていた。怪盗はエレガントに宝石を持ち出し、店は被害届を出さなかった。なら、自分はこれ以上彼女たちを追う理由はないはずだ。しかしここまで来てしまった。


 生まれてから今まで、恋愛面ではずっと女性から追われる側だった彼は、自分の本心が分からず、こんな時なんといっていいか分からない。


「匂うわね」

「なっ?」


 口ごもっていると、キョウコから思わぬ言葉が飛び出し、彼は思わず自分の臭いを嗅ぐ。

 シャワーを浴び女性好みのコロンを付けてきたのだが、彼女のお気には召さなかったのだろうか。落ち込むがガニマータ。しかし、その考えは大いに的外れであった。


「招かざるバディの臭い……」


 それは地味臭と血臭だった。


「お姉さま、どなたかいらっしゃるようです」

「まあ、ミカさん、そのお二人にわたくしのパルファンを貸してあげて。」


 すると、どこからともなく2人の妙齢女性が現れ、ガニマータは大いに驚く。


 いつ現れた!?

 ちなみに正解は『ずっとガニマータの傍にいた』である。

 全身ピンクの服を着ているというのに、地味すぎて気づかれなかったのだ。


「あらー、これはご丁寧にどうも」

「ごめんなさいねぇ、加齢臭かしらぁ」


 ミカの胸の谷間から出てきた香水を受け取り、ほっほっほと笑う二人。

 怪盗姉妹も余裕の表情を崩さない。


「お二人はもしかして『赤とんぼ』のお二人でしょうか。」

「まあ、凄いわねー怪盗さん。私たちをご存じなのねぇ」


 再び驚くガニマータ、聞いたことがある。


 コードネーム『赤とんぼ』

 それは法の下では裁けないDVクズ男達に天誅を下す国際的秘密組織『歌唱隊』に所属する姉妹。ERIKOとMIHOの凄腕アサシンコンビ。

 彼女たちの鎮魂歌(レクイエム)を聞いて生き残った男はいないと言われている。

 眉唾な都市伝説だと思っていたが、実在していたのか……


 なぜ二人がこんなところに来たのかと言うと、なんとガニマータがターゲットとして指定されていたらしい。しかし、彼女たちの長年の勘が「何かおかしい」と暫き、様子を見ていたとのこと。


「昔『今うちにトマトありましたっけ』ってXで全世界に誤爆したことがあって、以来うっかりミスが無いように特に気をつけているのよぉ。」とはERIKOの談。


「ねぇ、やっぱり警部さんは悪い人ではなさそうよ」

「勝手に尾行しちゃってごめんなさいねぇ」


 誤解が解け、どうしてこんなことになったのか、互いの持つ情報をすり合わせる優秀な3勢力。


 すると、ある真実が明るみに出た。


 まず、怪盗姉妹は義賊である。クレイジーダイヤモンドを頂戴したのは、謎の勢力によって奪われたそれを本来の持ち主のところへ帰すためだったのだ。

 謎の勢力の親玉はDVクズ男。それは実はガニマータが長年取り組んでいる本丸事案の主犯でもあった。 それを疎ましく思ったクズ男は『歌唱隊』の上層部を騙し、アサシン姉妹にガニマータの始末を依頼していたのである。そのクズの名はーー


 カスオス・カトロ伯爵(私称)


 それがDVクズ男の正体。某国貴族の血流に連なる裏社会の超大物だ。過日、アサリの生産地偽装やマスクの高額転売で財を成した巨悪である。正面から敵対するには危険過ぎる男だった。


 彼女たちの身を案じ、「敵対して八方ふさがりになるより、戦いを避けて脱兎のごとく逃げるという選択肢もある」とガニマータは言ったが、4人は取り合わない。


「逃げる?ナンセンス!世界の方が道を開けるべきではなくて、ミカさん?」

「お姉さまのおっしゃる通りですわ」

「それじゃあみんなで『思い出作り』にいきましょうか」

「ほっほっほ、なんだか『修学旅行』みたいねぇ」


 こうして、『派手過ぎて疑われない怪盗姉妹』と『地味すぎてバレないアサシン姉妹』のドリームチームが結成された。





 そもそもこの二組、脱兎のごとく逃げるには根本的に向いていないのだ。アサシン姉妹は50m走るだけで絶対ゼェハァ言うし、怪盗姉妹はそもそも走るなんてことはしないんですよきっと。




 ハルゑという女がいた。


 現在の彼女の立場はカスオス・カトロ伯爵夫人(私称)である。

 しかし実際は不憫な奴隷の様なものであった。彼女は現在、夫からモラハラとDVを受けている。


 ことの始まりは一年ほど前。父とは疎遠で、母も若くして亡くし、身寄りのなかった彼女はある日、母の形見であり心の支えでもあった秘宝を何者かに奪われてしまう。

 失意の彼女に声をかけてきたのがカスオス・カトロで二人は結婚。しかし実際は、秘宝を奪ったのはカスオスだったのだ!

 

 それは美しいハルゑと、彼女に残された遺産を奪うための陰謀であった。後に彼女は真実に気付いたが、その時には秘宝は売りさばかれ、度重なるモラハラとDVにより心を折られてしまっていた。


 そういった理由で彼女は今、広大なカスオス邸にある暗い部屋で一人失意の底に沈んでいた。



 と、そこに一人の美しき女怪盗が現れる。

 驚くハルゑ。


「あ、貴女はだれ?」

「異母姉よ」


 そう、キョウコとハルゑは、実は異母姉妹だったのだ!


 ハルゑも、亡くなった母から異母姉妹がいるということはきいていた。


 助けに来たの、愛のないガイとはすぐに別れて、幸せな人生を歩みましょう。そういって手を差し伸べるキョウコ。

 しかし、言葉の暴力で自己肯定感を下げられたハルゑは、その手を取ることができない。


「それは無理ですお義姉様、法律とかいろいろありますし……カスオスは恐ろしい男です。早く逃げてください。」


「シスターは何か望みはないの?」


「では……お義姉さまが館から無事に逃げおおせることを望みます。その後、無事の報せとして花を一輪送ってくだされば、これに勝る喜びはありません。」


「ああなんということでしょう。シスターは悪い魔法使いの言葉は信じるのに、わたくしの言葉は信じようとはなさらないなんて。素敵な女はその気になれば、プライベートジェットで空を飛ぶことだって、ロマネ・コンティを飲み干すことだってできるのに……」


 そいうとキョウコは胸の谷間から一輪の花を差し出し、ハルゑに捧げた。


「今はこれが精いっぱい」


 万国旗のおまけ付きである。


 目を見開くハルゑ。

 緊張が解け、オホホウフフと笑いあう二人。


 キョウコは続けて胸元からBOSSコーヒーとりだし、彼女に手渡した。

 その心は『いつもそばにいる』、『貴女を見捨てない』


 ハルゑの瞳に光が戻った。


「お義姉さま、私はカスオス・カトロと離婚します。」

「その言葉を待っていたわ。この秘宝は今の貴女にこそふさわしい。」


 そういうとクレイジーダイヤモンドを取り出し、ハルゑに手渡す。

 驚きながら、喜びながら、涙を流すハルゑ。


 そしてキョウコは胸の谷間から、金のゲームボーイアドバンスを取り出した。

 ワイヤレスアダプタを利用したチャットでミカに連絡を送る。


「さあ、幕を引きに参りましょう」



 どうしてこんなことになった。

 カスオス・カトロ伯爵(私称)は混乱の極みにいた。


 セレブパーティですさまじい色香と絢爛さを纏った、匂い立つような美女をみつけたのが2時間ほど前。毒牙にかけてやろうと家に招き、準備が整うまでの時間つぶしに彼女の希望した屋外のテラス席で歓待を始めたのが一時間ほど前。


 招いた美女が銀のゲームボーイアドバンスで何かを確認してから右手をひらひら振ると、護衛の部下たちがバタバタと昏倒しはじめたのが30分ほど前である。


 実は、ゴム弾入りのライフルを構えたアサシン姉妹が呑気に「ほっほっほっと」笑いながらめちゃくちゃ精密にターゲットを狙い撃っていたのだが、もちろんそんなことカスオスは知らない。 


 知らないが、どうやらハメようとした自分が逆に嵌められたらしいことはわかったので、彼は慌てて屋敷の中に逃げ込んだ。もちろん、屋敷の中の部下も全員昏倒していた。悪者サイドで現在意識があるのはカスオスだけである。


「くそっ、何でこんなことに……っ!?」


 悪態をつくカスオス。そこで、ちょうど前にあった大扉がバンと開き、3人組のゴージャスな美女達が現れた。


 右端にいる顔には見覚えがある。先ほどのPDロマンスだ。

 左端にいるPDフッショナブルには見覚えがない。

 そして真ん中にいたのは


「ハルゑ……?」


 疑問形の呆けた顔で彼女を見つめるカスオス。


 無理もない。DVにより陰鬱としていた時の彼女と今の彼女は、まるで別人のようだったのだから。


 キョウコの勇気づけにより気高き心を取り戻し、怪盗の7つ道具のうちの1つ「DHCの健康食品」でビタミンCを補給した今の彼女は、彼女本来の持つ、輝くような美しさを取り戻していたのだから!


 ハルゑは高らかに宣言した。


「カスオス、私は今日、あなたと離婚します。」

「そ、そんなことが出来るものか!法律とかいろいろ大変なんだぞ。」

「あら、先ほど成立したらしいわよ。ねえミカさん。」

「はい、お付き合いのあるガイたちの力を借りればわけないことでした。」

「なんだと?!」



 そんなことができるのか?

 できらぁ!



「畜生!こうなれば暴力だ!」


 完璧にやり込められ、凶行に走ろうとするカスオス。

 しかし、身体に力が入らずもんどりうって倒れて、一回転して大の字になる。

 肩を見ると、これは――麻酔針!?


 気付くと、かつて騙して利用しようとしていたアサシン姉妹に見下ろされていた。


御血(オチ)を付けさせてもらうわよ、えっと……カスオさんだっけ?」

「いやねぇ、それだと名字がお下品になってしまうわよぉ」


 ツッコミながらERIKOは銃を構えている。

 MIHOは地味な便箋を取り出して言った。


「最後に親御さんにお手紙でもお書きになる?」

「てめぇ、ふざけやがって!」


 ズドン! ズドン!


 地味な便箋を出されて激高するカスオスの急所にいきなり叩き込まれる二発の実弾。

 断末魔を響かせ、カスオスは意識を手放した。



「あらあら余計なお世話だったわ」

「でもねぇ親御さんも忍びないでしょうし……お手紙、偽装しちゃいましょうか」




 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ICPOに出動を要請したガニマータが5人の元に駆けつけた時には、鎮魂歌(レクイエム)が聞こえていた。別れを惜しみ、寂しさや、過ぎ去った過去への郷愁が込められた、そんな歌。



「やってしまったんだな……」


 血を流すカスオス・カトロの身体を確認し、彼はつぶやく。


「ええ、確かにこの男は死んだわ」







「これで彼はこれから、ただの『カス』よ」


 ほっほっほっと笑うアサシン姉妹(赤とんぼ)


 そう、彼女達はカスオスの『(オス)』のみをアサシネーションしたのだ。


 裏社会に力をもつ極悪人は一度逮捕してもすぐに放免となり悪事(DV)を繰り返す。そのため気性難の根源であると同時に、過剰な自信の源である『男』を去勢(ころ)すことで悲しみの連鎖を断ち切るのが『歌唱隊』の仕事なのである。


 ほら、殺人は倫理的にちょっとアレだから……

 作者(わたし)は善良だからね。



 ここから先は、警察の仕事だ。

 救急車を呼んだガニマータが振り返った時、もう5人の姿はなかった。











「私も連れて行って。泥棒はまだできないけど、きっと覚えます」

「どうしましょうか、お姉さま?」

「ナンセンス!泥棒など絶対にしてはダメ!」


 また闇のもとに戻りたいの?

 やっとお日様のもとにでられたんじゃないの

 アナタの人生はこれから始まるのよ


 そういって、怪盗姉妹はハルゑとわかれ、プライベートジェットで飛び立っていた。

 ロマネ・コンティを飲みながら。


「さあ、ミカさん。次に向かうのはどちらかしら」

「お姉さま、とらのあな、ってご存知ですか」

「それはどこの穴かしら」


 いっちゃってるの

 いっちゃってますわね

 いっちゃいましょうか


 そんなやりとりの後、胸元から予告状を取り出し、美しい文章をしたため始めるキョウコ。

 書き出しはもちろん「私たちの愛する皆様へ」だ。


 姉妹の活躍は続く。

 金庫に閉じ込められた宝石を救い出す。先入観にとらわれた女性をラブワールドに開放してあげる。青少年の健全な育成のために欲求限界ギリギリに挑戦する。これみんーな、ファビュラスでゴージャスな怪盗の仕事なんです。




 プライベートジェットの室内には、グッドルッキングガイズからの贈り物である、ゴージャスな花束があふれていた。



 そこにまじって、チョコンとかわいらしく置かれている豆苗は、今回できた新しい友人からの贈り物。



 (おわり)


おまけ


~怪盗の華麗なる7つ道具~


『予告状』

お店にVIPとして扱っていただくには事前予約が大切です


『小切手』

頂戴したら少し多めにお返ししましょう。愛で世界は回っていくのです。


『パルファン』

わたくし、ファビュラスローズの香りが好みですの


『一輪の花(with万国旗)』

嗜みとして、花の一つくらいはすぐに差し出せるように準備しておきたいものです


『ゲームボーイアドバンス』

金と銀、どちらになさいます?ワイヤレスアダプタを利用すればチャットで仲間と連絡が取れますのよ。


『BOSSコーヒー』

心はいつもそばに。アナタのこと、見捨てませんわよ。


『DHCの健康食品』

美とは維持するのではなく育てるもの。私たちの秘密ね。




「あら、MIHOさんなんだかいい匂いね~」

「わかる?別れ際に怪盗さんから香水を頂いたのよ。一緒につけましょうか」

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― 新着の感想 ―
生叶姉妹見たことありますけど、本当に圧倒的な美しさに全ての疑問が消えたことを覚えています。11センチ以上ありそうなヒール履いて優雅に歩けるだけでも素晴らしすぎる!!凄い!!とひれ伏したくなる気持ちにな…
カ○ウ姉妹は怪盗だったか~…。被害額以上の小切手を置いていくとかただのお得意様では?(遠い目) そしてア○ガヤ姉妹は、アサシン姉妹だったか~…。 ナチュラルボーン気配遮断。これには山の翁もニッコリ。…
これだけ数々のオマージュを見せて下さるのにジョジ〇は..クレイジーダイヤモンド以降ワックワクでしたのに。 仗助を最後の1行まで諦めず待っていたのに、ガイの一人が実は..かしらと希っておりまし たのに。…
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