第二十話:オアシスの攻防と、砂漠に眠る神殿
陽介とルーカスは、巨大なキングサンドワームの前に立ちはだかった。その巨体は小山のように大きく、鋭い牙が何列にも並ぶ巨大な口は、人間など一飲みにできそうだ。その身体からは、強烈な腐臭と、焼けつくような熱気が漂ってくる。キングサンドワームが地中から現れるたびに、周囲の砂が竜巻のように舞い上がった。
「ルーカス、援護を頼む! あいつの動きを少しでも止められれば、勝機はあるはずだ! あの口の中に弱点があるはずだ! 多分だけどな! いや、きっとそうだ!」
陽介は叫び、キングサンドワームへと突進する。聖剣カレドヴルフが金色の輝きを放ち、砂漠の夜を照らす。その光は、絶望に沈む砂漠の民たちにとって、唯一の希望の光に見えたかもしれない。
キングサンドワームは、巨体に似合わぬ素早い動きで陽介に襲いかかる。その巨体をしならせ、砂中から突如として現れては、巨大な顎で陽介を捕らえようとする。陽介は、影の勇者の技を駆使し、その攻撃を紙一重でかわしながら、反撃の機会を窺う。しかし、キングサンドワームの硬い外皮は、聖剣の斬撃をも弾き返すほどだった。時折、外皮の隙間を狙って攻撃を仕掛けるが、決定的なダメージには至らない。
「ヨウスケさん、危ない! 右からです!」
ルーカスは、後方から魔法で援護し、キングサンドワームの動きを牽制する。彼の放つ氷の魔法は、キングサンドワームの動きをわずかに鈍らせるが、決定的なダメージには至らない。しかし、そのわずかな隙が、陽介にとっては貴重な時間稼ぎとなった。ルーカスは、知恵の木の杖の力を借り、これまでにないほどの集中力で魔法を放ち続ける。彼の額からは汗が流れ落ち、魔力の消耗も激しいはずだが、その瞳は決して諦めていなかった。
一方、アリア、バルド、リズは、他のサンドワームの群れから砂漠の民を守りながら、オアシスの岩陰など、比較的安全な場所へと誘導していた。アリアの双剣が舞い、バルドの大剣が唸り、リズの矢が正確にサンドワームを射抜いていく。彼らの連携もまた、これまでの旅で格段に向上していた。アリアは的確な指示で仲間たちを動かし、バルドはその圧倒的な力で敵の進攻を阻み、リズは冷静に敵の急所を狙い撃つ。砂漠の民の中にも、武器を取って戦う者が現れ、一行の奮闘に勇気づけられていた。
「ヨウスケさん、今です! あいつ、大きく息を吸い込んでいます! 何か強力なブレスを吐くつもりです!」
ルーカスが叫ぶ。キングサンドワームが大きく口を開け、周囲の砂を吸い込みながら、何か強力な攻撃を放とうとしている瞬間、陽介はその隙を見逃さなかった。
(ここしかない……! 一か八かだ! 俺のサラリーマン人生で培った度胸と、この聖剣の力、そして仲間たちの想いを信じる!)
陽介は、聖剣カレドヴルフに全身の力を込め、キングサンドワームの口の中へと飛び込んだ。周囲の砂と共に吸い込まれるようにして、巨大な顎の内側へと侵入する。その瞬間、陽介の脳裏に、元の世界での上司の叱責や、理不尽なクレーム対応の記憶が走馬灯のように蘇ったが、すぐにそれを振り払った。
口の中は、強烈な悪臭と熱気で満ちていた。そして、その奥に、赤く脈打つ巨大な発光体――おそらくはキングサンドワームの核――が見えた。
「喰らええええっ! これが俺の……いや、俺たちの……全力だあああっ!」
陽介は、聖剣カレドヴルフを力任せにその核へと突き刺した。聖剣は、まるで自らの意志を持つかのように、核の奥深くまで突き進んでいく。
キングサンドワームは断末魔の叫びを上げ、その巨体が激しくのたうち回る。そして、やがてその動きを止め、ゆっくりと砂の中に沈んでいく。他のサンドワームたちも、王の死を悟ったのか、恐慌をきたしたように次々と砂の中へと姿を消していった。
激しい戦いが終わり、オアシスには再び静寂が戻った。陽介は、キングサンドワームの体液と砂にまみれながらも、仲間たちと砂漠の民の無事を確認し、安堵の息をついた。全身の疲労感は凄まじいが、それ以上に大きな達成感が彼を包んでいた。
「ヨウスケ殿、あなた様は我々の命の恩人です。このご恩は決して忘れませぬ。このオアシスに伝わるささやかな礼ですが、お受け取りください」
砂漠の民のリーダーが、陽介の前に深々と頭を下げた。彼らは、陽介たちの勇気と力に心からの感謝を捧げ、風の谷への安全な道案内と、砂漠で生き抜くためのいくつかの知恵、そして貴重な水と干し肉を一行に提供してくれた。そして、リーダーは陽介に、太陽の神殿にまつわる古い言い伝えを語って聞かせた。それは、神殿がかつては砂漠の民の聖地であったこと、しかしある時から邪悪な力に汚染されてしまったこと、そして神殿の奥には、太陽の民の悲しい歴史が封印されているということだった。
数日後、一行は砂漠の民の案内で、風の谷へとたどり着いた。そこは、奇岩が天に向かって突き出すように立ち並び、絶えず強い風が砂を巻き上げながら吹き抜ける場所だった。その風の音は、まるで何者かの呻き声のようにも聞こえた。
そして、谷の奥深く、巨大な岩壁に隠されるようにして、古びた神殿の入り口が姿を現した。神殿の入り口には、太陽を象った紋章が刻まれており、それは長年の風雪に耐え、今もなお微かな魔力を放っているようだった。
「ここが……太陽の神殿……。ついに来たのね。なんだか、胸騒ぎがするわ……」
アリアが息を呑む。陽介の持つ聖剣カレドヴルフが、ひときわ強く輝き始めた。三つ目の破片は、この神殿の奥深くに眠っているに違いない。
新たな試練の地を前に、陽介は仲間たちと顔を見合わせ、決意を新たにする。この世界の運命を左右する旅は、まだ終わらない。神殿の奥から漂ってくる、古代の魔力と、そして何か得体の知れないプレッシャー、そして微かな悲しみの気配を感じながら、一行は固唾を飲んで神殿の入り口を見据えていた。




