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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: 星野 青明
第1章 わたし、召喚される
8/40

8,天職

 そろそろ退勤の時刻だ。今日は、昨日休んだ分(元団長が全然仕事をしなさすぎて)忙しくて、全然様子を見に行けなかった。


 まぁ、初日で悲鳴をあげているようなら、今後はジギス家にいてもらって、元団長と一緒に庭いじりでもしてもらうか……。


 そんなことを思いながら、台所に向かうと、すでに夕食の片付けは終わっているようだった。

 あれ?いつもならまだ、この時間は片付けているはずなのに……。


 すると奥の方から、子供たちのにぎやかな声が聞こえてきた。またケンカでもしてるのかな……そう思って広間に入ると、子どもたちが輪になって、ひよの周りを埋めつくしていた。


「大変!終電に乗り遅れちゃったわ!

 今日も職場に寝泊まりなんて、もう嫌よ!お肌がカビちゃう!」

「ひよ、ぼくの家においで!」

「だめ、わたしの家に泊めてあげるの!」

「みんな優しい!天使なの!?でもわたし、いまお金もってなくて……お金が払えないの!」

「ぼくの家は……タダで泊まれるよ……」

「わたしの家だって、タダで泊まれるし、美味しいご飯だってあるわ!」

「みんなありがとう!じゃあ今日から、ひとりずつみんなの家に泊まりに行くわね!」


 何の話をしているのかと、手元を覗き込もうとしたとき、後ろからトントンと肩を叩かれた。


「あんた……とんでもない逸材を連れてきたね」


 ライラさんの言葉に、おれは目を丸くした。

 彼女の話によると、新人はさっそく仕事をこなし、子どもたちのケンカをいなし、早く仕事を終わらせて、子どもたちと遊び始めたのだという。


「今は、もともとあったぬいぐるみを使って、ごっこ遊びに熱中しているのさ」


「あっ、ここに怪我人がいます!ピーポーピーポー!もしもし、お医者さんですか?怪我人をお願いします!はい分かりました!ただちに向かいます!ブーン!」


 ひよが1人を抱き上げると、みんながきゃーきゃーと「わたしもやってー!」と群がっていく。

 みんな勢い余って、ひよを引っ張り倒してしまいそうな勢いだ。


 おれは、ぐらついたひよの体を支えて「そこまで」と声をかけた。

 すると女の子のアビーが、顔を曇らせて言った。


「えー!ひよ、ここに泊まって行かないの!?」

「そうだ。おれの家にいるからな」

「なんでー!やだやだ、もっと遊びたい!」

「お前たちはもう、寝る時間だ。さぁ寝室にお入り」


 おれが優しく言っても、子どもたちは聞かなかった。ひよを見て、「明日も来る?」と尋ねている。


「うん!明日また、いっぱい遊ぼうね」



 泣く泣く子どもたちに見送られ、やっと解放された彼女は、汗だくだった。


「お疲れ様……今日は本当にありがとう。いい働きぶりだったと、ライラさんも褒めていたよ」


 するとひよは、爛々とした目で言った。


「えっ、ほんとに?嬉しい!

 ハーシー、この仕事させてくれてありがとう!わたし、子どもたちと遊ぶの大好き!」

「そうか……でも、疲れただろう?」

「疲れたけど、いい疲れなの。明日もまた遊びたいなぁって思うの。

 子どもたちも、ただ働くためじゃなくてね、遊ぶためになら、がんばって仕事に取り組めるんだよ」


 ひよは歩きながら、言葉を続けた。


「まぁ、言いたいことの1つや2つはあるよ?

 与えられた仕事が、子どもたちの成長段階に合ってない。包丁を使ったり、薪を割ったり、まだ5・6歳の子ができるわけない。与えられた課題が難しいと、みんな意欲をなくしちゃうんだよ。

 でもまず、色々変えていくには、郷に従ってみんなの信頼を得てからだよね」


 話が止まらない彼女を見ながら、おれはふと呟いた。


「ひよは、子供と関わるのが、天職なんだろうな」


 その言葉に、ひよは顔をほころばせた。


「そうだとうれしいな」


 その笑顔に、胸がぎゅっと掴まれる感覚を覚えた。


  その後もおれの出勤日には、ひよに護衛士見習いのところで働いてもらった。

  ひよは何事にも一生懸命で、素直で。


 あの子たちが慕うのもわかる。おれも子供時代に、ひよみたいな人がいてくれたら嬉しかったと思う。


 あの子たちとひよが、これからもああやって遊んでいる姿を、ずっと見続けられたらーー。


  ここ数日、そんな考えが頭から離れない。

  ひよが元の世界に戻るまで、あと2週間ほどだ。

  残りの日数が削られていくたび、おれは焦りを覚えていた。


「なぁ、ひよ」

「なに?」


  今日も汗だくになるまで働いたひよ。明日は非番の日だから、彼女もゆっくり屋敷で休んでほしい。

  そんな思いと裏腹に、ずっと考えていたことが、口をついて出てしまった。


「元の世界に戻るのをやめて……ここにずっといないか」


 その言葉に、ひよはピタリと足を止めた。そして遠慮がちに、彼女はおれを見上げた。


「わたし……どうしても元の世界に、戻らないといけないの」


 その瞬間、これまで温かかった心が、一気に冷めていくのを感じた。


「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど。ハーシーは、王様から何か聞いた?元の世界に帰る方法」


 真剣に向けてくる彼女の瞳に、おれは、目を逸らさずにはいられなかった。


「ハーシー?……どうしたの?」


 ひよの手を振り払うように、おれは冷たい声で言い放った。


「きみが元の世界に帰る方法を、おれは知っている。だけど、絶対に教えないよ」


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