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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: 星野 青明
第1章 わたし、召喚される
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7,護衛士館の人々

 わたしはハーシーと一緒に朝食を食べ、護衛士館へと向かった。


 ジギス伯爵家と護衛士館はとても近く、歩いて行ける距離だった。


「ハーシー、なんにも荷物持ってないね」


 わたしが目を丸くすると、ハーシーは「まぁ、家がすぐそこだし」と言った。


「いいねぇ。わたし出勤の前は、自分でお弁当作って、メイクして、持ち帰った仕事を持って…毎朝バタバタだったなぁ」

「え?家に仕事を持ち帰ってたの?それは働きすぎじゃないのか?」

「いや〜、自分でもそう思ってるんだけど……なかなか、仕事が回らなくて」


 ハーシーはうなって、どこの世界も大変なんだな……と呟いた。


「ちなみにお昼ご飯は、見習い護衛士たちが作ってくれる。彼らにとっては、それが仕事だからさ」

「へぇ。じゃあハーシーも、見習いの時代は作ってたの?」

「そうだよ。手が回らない時は、今も手伝ったりしてる」

「さすが……人望のある団長さんは違うね〜」


 わたしが残業してても、飲みに行くために見て見ぬふりして帰る同僚、たくさんいたもんね……ははは。

 すると、ハーシーは褒められて嬉しかったのか、もっと褒めてほしそうな顔で言った。


「こう見えておれ、一応荷物は持ってるんだよ」

「え、どこに?」


 するとハーシーは、コートの首元のボタンを外して、少しだけ中を覗かせてくれた。

 なんとコートの中には、無数の小さい刃や、かくしポケットがあった。


「えぇええ!!外からは全然分からなかった!」

「そうだろ。だから不用意に、誰かのコートが落ちていたりしても、触っちゃダメだよ。怪我をするかもしれないし、もしかしたら、毒がついているかもしれないから」


 そういえば、はじめに崖から落ちて、助けてくれた時。とっさのことだったのに、ハーシーは重りのついたロープを投げて木にかけていた。

 もしかして袖に、ずっとその重りを入れてる……?


「すごい。護衛士さんて、本当に体を張って、人を守ってるんだね。

 わたし、ハーシーに助けてもらえて本当にラッキーだったよ」


 そう言うと、ハーシーは微笑んで「こちらこそ」と言った。


「実はいま、護衛士館で人手が足りなくてね。できれば若い女性にいて欲しいんだけど、なかなか続かなくて……」

「うん、私にできることなら、何でも言ってね!働かざる者食うべからずだから!」

「すごいな……」


 ハーシーが呟いた言葉に、わたしは首をかしげた。


「ひよは、腰が低いだけじゃない。元気で、やる気もあって、見ていて元気をもらえる。

 いいご両親のもとで育ったんだなぁって感じるよ」


 その言葉に、わたしは一瞬固まったけれど、表には出さなかった。不幸自慢なんてしたくない。

 わたしを見て、元気をもらえるって言ってくれたことが、すごく嬉しいんだから。



 護衛士館に着くと、朝早くから、すでに訓練が始まっていた。野太い掛け声とともに、刃が混じり合う、甲高い音が聞こえる。


「ひよが働くのは、護衛士見習いの館だよ。案内しよう」


 ハーシーに着いていくと、今ちょうど、見習いの子達は台所で、朝ごはんの片付けをしているようだった。

 その子たちが働いている姿を見て、わたしは固唾を飲んだ。


「ハーシー……この子達、何歳?」

「下は5歳、上は15歳までいるよ。16歳から、正式な護衛士になるからね」

「この子達……お父さんとお母さんは?」

「……いないよ」


 そう答えてくれた瞬間、ハーシーはその子たちの前に出ていった。


 すると顔が明るくなって、パッと手を止めて子どもたちが駆け寄ってきた。


「ハーシー!昨日ね、夜までお洗濯がんばったよ」

「ぼくだって、夜まで仕込みがんばった!」


 みんな口々に、ハーシーに褒められようとアピールしている。そんな中で、近づいてこず、遠巻きに様子を見ている子もいる。


「みんなえらいぞ。また遊んでやるからな。

 今日は、新しい仲間を連れてきたんだ」


 緊張した面持ちで前に出ると、子どもたちもしんとなって、わたしの顔を見あげた。


「はじめまして、ひよといいます。

 最近この国に来て、分からないことだらけなので、色々教えてね」

「おーい、ライラさん!ライラさんどこにいる!?」


 ハーシーが呼ぶと台所の奥から、恰幅のいい煤だらけのお婆さんが出てきた。


「新入りだから、よろしくね。

 ひよ、何か困ったことがあったらいつでも、護衛士館の執務室においで」


 そう言い残して、ハーシーは颯爽と行ってしまった。

 まるで、現場に1人残された、懐かしき新入社員の頃のようだ。

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