第三十二話:北を目指して・吹雪の歓迎
砂漠地帯を抜け、一行は徐々に北へと進路を取った。風景は一変し、灼熱の砂丘は緑豊かな草原へ、そしてやがては鬱蒼とした針葉樹林へと変わっていった。
気温も目に見えて下がり始め、陽介たちはドワーフの古都で手に入れた防寒具を身にまとうようになった。
「うぅ……さっきまでの暑さが嘘みたいに寒いな……。ドワーフの人たちにもらったこのマント、本当に温かいけど、これでもまだ少し肌寒いぜ」
リズがマントの襟を掻き合わせながら、白い息を吐いた。彼女の鼻先は、寒さで少し赤くなっている。
「これほどの急激な気温の変化は、身体に応えるな。体調管理には十分気を付けなければ。特にルーカス、お前はまだ幼いのだから、無理はするなよ」
バルドが、ルーカスの肩に自分の毛皮の上着をそっとかけた。
ルーカスは、バルドの優しさに感謝しながらも、「大丈夫です、バルドさん!僕、魔法で身体を温めることもできますから!」と元気に答えた。その手には、エルミールから授かった「知恵の木」の杖が、微かな温もりを放っているようだった。
陽介は、この急激な環境の変化に対し、元の世界での経験を思い出していた。
(気温の急変は体力を奪う。重ね着で体温調節をするのが基本だが、汗をかいた後の冷えも怖い。それと、食料の確保も重要だな。寒い地域では、高カロリーのものが欲しくなるはずだ)
彼は、以前の冒険で手に入れた保存食のリストと残量を確認し、今後の行動計画を頭の中で練り直していた。
数日後、一行が深い森を抜け、雪を頂いた山脈地帯に差し掛かった頃、空模様が急速に悪化し始めた。鉛色の雲が空を覆い尽くし、突風と共に横殴りの雪が視界を奪う。
それは、まさに「吹雪の歓迎」とでも言うべき、過酷な自然の洗礼だった。
「まずい!吹雪だ!このままでは進めない!どこか風雪を凌げる場所を探さないと!」
アリアが叫び、周囲を見渡すが、見渡す限り白一色の世界が広がっているだけだった。風の音が唸りを上げ、体感温度は一気に下がる。
「ヨウスケさん、何かいい考えはありませんか!? このままだと、みんな凍えてしまいます!」
ルーカスが不安そうな声を上げる。陽介は、迫りくる吹雪と仲間たちの顔を見比べ、冷静に状況を分析した。
(この規模の吹雪は、下手に動き回るのは危険だ。まずは風を避け、体温を確保することが最優先。幸い、この辺りは岩場が多い。風下になるような岩陰を見つけられれば……)
「みんな、落ち着いて!俺に考えがある!バルドさん、あの大きな岩の風下側はどうだろうか?少しはマシかもしれない!リズ、ルーカス、俺から離れるな!」
陽介は指示を出し、一行は身を寄せ合いながら、猛吹雪の中を慎重に進んだ。
陽介の指示した岩陰は、幸いにも風雪をある程度遮ることができ、一行はそこで簡易的なシェルターを作ることになった。
陽介は、雪を固めて風除けの壁を作り、持っていた防水シートで屋根を作るよう指示した。それは、元の世界で見た雪洞の簡易版のようなものだった。
「ヨウスケ、お前、本当に何でも知っているな。こんな状況で、よくそんな知恵が働くものだ」
バルドが、陽介の手際の良さに感心したように言った。
「まあ、昔取った杵柄、というやつですよ。もっとも、実際に雪山で遭難した経験はありませんけどね。テレビで見た知識の受け売りです」
陽介は苦笑しながら答えた。
シェルターの中で、一行は身を寄せ合い、焚火を起こして暖を取った。ルーカスの魔法も、周囲の温度を上げるのに役立った。
吹雪は一晩中止む気配を見せず、外では風が猛獣のように唸り声を上げていた。
そんな中、陽介はふと、聖剣カレドヴルフが微かに脈動しているのを感じた。それは、寒さとは異なる、何か別の存在の気配を捉えているかのようだった。
(この吹雪……ただの自然現象ではないのかもしれない……。あるいは、この先に待ち受ける何かの警告か……?)
陽介の胸に、新たな不安がよぎる。氷結の塔への道は、想像以上に険しいものになりそうだった。
そして、この極寒の地には、太陽の神殿とは異なる、新たな種類の魔物や試練が待ち受けているに違いない。
陽介は、静かに燃える焚火の炎を見つめながら、次なる戦いへの覚悟を新たにするのだった。




