6,ネックレスのありか
ジギス伯爵家に帰ると、日が暮れていた。
あっという間に夕食の時間になり、メリッサさんにお風呂に誘われて、背中を流してもらって、髪を乾かしてもらい、夢見心地でベッドに入った。
この世界は電気がないから、ろうそくの節約のために、早く寝ないといけない。まぁ携帯もないし、テレビもないし、やることもないから寝るしかないんだけど。
毎日仕事から帰って、ダラダラと動画みて、ゲームして、寝落ちる生活を続けていたわたしにとっては、ちょっと物足りないなぁ。健康にはなりそうだけど。
すると客間を、トントンとノックする音が聞こえた。メリッサさんだと思い返事をすると、なかなか入ってこない。
わたしは扉を開けると、廊下にハーシーが立っていた。
「どうしたの?」
「明日、おれは護衛士の館に行く。ひよには、一緒に着いてきてもらいたいんだ」
「うん、分かった!今日はしてもらってばっかりだったから、明日からしっかり働きます!」
そう言うと、ハーシーは微笑んで「おやすみ」と、早々に離れていってしまった。
「あの……!」
わたしが呼び止めると、彼は足を止めた。
振り返った顔が、どことなく暗い。
やっぱり疲れているのかな。相談するの、やめとこう。
「おやすみハーシー。また明日ね」
「うん、また明日」
わたしは手を振って、彼を見送った。
そして決心をした。明日の朝早起きをして、護衛士館に行く前に、探しに行こう。
メリッサさんには、事情を話しておいた。けれどハーシーには、心配をかけるから言わないでと伝えた。
「わたくしもお手伝いに行きましょうか?」
「いえ、きっとすぐ見つかると思います。見つからなくても、すぐ帰ってきますから」
薄暗いもやのかかる朝、わたしは自分で柵を開けて、ジギス伯爵家を飛び出した。
あれだけは、ぜったい見つけなきゃ。
ーーあの人がくれた、大事なお守りだから。
わたしは、初めてこの国に来た時にいた所をめざして、急いで走った。今回は崖に落ちてしまわないように、気をつけなきゃ。
使用人さんの靴を貸してもらって、履きなれないけど、そんなに走りにくくはない。
昔から走ることにはちょっと自信があったから、ちよっと息が弾むくらいで、あの場所に戻れた。
わたしは落ち葉をかきわけながら、必死に探した。タイムリミットは、日の出まで。完全にお日様が出てきたら、屋敷に帰る約束だ。
けれども、かき分けてもかき分けても、ネックレスは見つからない。あんな細いもの、この森でみつけようって言うのが無理なのかな……。
そろそろ日の出だ。帰らなきゃ。
今日のところは諦めて、また明日の朝来よう。
また走って戻ったわたしの髪は、想像以上にボサボサだったらしい。朝食前の忙しい時間なのに、メリッサさんが櫛でとかしてくれた。
「まぁ、見つからなかったんですね。わたくしも、時間がある時に探してみます」
「あ、いえいえ。そんな、お手をわずらわせてしまっては申し訳ないので……もう少し探して、なければないで諦めます」
「そうですか?でも、早めに見つけないと……ここら辺りは、獣がいますからねぇ。いつ持っていかれてもおかしくないですし」
「そうなんですね……」
わたしは、もう見つからないかもしれないと、腹をくくった。