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第六話:森の罠と、目覚める力

村人の報告を受け、アリアたちはすぐさま戦闘準備を整えた。陽介も、何かできることはないかと申し出たが、アリアは「あなたはここにいて。まだ戦いには慣れていないでしょう。私たちを信じて待っていて」と、村に残るよう指示した。その言葉に、陽介はわずかな無力感を覚えたが、彼女たちの足を引っ張るわけにはいかないと、素直に従った。


アリア、バルド、リズの三人が村の西の森へ向かう。ルーカスは村に残り、負傷者が出た場合の治療の準備と、陽介と共に村の守りについた。村長や他の村人たちは、不安げな表情で彼らを見送る。


陽介は、ルーカスと共に村の入り口で見張りをしながら、アリアたちの身を案じていた。先ほどから、胸騒ぎが止まらない。まるで、何か不吉なことが起ころうとしているかのように。握りしめた金属片が、じわりと熱を帯びているような気がした。


「大丈夫でしょうか、アリアさんたち……」


ルーカスが不安そうに呟く。陽介も同じ気持ちだったが、少年を安心させるように、力強く頷いた。


「ああ、きっと大丈夫だ。あの人たちは強い」


しかし、その言葉とは裏腹に、陽介の不安は募る一方だった。森の奥から、時折、獣の咆哮のような音や、金属がぶつかり合う甲高い音が微かに聞こえてくる。陽介の鋭敏になった聴覚が、それらの音を拾ってしまうのだ。戦闘の激しさを物語る音に、陽介はいてもたってもいられなくなる。


数時間が経過しただろうか。森の静寂が一層深まり、陽介の不安が頂点に達しようとしたその時、リズが一人、肩で息をしながら村へ駆け戻ってきた。その顔は蒼白で、衣服はところどころ裂け、腕からは血が滲んでいた。


「リズさん! アリアさんとバルドさんは!?」


陽介が叫ぶように問うと、リズはか細い声で答えた。


「罠よ……! 森の奥に、巧妙な罠が仕掛けられていたわ! アリアとバルドが……魔物に囲まれて……! 私が、なんとか抜け出して……」


リズの目には涙が浮かんでいた。


その言葉を聞いた瞬間、陽介の中で何かが弾けた。アリアの「あなたはここにいて」という言葉が頭をよぎったが、今はそんなことを言っている場合ではない。


(俺が行かなければ、みんなが……!)


「ルーカス、村のことは頼む! リズさん、案内してください!」


陽介は、ルーカスの返事を待たずに走り出した。リズは驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷き、陽介を先導して森の奥へと駆けていく。


森の中は、昼間だというのに薄暗く、不気味な雰囲気に包まれていた。リズに続いて必死に走る陽介の脳裏には、アリアの顔が浮かんでいた。彼女を失いたくない――その強い想いが、陽介の身体に信じられないほどの力を与えているようだった。足取りは軽く、息も上がらない。まるで、身体が風になったかのように。


やがて、開けた場所にたどり着いた。そこには、数体の狼に似た魔物――しかし、その体躯は通常の狼よりも遥かに大きく、全身が黒曜石のような硬質な毛皮で覆われている――に囲まれ、苦戦しているアリアとバルドの姿があった。アリアの剣捌きは鋭いが、魔物の数が多く、バルドも重厚な両手剣で応戦しているものの、徐々に追い詰められているのが見て取れた。二人の鎧には、生々しい爪痕が刻まれている。


「アリアさん! バルドさん!」


陽介の声に、二人がハッとしたようにこちらを向いた。その瞬間、一体の魔物がアリアの背後に忍び寄り、鋭い爪を振り下ろそうとした。


「危ない!」


陽介は、考えるよりも先に動いていた。地面を強く蹴り、アリアと魔物の間に割って入る。そして、咄嗟に腰に差していた、ただの薪割りのための鉈を抜き放ち、魔物の爪を受け止めた。


ガキンッ!


金属同士がぶつかるような甲高い音と共に、陽介の腕に衝撃が走る。しかし、不思議と痛みは感じない。むしろ、身体の奥底から、熱い何かが湧き上がってくるのを感じた。


「ヨウスケ!? なぜここに……!」


アリアが驚愕の声を上げる。


「話は後です! まずはこいつらを!」


陽介は叫び、鉈を構え直す。その瞳には、先ほどまでの不安の色はなく、確かな闘志が宿っていた。握りしめた金属片が、まるで呼応するかのように、陽介の心臓の鼓動と同じリズムで、熱く脈打っていた。


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