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第七十一話:最後の砦「幻影城」・妖姫リリスの罠

鉄壁の要塞を後にした陽介たち一行は、魔王城へと続く最後の関門である第三の砦、「幻影城」へと向かっていた。解放されたドワーフたちから得た情報によれば、この砦を守るのは魔王軍の中でも特に厄介とされる「幻惑の妖姫リリス」。彼女は美しい姿とは裏腹に、強力な幻術と精神攻撃を得意とし、多くの勇者や冒険者たちをその術中に陥れてきたという。


幻影城は、常に濃い霧と不気味な静寂に包まれた、まるで悪夢の中に現れるかのような城だった。城壁や塔の輪郭は霧の中でぼやけ、その姿は見る角度によって様々に変化し、距離感すら掴みにくい。城門らしきものは見当たらず、ただ霧の奥から誘うような甘い香りと、微かな歌声のようなものが聞こえてくるだけだった。


「ここが……幻影城……。名前からして、嫌な予感がするわね。物理的な守りよりも、精神的な攻撃に特化している感じかしら」


アリアが、エクスカリバーを握りしめ、警戒を強める。


「うむ。幻術使いは、人の心の隙間に入り込み、最も見たくないものや、最も恐れるものを幻として見せると聞く。気を強く持たねば、我々も術中に嵌ってしまうやもしれん」


バルドも、大地の盾を構え直し、気を引き締めた。


陽介は、聖剣カレドヴルフと胸の「星詠みの護符」が、この城から発せられる特異な魔力に反応し、微かな警告を発しているのを感じていた。


(幻術か……。元の世界でも、詐欺師や悪徳商法の手口で、人の心理を巧みに操るものはいた。だが、こいつは魔法によるものだ。より強力で、より直接的に精神に作用するだろう。冷静さを失わず、現実と幻影を見極める必要がある)


「みんな、決して一人で行動しないでくれ。そして、何かおかしなものを見たり聞いたりしても、すぐにそれが現実だと信じ込まないように。互いに声を掛け合い、常に状況を確認し合うんだ。アリアさん、月光の竪琴の音色が、幻術を打ち破る助けになるかもしれない」


陽介の言葉に、仲間たちは頷いた。アリアが月光の竪琴を静かに奏で始めると、その清らかな音色が周囲の不気味な静寂をわずかに和らげ、一行の心を落ち着かせるようだった。


一行が霧の中を慎重に進んでいくと、やがて目の前に、ありえないはずの光景が現れ始めた。それは、陽介にとっては元の世界の懐かしい故郷の街並みであり、アリアにとっては幼い頃に失った両親の笑顔であり、バルドにとってはかつて守りきれなかった戦友たちの姿だった。


「これは……!?」


陽介は息を呑んだ。あまりにも鮮明で、あまりにもリアルな幻影。一瞬、それが現実ではないかと錯覚しそうになる。


「ヨウスケ!しっかりして!これはリリスの幻術よ!」


アリアの鋭い声が、陽介を現実へと引き戻した。彼女自身もまた、涙を堪えながら幻影を睨みつけていた。


「ククク……ようこそ、幻影城へ。あなたたちの心の奥底に眠る、最も甘美で、最も辛い記憶……それを存分に味わわせてあげるわ」


霧の奥から、妖艶で、しかしどこか冷酷な響きを持つ女性の声が聞こえてきた。幻惑の妖姫リリス。彼女の最初の罠は、既に始まっていたのだ。

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