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第九十八話:平和の影に潜むもの

再会を果たした陽介たち一行は、情報収集も兼ねて、最も近い商業都市を訪れることにした。街は、魔王が倒れてから一年を記念する「新生祭」の準備で活気に満ち溢れていた。露店が立ち並び、吟遊詩人が英雄たちの物語を歌い、子供たちの楽しそうな笑い声が響き渡る。誰もが平和を謳歌しているように見えた。


「すごいわ……。一年前とは大違いね。これも、ヨウスケがいてくれたおかげよ」


アリアが、感慨深げに街の様子を見渡す。


しかし、陽介はその平和な光景の裏に、いくつかの不穏な兆候を見て取っていた。


(街の衛兵の数が、祭りの警備にしては多すぎる。それに、彼らの表情は硬く、何かを極度に警戒しているようだ。露店の商人たちの会話にも、時折、聞き慣れない言葉や、伏せられた話題がある……)


陽介は、元の世界での営業活動で培った観察眼で、街の空気から情報を読み取ろうとしていた。彼は、一軒の酒場に入り、旅商人を装って他の客たちの会話に耳を傾けた。


そこで彼は、いくつかの奇妙な噂を耳にする。「北の国境近くの村が、一夜にして地図から消えた」「南の港町で、原因不明の眠り病が流行っている」「王国の騎士団の一部が、謎の失踪を遂げた」……。


それらは、個別の事件として扱われ、魔王の残党による仕業だと噂されていた。しかし、陽介は、それらの事件の間に、ある共通点と、不可解な法則性があることに気づき始めていた。


(事件が起きているのは、いずれも古い遺跡や、強い魔力が観測される場所の近くだ。そして、被害は破壊ではなく、『消失』や『機能停止』に近い。これは、単なる魔物の仕業じゃない。何か、もっと別の、未知の力が働いている……)


陽介は、酒場の片隅で、仲間たちに自分の分析結果を伝えた。平和な日々に慣れ始めていた仲間たちは、陽介の指摘に驚きの表情を浮かべた。


「まさか……。私たちは、世界が平和になったとばかり……」


ルーカスが不安げに言う。


「平和は、守り続けなければ簡単に崩れてしまうものなのかもしれないな。俺たちが倒した魔王は、世界の『大きな病』だった。だが、病が治った後も、体力が落ちている時に別の病原菌に侵されることがある。今のこの世界は、まさにそんな状態なのかもしれない」


陽介の言葉に、仲間たちの表情も引き締まる。どうやら、彼らの戦いはまだ終わってはいなかったらしい。平和の影で、新たな脅威が静かに、そして確実に、その輪郭を現し始めていた。

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