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第二十三話:アリアの血と、神殿の囁き

サラマンダーを倒し、一行は祭壇へと続く道を進んだ。溶岩の池にかかる石橋は、先ほどの戦闘の余波で所々崩れかけており、慎重に渡らなければならなかった。足を踏み外せば、灼熱の溶岩に飲み込まれてしまうだろう。その下からは、ゴポゴポと不気味な音が聞こえてくる。祭壇は黒曜石のような滑らかな石で作られており、中央には太陽の紋章が精巧に刻まれている。その紋章は、まるで生きているかのように微かな光を放ち、周囲の闇をぼんやりと照らしていた。しかし、そこに聖剣の破片らしきものは見当たらない。祭壇の上には、ただ埃が積もっているだけだった。


「おかしいわね……エルミール様の地図では、確かにここが……。何か見落としているのかしら。それとも、また別の仕掛けがあるというの? ここまで来て、何もないなんてことはないはずよ」


アリアが眉をひそめ、周囲を注意深く観察する。彼女の鋭い視線が、祭壇の隅々までを捉えようとしていた。壁や床に、何か手がかりになるようなものはないか、と。


陽介が聖剣カレドヴルフを祭壇にかざすと、剣が微かに共鳴し、祭壇の太陽の紋章が淡い光を放ち始めた。しかし、それ以上の変化はない。まるで、何かが足りないと言っているかのようだ。陽介は、聖剣に意識を集中させ、何かを感じ取ろうとしたが、明確な答えは得られなかった。ただ、聖剣が何かを求めているような、そんな感覚だけがあった。


「何か、きっかけが必要なのかもしれないな……。この紋章、どこかで見たような……。そうだ、アリアの剣の柄に刻まれていた紋様と似ていないか? あの時、家系に伝わる古い印だと言っていたな」


バルドが周囲を見回し、記憶を探るように呟いた。彼の言葉に、アリアはハッとしたように自分の剣の柄を見た。確かに、祭壇の紋章と、自分の剣の柄の紋様は、細部こそ異なるものの、どこか共通する意匠が見られた。


その時、アリアがふと、祭壇の側面に刻まれた小さな文字に気づいた。それは非常に小さく、注意深く見なければ見逃してしまうほどだった。長年の風化でほとんど消えかかっていたが、アリアの鋭い目がそれを捉えたのだ。


「これは……古代文字? 『太陽の子孫、その血をもって封印を解き放て』……?」


アリアは、かろうじて読み取れた文字を口にした。その声は、驚きと戸惑いに震えていた。


「太陽の子孫……? それって、一体誰のことなんだろう……。この神殿を建てた太陽の民のことか? でも、彼らはもう……」


陽介が聞き返す。


アリアは、自分の家系に伝わる「光の勇者」の伝説を思い出した。そして、賢者の森でエルミールから告げられた「光の勇者の血を引く者」という言葉。まさか、それがここで関係してくるとは……。彼女の心臓が、ドクンと大きく脈打った。自分の身体に流れる血が、この古代の神殿の封印を解く鍵になるというのか。


(私の血が……? でも、本当に……。もし、これで何も起こらなかったら……。いや、試してみるしかないわ。ヨウスケのためにも、この世界のためにも……。そして、私自身の運命を確かめるためにも……)


アリアは覚悟を決め、腰に下げていた短剣で自らの指先をわずかに傷つけ、その血を一滴、祭壇の太陽の紋章に垂らした。血が紋章に触れた瞬間、紋章が眩い光を放ち、神殿全体が激しく揺れ動いた。床の一部が沈み込み、新たな通路が現れたのだ。その通路は、地下へと続いており、奥からは冷たい空気が流れ込んできた。そして、どこからか、微かに囁くような声が聞こえてくる。


「アリア! 大丈夫か!? 無理をするな! そんな……自分の血を……」


陽介がアリアの肩を支える。彼女の顔は少し青ざめていた。


「ええ……大丈夫。どうやら、私の血が必要だったみたいね……。まさか、こんな形で自分の出自と向き合うことになるなんて……。父様が言っていた、我が家系に伝わる使命というのは、このことだったのかもしれないわ……」


アリアは、少し複雑な表情を浮かべながら言った。自分の血が、古代の封印を解く鍵となったことに、彼女自身も戸惑いを隠せないでいた。同時に、自分に課せられた運命の重さを改めて感じていた。それは、逃れることのできない、血の宿命だった。彼女は、陽介の支えを感じながら、ゆっくりと立ち上がった。


一行は、現れた通路の奥へと進む。そこには、巨大な石碑が鎮座しており、びっしりと古代文字が刻まれていた。石碑は神殿の他の部分よりも保存状態が良く、文字も鮮明に残っている。石碑からは、厳粛な雰囲気が漂っていた。


「これは……この神殿の歴史と、聖剣に関する記述のようだ。かなり古い時代のものだが、なんとか読めるかもしれん。少し時間をくれ」


バルドが、石碑の文字を読み解き始める。彼は、かつての旅で古代文字を学ぶ機会があったのだ。その知識が、ここで役立つことになるとは、彼自身も予想していなかっただろう。


石碑には、太陽の民と呼ばれる古代の種族が、魔王の侵攻に対抗するために二つの聖剣――光の聖剣エクスカリバーと影の聖剣カレドヴルフ――を鍛え上げたこと、そして、二人の勇者がそれらを手に魔王と戦ったことが記されていた。二人の勇者は、互いに信頼し合い、絶望的な状況下でも希望を捨てずに戦い続けたという。しかし、影の勇者とその聖剣カレドヴルフは、ある裏切りによって歴史から抹消された、とも……。その裏切りは、信頼していた仲間によるものであり、それによって影の勇者は深い絶望と共にその力を封印されたと記されていた。その裏切りの詳細までは記されていなかったが、そこには深い悲しみと怒りの念が込められているように感じられた。


「裏切り……? 一体、誰が……そして、なぜ……。仲間だったはずなのに……。そんなことが……」


陽介は息を呑んだ。影の勇者が歴史から消された理由の一端が、垣間見えた気がした。そして、その事実は、陽介自身の存在意義にも関わってくるように思えた。信頼していた仲間に裏切られるという経験は、元の世界でも何度か経験したことがあったが、それとは比較にならないほどの重みが、その言葉にはあった。陽介は、影の勇者が感じたであろう絶望と孤独を、わずかながら理解できたような気がした。そして、自分は決して仲間を裏切らない、そして仲間たちにも裏切られたくないと、強く心に誓った。


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