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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: 星野 青明
第1章 わたし、召喚される
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5,王宮

 わたしとハーシーは、応接間に通された。

 さすが王宮。召使いさんもたくさんいるし、来ただけで、高級そうな飲み物とお菓子を出してもらえた。


「ただいま、お呼びいたします。少々お待ちくださいませ」


 わたしはきょろきょろと、応接間を見渡した。天井を見上げると、それは見事な絵画が描かれている。

 どこぞの美術館みたいに、とてつもない威厳と歴史を感じる。


 ハーシーは慣れているのだろう。優雅にお茶を飲んで、落ち着いた表情でとなりに座っている。彼は、こういう部屋が本当に似合う。まるで絵の中の一部のように、ここにいることになんの違和感もない。



 せっかく出してもらったので、わたしもカップに手を伸ばした。日本で売られている紅茶とは、風味が違うけど、口の中がすっきりして美味しかった。


 わたしは気まずくならないように、目の前に置かれたクッキーに手を伸ばした。


「美味しい?」

「うん、ハーシーは食べないの?」

「おれはあんまり、甘いものは好きじゃないかな。もともと平民だから、食べ慣れてないし」

「え?もともと平民て……」


 その時、ゆっくりドアがノックされた。

 ハーシーが立ち上がったのを見て、わたしも同じように立ち上がった。


「待たせたな」

「失礼しますね」


 それは、まごうことなきこの国の王様と、お妃様だった。だけど2人とも、思ったより年若いことにびっくりした。

 そうか、ハーシーと王様が幼なじみって言っていたから、同じ年頃なんだ。


 王様は、わたしと同じような黒髪をしている。漆黒で、つやつやと整えられた髪に、碧い瞳がひときわ映えている。

 男性と言うには中性的な、髪が長ければ女性とも見てとれるような、とてもきれいな顔立ちの方だ。


 お妃様は、ハーシーとおなじ金髪碧眼。

 髪は清楚にまとめられているけど、その顔のきりっとした美しさが、飾りなんてなくても高貴さを感じた。


 2人が近づいてくるたびに、わたしはそわそわしてしまいそうな体をおさえ、開いてしまいそうな口を固く閉ざした。だって開けたら、ハーシーに指を突っ込まれるから。


「はじめまして。わたしはアウル国王、クラウスと申します」

「はじめまして。わたくしはアウル国王妃、アレクサンドルと申します。かわいらしい聖女様にお会いできて、とても嬉しいですわ」


 わたしは、見よう見まねでやるより、日本式のお辞儀で挨拶を返した。


「はじめまして!日向ひよと申します!このたびは、突然の訪問をお許しくださいまして、誠にありがとうございます!」


 学生時代、部活をしていた名残で、挨拶の声は大きく!はきはきと!と口うるさく言われていたのが、今に生きてよかった。


「まぁ、元気な聖女様ね。今度ゆっくり、お茶しましょうね」

「お茶の前に、アレク様。お願いなのですが、ひよの生活用品を、見繕ってもらえないでしょうか。おれだと、何を準備していいか分からなくて……」


 するとお妃様は、目を丸くした。


「まぁ、もちろんよ!今すぐわたしの部屋にいらっしゃい、必要なものは全部あげるわ」


 わたしはハーシーに、1人にしないで〜!と視線を送った。だが「ここで待ってるから」と、にこやかに見送られた。



「……なぁ。どうしておれに、聖女召喚の魔法陣を送った? ご丁寧に、魔力のないおれのために、お前の魔力を込めてまで」


 ハーシーの問いに、クラウスは肩をすくめた。


「迷惑だったか?」

「何か意図があるのかって聞いてるんだ」


 苛立ちをおさえられない様子で、ハーシーはクラウスをにらんだ。


「……お前が、いつまでも結婚しないから。なにか変わるきっかけになればと思ったんだ」

「そんな特別扱い、してくれなくていい」


 クラウスは、冷たく微笑んだ。昔からこいつは、こういう笑い方をするやつだった。


「そう言って、ちゃっかり召喚しているじゃないか。良かったな、同じ年頃の子で。

 お揃いの服を着て、もう夫婦のようだったぞ」

「……聖女について教えてくれ。彼女は、どれくらいこの世界にいるんだ。どうしたら、元の世界に帰れる」

「お前は彼女を、元の世界に帰したいのか?」

「彼女は帰りたがってる。無理やり、異世界から連れてきて……そんなの間違ってる」


 ハーシーは拳を握った。

 さんざん優しくしてしまったけれど……これ以上、情を移すのは危険だ。


 彼女が、はやく元の世界に帰るように……まだなんの思い入れのない、ただの他人でいるうちに。

 おれの本当の性格を見せて、嫌われてしまう前に……。


「1ヶ月だ」


 クラウスの言葉に、ハーシーは顔を上げた。


「聖女の魔力は絶大と聞く。そのぶん、契約の更新もこまめに行わなければいけないらしい」

「契約の更新?」

「永住の条件は、この世界の人間と結婚すること。そうして、死ぬまでこの世界で過ごした聖女も過去にはいたらしい。

 更新は……そうだな。恋人らしいことをしなければ、彼女は自然に元の世界に帰るだろう」

「……分かった。それで、恋人らしいことってなんだ?」


 するとクラウスは、吹き出したように笑った。

 珍しい。こんなに感情をさらけだして、腹を抱えて笑うなんてこと、めったにない。真剣に聞いたのに……おれなんか、変なこと言ったか?


「お前さ、ちょっとは自分で勉強しろよ。いつまでも聖人みたいな顔して。仕事のし過ぎもほどほどにしろよ」


 そのとき、応接間の扉が開いて、女性陣が帰ってきた。



「あの……お妃様に、たくさんお土産をいただいてしまって。なんとお礼を言っていいのか……」

「いいのよ。遠慮なく使ってちょうだい。またね、ひよさん」


 ごきげんよう、と見事なお辞儀を見せてくれたお妃様は、さっそうと部屋を出ていかれてしまった。


「わたしもそろそろおいとましよう。どこかの誰かさんと一緒で、仕事が忙しいのでね」


 なぜか嫌味っぽいセリフを吐いて、王様も去っていってしまった。

 わたしは、少し暗いハーシーの表情に気がついて、顔をのぞきこんだ。


「……大丈夫?疲れちゃった?」


 ハーシーは我に返って、微笑んでくれた。


「うん、大丈夫。家に帰ろう」



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