第二十九話:神殿からの脱出と魔王軍の追撃
声の主を探そうとしたが、それ以上の手がかりは見つからなかった。神殿は、まるでその役目を終えたかのように、再び深い静寂に包まれている。陽介たちは、聖剣カレドヴルフの新たな力を手に、そして心に新たな謎と決意を抱き、太陽の神殿を後にしようとした。しかし、彼らが神殿の入り口にたどり着いた時、外の様子が一変していることに気づく。先ほどまでの穏やかな砂漠の風景は消え去り、空は不気味な暗雲に覆われ、猛烈な砂嵐が吹き荒れていた。視界は極めて悪く、数メートル先も見通せないほどだ。そして、その砂嵐の中から、数十体の魔物の影が現れた。それは、ドワーフの古都で戦ったバルログの配下と思われる、より強力な魔王軍の兵士たちだった。彼らは、漆黒の鎧を身にまとい、禍々しいオーラを放つ武器を手にしている。その数は、先ほどのゴーレムとは比べ物にならないほど多く、神殿の入り口を完全に包囲していた。
「ちっ……! 待ち伏せか! バルログがやられたことを知って、増援を送り込んできたというわけか! しかも、この数は……厄介だな!」
バルドが悪態をつく。彼の顔には、先ほどの安堵の色はなく、再び戦士としての厳しい表情が戻っていた。
「どうやら、私たちが神殿に入っている間に、仲間を呼ばれたようね。数が多いわ……! しかも、一体一体がこれまでの雑魚とは比べ物にならないくらい強そうだわ! 油断したら、一瞬でやられるわよ!」
アリアが双剣を構える。彼女の表情にも緊張の色が浮かんでいる。しかし、その瞳の奥には、仲間たちを守るという強い意志が燃えていた。
「ヨウスケさん、聖剣の力で! 今のあなたなら、きっと!」
ルーカスが叫ぶ。彼の声には、陽介への絶対的な信頼が込められていた。
陽介は頷き、聖剣カレドヴルフを構えた。しかし、先ほどのゴーレムとの戦いで体力を消耗しており、聖剣の力を完全に引き出すことができない。聖剣は輝きを放っているものの、先ほどの戦いのような圧倒的なオーラは感じられなかった。連続して聖剣の真の力を使うことは、今の陽介の身体には大きな負担となるようだった。
「くそっ……! まだ身体が……! 聖剣の力も、連続しては使えないのか……! まるで、重要なプレゼンの後に、さらに別のトラブル対応を迫られている気分だ……!」
魔王軍の兵士たちは、容赦なく襲いかかってくる。その動きは統率が取れており、個々の戦闘能力も高い。陽介たちは、数に劣勢ながらも必死に応戦するが、徐々に追い詰められていく。リズの矢も尽きかけ、バルドの鎧にも新たな傷が増えていた。ルーカスの魔力も底をつきかけており、彼の顔には疲労の色が濃く浮かんでいる。
「このままでは、ジリ貧だわ……! 何か手を考えないと、全滅よ! ヨウスケ、何か策はないの!?」
リズが矢を放ちながら叫ぶ。その声には焦りが滲んでいた。
その時、陽介は神殿の入り口に刻まれた太陽の紋章が、聖剣カレドヴルフと共鳴するように微かに光を放っていることに気づいた。それは、アリアの血によって作動した、あの紋章だった。そして、石碑に書かれていた神殿の構造に関する記述の一部が、彼の脳裏に蘇った。
(もしかして……! この紋章、まだ何か役割があるのかもしれない……! 石碑には、この神殿には緊急時の避難経路があると書かれていた……! それが、この紋章と関係しているのでは……!?)
陽介は、最後の力を振り絞り、聖剣カレドヴルフを太陽の紋章にかざした。そして、アリアに叫んだ。
「アリアさん、もう一度、その紋章に血を!」
アリアは一瞬戸惑ったが、すぐに陽介の意図を察し、再び指先を傷つけ、その血を紋章に垂らした。聖剣の光とアリアの血が紋章に注がれると、紋章から強烈な光が放たれ、神殿全体が激しく揺れ動いた。そして、神殿の床の一部が崩れ落ち、地下へと続く秘密の通路が現れたのだ。それは、神殿の建設者たちが、万が一のために用意していた脱出路なのかもしれない。
「みんな、こっちだ! 神殿が崩れる前に脱出するぞ! 急げ!」
陽介たちは、間一髪で秘密の通路へと飛び込み、崩壊する神殿から脱出することに成功した。魔王軍の追手も、神殿の崩壊に巻き込まれ、難を逃れたようだった。通路を抜けた先は、神殿から少し離れた砂漠の一角だった。背後では、太陽の神殿が轟音と共に砂塵の中へと沈んでいくのが見えた。




