第六十二話:魔王軍第一の砦・疾風の将軍
夜が明け、陽介たち一行はついに魔王城へと続く最初の関門、魔王軍第一の砦へと到達した。その砦は、切り立った崖と深い谷に囲まれた天然の要害に築かれ、周囲には常に荒れ狂う強風が吹き荒れていた。空には、翼を持つワイバーンやハーピーといった魔獣が舞い、砦の城壁には無数の魔族兵が弓や魔法の杖を構えている。
「ここが……第一の砦か。空からの守りも固そうだし、あの風……まともに近づくことすら難しそうね」
アリアが、眉をひそめて砦を見上げる。
「風だけではない。この風には、微かに魔力が混じっておる。おそらく、風を操る術者がいるのじゃろう。厄介な相手じゃわい」
バルドが、大地の盾を構えながら言った。
陽介は、聖剣カレドヴルフに意識を集中させ、砦の気配を探った。エルミールや古竜から得た知識によれば、この砦を守るのは魔王軍の四天王に次ぐ実力を持つとされる「疾風の将軍ゲイル」だという。その名の通り、風を自在に操り、その速さとトリッキーな攻撃は、数多の勇者たちを葬ってきたと伝えられている。
(風を操る将軍……。正面からの力押しだけでは分が悪いな。地形と風の流れを読み、奴の死角を突く必要がある。それと、空中の敵への対策も……)
陽介は、元の世界でのプロジェクトで、予期せぬ障害や競合他社の動きを分析し、対策を練った経験を思い出していた。
「リズ、お前の弓が頼りだ。空中の魔獣は任せられるか? ルーカス、風の結界が張られているとしたら、その弱点を探れるか? アリアさん、バルドさん、俺たちは砦の城門を目指す。あの風の中、どうやって近づくかが問題だが……」
陽介が作戦を練ろうとした瞬間、砦の城門が開き、疾風の将軍ゲイルがその姿を現した。ゲイルは、細身で長身、風を纏ったかのような軽やかな鎧を身に着け、その手には風を切る音を立てる鋭いレイピアを握っていた。その瞳は冷たく、獲物を見定める鷹のようだった。
「ククク……よくぞ来たな、聖剣の勇者とその一行よ。我が名はゲイル。この『風哭の砦』にて、お前たちの旅路を終わらせてやろう。魔王様への手土産には、お前たちの首がちょうど良い」
ゲイルがレイピアを振るうと、凄まじい突風が巻き起こり、陽介たちを襲った。その風は刃のように鋭く、まともに受ければ切り刻まれてしまいそうだ。
「くっ……! なんて風だ……!」
陽介は聖剣で風を受け流すが、体勢を崩されそうになる。
「アリアさん、月光の竪琴を! あの風の魔力を鎮められるかもしれない!」
陽介の言葉に、アリアは頷き、月光の竪琴を構えた。清らかな音色が戦場に響き渡ると、荒れ狂う風の勢いがわずかに弱まったように感じられた。
「小賢しい真似を……! だが、その程度で我が疾風を止められると思うなよ!」
ゲイルは嘲笑い、その姿が風に溶けるように消えたかと思うと、次の瞬間には陽介の背後に現れ、鋭い突きを繰り出してきた。陽介は、聖剣の共鳴と鋭敏になった五感でかろうじてそれを回避する。
「速い……! 目で追うのがやっとだ!」
リズが弓を構えながら叫ぶ。彼女の矢も、ゲイルの素早い動きにはなかなかついていけない。
疾風の将軍ゲイルとの戦いは、これまでのどの敵よりも速さと技巧を要する、困難なものとなりそうだった。




