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第三話:村の異変と、失われた象徴

翌朝、アリアたちは早速魔物討伐へと向かった。陽介は村長の家に身を寄せ、彼らの帰りを待つことになった。手持ち無沙汰な陽介は、村長と世間話をすることにした。村長は、この村の歴史や、最近の魔物の異変について詳しく話してくれた。


「この村は、昔から魔物の被害が多かったのですか?」


「いや、これほど酷いのは初めてじゃ。特にこの数ヶ月、魔物の種類も増え、凶暴化しておる。まるで、何かに操られているかのように、統率された動きを見せることもあるんじゃ」


村長の言葉には、深い憂慮が滲んでいた。


村長は、陽介の身なりや言葉遣いから、彼が只者ではない何かを感じ取っているようだった。


「ヨウスケ殿は、どこか遠い国から来られたお方とお見受けするが……この世界のことは、あまりご存じないご様子。もしよろしければ、わしが知る限りのことをお話ししよう」


陽介は、村長にこの世界の基本的な情報――国々の位置関係、主要な種族、そして魔王や勇者といった存在について――を教えてもらった。それは、陽介がこの世界で生きていく上で、非常に貴重な情報となった。


話は自然と、この世界の脅威へと移っていく。


「魔王……という存在がいると聞きましたが」


陽介の言葉に、村長の顔が曇った。「おお、魔王か……。あれは10年前に、勇者様が命と引き換えに封印なされたはずじゃった。じゃが、近頃、その封印が弱まっておるという不吉な噂もあってのう……。もし、魔王が復活なされば、この世界は再び闇に閉ざされることになるじゃろう」


村長の目には、深い絶望の色が浮かんでいた。


勇者。その言葉に、陽介は微かな胸騒ぎを覚えた。


「その勇者様が亡くなられた時、何か特別なことは起こらなかったのですか? 例えば、空が光ったりとか……」


「おお、よくぞご存じで。その日は、天が裂けたかのような凄まじい光が空を覆い尽くし、大地が震えたそうじゃ。そして、その後しばらくは、焦げ付いたような妙な臭いが村にも立ち込めておったと、古老から聞いておる。まるで、世界が終わるかのような光景じゃったと……」


村長は、遠い目をしてそう語った。


強烈な光、焦げ付いた臭い――それは、陽介がこの世界に転移してきた時の感覚と、あまりにも酷似していた。偶然とは思えない符合に、陽介は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


昼過ぎ、アリアたちが疲労の色を濃くしながらも、無事に魔物を討伐して帰ってきた。村人たちの安堵の表情が、この村が抱える問題の深刻さを物語っていた。しかし、その束の間の静けさを破るように、村長が憔悴した面持ちでアリアに近づき、深刻な声で告げた。


「アリア様……また、聖剣の祠が……」


聖剣。その言葉に、アリアの精悍な顔つきにも、深い不安が浮かんだ。


「また、ですか?一体、何があったのですか?」


村長は、重々しい口調で語り始めた。村の外れにある小さな祠には、かつてこの地を救った勇者が使っていたとされる聖剣が祀られているという。村人たちはそれを心の拠り所とし、大切に守ってきたのだが、ここ最近、その祠が何者かに荒らされる事件が頻発しているらしい。そして、その度に、祠の周囲には奇妙な焦げ跡と、あの独特の、鼻をつく臭いが残っているというのだ。


昨夜、陽介が倒れていた森の近くでも、同じような臭いがした。そして、村長の家の隅にある、首のない銀色の像。点と点が、ゆっくりと繋がり始めたような気がした。


「その聖剣は……一体、どんなものなのですか?」


思わず、アリアに問いかけた。彼女は少し驚いたように振り返り、伝説を語るように、静かに答えた。「聖剣は、この地に古くから伝わる、希望の象徴です。かつて、強大な魔王を打ち倒した勇者様が使われたと伝えられています。私たち冒険者にとっても、特別な意味を持つ……誇りのようなものなのです」


アリアの言葉には、聖剣に対する深い敬意と、それを汚されたことへの憤りが込められていた。


魔王。この世界を脅かす存在。そして、それを打ち倒した勇者。その勇者は、十年前に命を落としたという。


「その勇者様は、最期の瞬間に、何かを求めたのではないでしょうか? 例えば……誰かの助けを、とか……」


陽介の言葉に、アリアは目を見開いた。その表情には、隠せないほどの驚愕の色が浮かんでいる。バルドの動きも一瞬止まり、リズの警戒する視線が陽介に注がれた。ルーカスは、興味津々といった表情で陽介を見つめている。


「ええ……確かに。その日の空は、今思い出しても異質でした。なぜ、あなたがそのことを……?まるで、その光景を見たことがあるかのように」


心臓が、嫌な予感と共に、早鐘のように打ち始めた。


アリアは、陽介の問いかけに、訝しむような視線を向けていた。「なぜ、あなたがそんなことを尋ねるのですか?」


陽介は言葉に詰まった。自分が体験したわけではない。だが、あの感覚は確かに知っている。それは、まるで自分自身の記憶の一部であるかのように、鮮明に思い出せるのだ。


結局、その日はアリアたちも疲労困憊しており、祠の調査は翌日に持ち越されることになった。陽介は、自分の発言が彼女たちに与えた動揺を感じ取りながら、重い気持ちで眠りについた。


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