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第三十八話:氷の魔女の影・悲しき守護者

四つの試練を乗り越え、氷結の塔の上層階へと続く道が開かれた。そこは、これまで以上に強烈な冷気に包まれ、壁や床の氷はまるで鏡のように磨き上げられていた。時折、美しい氷の彫像のようなものが通路に飾られているが、それらはどこか悲しげな表情を浮かべており、陽介の心をざわつかせた。


(これらの彫像……まるで生きている人間が氷漬けにされたかのようだ……。これが、氷の魔女の力なのか……?)


陽介は、聖剣カレドヴルフを握る手に力を込めた。剣は、この階層に漂う濃密な魔力と、そして深い悲しみの感情に、より強く共鳴している。


「この階は……空気が重いな。魔力もそうだが、それ以上に……何か、強い怨念のようなものを感じるぞ」


バルドが、周囲を警戒しながら低い声で言った。彼の歴戦の経験が、この場所に潜む尋常ならざる危険を察知していた。


「ええ……。そして、あの『悲しい何か』の気配も、すぐ近くから感じるわ。氷の魔女が、この先にいるのかもしれない」


アリアもまた、光の勇者の血が騒ぐのを感じながら、緊張した面持ちで答えた。


一行が慎重に奥へと進むと、やがて巨大な氷の扉の前にたどり着いた。扉の前には、一体の美しい女性の姿をした氷の精霊が、静かに佇んでいた。その姿は、村の長老が語っていた「氷の魔女」の姿とは異なるが、その身に纏う冷気と魔力は、これまでのどんな魔物よりも強力だった。


「……よくぞここまで参りました、異世界の勇者とその仲間たちよ」


氷の精霊は、鈴を転がすような美しい声で、しかし感情のこもらない抑揚で語りかけた。


「我は、この氷結の塔を守護する者、『氷晶の守り手』。この先へ進むことは許しません。お引き取りください」


「私たちは、聖剣の破片を求めてここまで来た。そして、この塔にかけられた呪いを解き、苦しんでいる村の人々を救いたい。どうか、道を開けてはもらえないだろうか」


陽介が、穏やかな口調で交渉を試みる。


「呪い……。それは、見方を変えれば祝福でもあります。この塔の主は、永遠の静寂と孤独の中で、大切なものを守り続けているのです。あなた方のような外部の者が、それを乱すことは許されません」


氷晶の守り手の言葉には、一切の妥協も揺らぎも感じられなかった。


「ならば、力ずくででも通らせてもらうまでだ!」


アリアが双剣を抜き放ち、守り手へと斬りかかる。しかし、守り手は指先一つ動かすことなく、アリアの周囲に鋭い氷の棘を無数に出現させ、その動きを封じた。


「くっ……!なんて魔力なの……!」


アリアが苦悶の声を上げる。バルドとリズも加勢しようとするが、守り手の放つ絶対零度の冷気が彼らの動きを鈍らせる。


「この方は……おそらく、氷の魔女そのものではない。しかし、魔女に仕える強力な守護者なのでしょう。そして、何か深い悲しみを抱えている……。ヨウスケさん、この方の心に、何か訴えかけることはできないでしょうか?」


ルーカスが、杖を握りしめながら陽介に問いかける。彼の純粋な瞳は、守り手の奥に隠された何かを感じ取っているようだった。


陽介は、聖剣カレドヴルフを構えながら、守り手を見据えた。聖剣を通して、守り手の魂の奥底から、深い悲しみと、そして何かを守ろうとする強い意志が流れ込んでくるのを感じていた。


(この人もまた、誰かの犠牲になっているのかもしれない……。氷の魔女も、そしてこの守り手も……。ただ倒すだけでは、何も解決しないのかもしれない)


「あなたは、何を守っているんだ? そして、その『塔の主』とは、一体何者なんだ? 私たちは、戦いに来たわけじゃない。ただ、真実が知りたいだけだ」


陽介の言葉に、氷晶の守り手の表情が、ほんの僅かに揺らいだように見えた。


「……真実を知れば、あなた方は後悔するかもしれません。それでも、進むというのですか?」


「ああ。俺たちは、どんな真実からも目を逸らさない。それが、俺たちがここにいる理由だ」


陽介の力強い言葉に、守り手はしばし沈黙した。そして、ゆっくりと口を開いた。


「……分かりました。ならば、私を倒して進みなさい。それが、あなた方の覚悟を示す唯一の方法です。ただし、手加減はしません」


氷晶の守り手の周囲の冷気が、一瞬にして凝縮され、鋭い氷の刃となって陽介たちに襲いかかってきた。それは、先ほどまでの比ではない、本気の攻撃だった。


「望むところだ! みんな、全力で行くぞ!」


陽介の号令と共に、氷結の塔の悲しき守護者との、避けられない戦いの火蓋が切って落とされた。


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