第四十一話:忘れられた聖域への旅立ち・霧の森の試練
氷結の塔での戦いを終え、聖剣カレドヴルフに新たな力を宿した陽介たち一行は、次なる目的地「忘れられた聖域」へと向かう準備を始めていた。聖剣に浮かび上がった紋様が示すのは、大陸東方に広がる霧深き森と、そこに眠るという古代遺跡だった。
村人たちに見送られ、氷結の塔周辺の厳しい寒さから解放された一行は、比較的穏やかな気候の地域へと足を踏み入れた。しかし、聖域に近づくにつれ、空気は徐々に湿り気を帯び、視界を遮るような深い霧が立ち込めるようになってきた。
「うわっ、すごい霧……。一寸先も見えないじゃないの。こんな中で道に迷ったら大変よ」
リズが不安げに周囲を見回す。その手は、常に弓に添えられていた。
「エルミール様からもらった地図にも、この聖域は『迷いの森』とも呼ばれると記されていたわ。気を引き締めて進みましょう。この霧、ただの自然現象ではないかもしれない」
アリアが、一行の先頭に立ちながら注意を促す。彼女の光の勇者の血が、この霧に潜む尋常ならざる魔力を感じ取っていた。
陽介は、元の世界で経験した濃霧の中での運転や、視界不良時のナビゲーションの知識を思い出していた。
(この霧は厄介だな。視覚だけに頼っていては、すぐに方向感覚を失う。音、匂い、空気の流れ……五感を総動員する必要がある。それに、この霧を利用した罠や魔物が潜んでいる可能性も高い)
「みんな、お互いの声が届く範囲を保って進もう。リズ、お前は後方から周囲の音に注意してくれ。ルーカス、何か魔力の流れに異常を感じたらすぐに知らせてくれ。バルドさん、アリアさん、俺たちは周囲の気配を探りながら、慎重に進路を選ぶ」
陽介の的確な指示に、仲間たちは頷き、隊列を組んで霧の森へと足を踏み入れた。森の中は、昼間だというのに薄暗く、木々の間からは不気味な静寂だけが漂ってくる。時折、遠くで獣の咆哮のような音が聞こえるが、霧のせいでその方向も距離も掴みにくい。
しばらく進むと、一行は奇妙な現象に遭遇し始めた。同じような景色が何度も繰り返されたり、ありえないはずの場所に道が現れたり消えたりするのだ。まるで、森全体が生きているかのように、彼らを惑わそうとしているかのようだった。
「おかしいわ……。さっきもこの大きな岩を見たはずよ。私たち、同じ場所をぐるぐる回っているんじゃ……」
アリアが悔しそうに呟く。
その時、ルーカスが何かに気づいたように声を上げた。
「ヨウスケさん、アリアさん! この霧、魔力で編まれているみたいです! それも、すごく古い時代の……精霊の魔法に近いかもしれません! 僕の杖が、微かに共鳴しています!」
「精霊の魔法……。だとしたら、この森はただの迷路じゃない。何か、私たちを試しているのかもしれないな」
陽介は、聖剣カレドヴルフを握りしめた。剣は、この霧の奥に眠る聖剣の破片の気配を、確かに感じ取っている。しかし、それと同時に、何か巨大で、そして古き良き存在の意志のようなものも感じられた。
(この森の主がいるとすれば、その試練を乗り越えなければ、聖域へはたどり着けないということか……)
陽介は、仲間たちと顔を見合わせ、覚悟を決めた。この霧の森の試練、必ず突破してみせる。三十路の知恵と、仲間たちとの絆を武器にして。




