第七話:共鳴する魂と、新たな手がかり
陽介の乱入は、戦況を一変させた。薪割りの鉈とは思えぬ鋭さで魔物の攻撃を受け流し、時には的確な一撃で魔物を怯ませる陽介の姿に、アリアもバルドも目を見張った。特に、魔物の攻撃を寸前で見切り、最小限の動きで回避する様は、素人とは思えない洗練された動きだった。まるで、長年鍛錬を積んだ剣士のような動きだった。
「ヨウスケ、お前……その動き……どこで覚えたんだ?」
バルドが驚きの声を漏らす。
陽介自身も、自分の身体能力の向上に戸惑っていた。まるで、誰かが自分の身体を操っているかのように、最適な動きが自然とできてしまうのだ。そして、右手に握られた金属片が、熱を帯び、陽介の力と共鳴しているかのように感じられた。鉈を振るうたびに、金属片から力が流れ込んでくるような感覚があった。
アリアはすぐに気を取り直し、陽介との連携で魔物を追い詰めていく。バルドも力強い剣撃で魔物の進攻を阻み、リズも後方から正確な射撃で援護する。数に勝る魔物たちだったが、陽介たちの予想外の反撃と連携の前に、徐々に数を減らしていった。
最後の一体が甲高い悲鳴を上げて倒れると、森の中にようやく静寂が戻った。陽介は、荒い息をつきながらその場に膝をついた。全身に心地よい疲労感と、高揚感が満ちている。
「ヨウスケ……あなた、一体……」
アリアが、心配と驚きの入り混じった表情で陽介に駆け寄る。
「大丈夫ですか? 怪我は……」
「……平気です。それより、アリアさんたちこそ。リズさんも、腕の怪我は?」
陽介は立ち上がり、アリアに向き直った。彼女の瞳には、以前にも増して強い疑念の色が浮かんでいた。
「なぜ、あんな動きができたの? あなたはただの旅人のはずじゃ……」
「……分かりません。ただ、アリアさんたちを助けたい一心で……身体が勝手に動いたんです。それに、この金属片が……何か関係しているのかもしれません」
陽介は、熱を帯びた金属片を見つめた。
陽介の言葉に嘘はなかった。しかし、それだけでは説明がつかないことも理解していた。右手の金属片が、まだ微かな熱を帯びている。
村に戻ると、ルーカスが心配そうに待っていた。事情を説明すると、ルーカスは陽介の右手に握られた金属片に注目した。
「ヨウスケさんのその金属片……さっき、村にいた時よりも強く光っていたような気がします。そして、あの首のない像も、少しだけ……震えていたような……。まるで、ヨウスケさんの力に反応しているみたいでした」
ルーカスの言葉に、一同は顔を見合わせた。金属片と像が、陽介の力の発現に呼応して共鳴している?
「この金属片と像には、やはり何か秘密があるようだな」バルドが腕を組んで唸る。
「そして、ヨウスケさんの力……あれは、ただ事ではない。まるで、古の戦士の魂でも宿っているかのようだ。勇者様の力の一部を受け継いでいると言われても、俺は驚かんぞ」
バルドの言葉に、陽介は息を呑んだ。勇者の力。もし本当にそうだとしたら、自分はこの世界で何をすべきなのか。元の世界に帰ることだけを考えていた陽介の心に、新たな感情が芽生え始めていた。
その夜、村長がアリアたちを訪ねてきた。
「アリア様、先ほどの魔物の件ですが……あれは、おそらく『影狼』と呼ばれる種類の魔物かと。知性が高く、集団で狩りをする厄介な相手です。この村の近くでは、めったに見かけないはずなのですが……」
村長は、さらに不吉な情報を付け加えた。
「実は、数日前から、森の奥深くにある『賢者の森』の方角から、不気味な魔力の波動を感じるという報告が、他の村からも寄せられております。もしかすると、今回の影狼の出現も、それと何か関係があるのかもしれませぬ」
「賢者の森……?」アリアが聞き返す。
「ええ。そこには、エルフ族の賢者が住んでいるという言い伝えがあります。世界のあらゆる知識に通じ、古い魔法を操るとか……。真偽のほどは定かではありませぬが、何か手がかりが得られるやもしれませぬ」
エルフの賢者。陽介は、自分が夢の中で見た騎士の姿や、金属片の謎を解く手がかりが、そこにあるかもしれないと直感した。
アリアも同じことを考えていたようだ。
「その賢者の森へ行ってみる価値はありそうね。ヨウスケさんの謎も、聖剣のことも、何か分かるかもしれない」
こうして、陽介たちは新たな目的地を定めることになった。危険な道のりになることは予想されたが、陽介の胸には、不安よりもむしろ、謎の解明への期待が膨らんでいた。