表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: 星野 青明
第1章 わたし、召喚される
4/40

4,身支度

 街へは馬車で連れていってくれるらしい。

 ごとごとと揺れる車内から、外の景色を眺めながら、わたしは改めて異世界に来たんだと実感した。


 向かい合って座っているハーシーも、どことなく外を眺めている。

 何を考えているんだろう。あんまり喋ってくれないと、ちょっと気まずい。


「あの……ハーシーは、聖女を召喚したかったんだよね?」


 わたしが尋ねると、ハーシーは我に返った。


「あ……うん、そうだね」

「王様から通達が来ていたって言ってたけど、じゃあ王様は、色んな人に召喚を頼んでいるってこと?」

「うん、そうだと思うよ。

 聖女は、この国を守ってくれる守り神みたいなものだ。だけど、そう簡単に召喚できるわけじゃないみたいで。誰が召喚できるのか、いつ召喚できるのかは、定かではないんだ」

「今までの聖女様は、お役目を終えたら、自分の世界に帰ったのかな?」

「うーん、どうなんだろう。おれが生まれてから、だれかが聖女様を召喚したって話は聞いてない。今回、どうして……王様が聖女を召喚したかったのか、今日聞きに行こうと思ってる」


 その言葉に、わたしは耳を疑った。


「え!?今日!?

 そんな簡単に会いに行けるものなの!?」


 するとハーシーは、ふっと微笑んだ。


「まぁ普通だったら、会えないけどね。おれと王様、幼なじみだから。行ったら話す時間は作ってくれると思う」


 開いた口が塞がらない。王様と幼なじみって……なんて太いコネクション。やっぱりこの人は、庶民には考えられないスケールで生きている人なんだ。


 それなのに、女の子が寄ってこないって……仕事のためもあるのかもしれないけど、それにしても有り得なさすぎる。



 馬車が止まって、目的の場所に着いたようだ。

 まさかの、お店の目の前で、徒歩0分。馬車は、使用人さんがどこかへ置きに行った。


 お店の中に入ると、元の世界では入ったこともないような、格式高い内装に、一点物の洋服が飾られていた。


「ハーシー……ここ、ものすごく高いんじゃない?」


 耳打ちすると、ハーシーもわたしの耳元で囁いた。


「平民の給料の10年分くらいかな」

「えぇええっ!!いやいやいや、そんな高い服を買ってもらうわけには……!!」

「だって今日は、アウル国王に挨拶に行くんだ。そんな使用人の格好で、行かせられないよ」

「まぁ確かにそうだけど……〇山くらいの、フォーマルな服で充分じゃない……?」


 そんな話をしていると、ニコニコした店員さんにあれよあれよと中に入れられ、試着室でボディサイズを計られ、あれよあれよと似合いそうな服を持ってこられた。


「ジギス伯爵様は、群青色のお召し物ですので、同じようなお色味がよろしいでしょうか?」

「えっと……1番安いもので大丈夫です……」


 わたしじゃあ埒が明かないと思ったのか、店員さんは問答無用でその服を着せて、ハーシーの前に連れ出された。


「いかがでしょう?品のある、素敵なドレスでございますでしょう。このお色味なら、黒髪も美しく見えてございます。王様に会いに行かれるのでしたら、せっかくですから、お揃いの色にされてはいかがでしょうか?」


 さすが営業の人は、口が上手いなぁ。でもハーシーの隣に並んで映えるのは、わたしなんかじゃなくて、貴族のご令嬢様だと思う。


 わたしなんか、使用人さんの服で充分なのに。

 そんな、自信がなさそうなわたしを気遣ってくれたのか、座って待っていたハーシーが、腰を上げて近づいてきた。


「似合ってる。ひよは気に入った?」

「えっと……素敵だと思うけど、やっぱりお値段が……」

「普段はさ、仕事ばっかりしてて、お金の使い道もないから。こういう時くらい、格好つけさせてくれると嬉しいな」


 もう……なんてスマートな奢らせ方。紳士にもほどがある。

 わたしはそれ以上拒む理由もなく、こくんとうなずいた。


「あと何着か、適当に見繕って、屋敷に送っといて」

「かしこまりました」


 もう口を挟む余裕もなく、わたしはハーシーに背中を押されて、店を後にした。


 え、これって……あとで請求されたりする?

 買った服代を、働いて返せとか?

 じゃなきゃ、なんでここまでしてくれるのか分からない。とりあえず帰ったら、メリッサさんに習ってお屋敷のお掃除をしよう……。


「おれさ、女の子が生活するのに何が必要か、全然分からないんだ。ごめん。他に必要なものってあるかな?」

「えっとまぁ……月に一度は、月のものがくるわけで……それ用の下着とかは、必要かな?」

「そうか……ちょっとそこら辺のことは、お妃様に相談しようか」

「お妃様!?」


 いちいち驚くわたしにもう構ってられないのか、ハーシーは問答無用で、わたしを馬車に乗せた。


「……え?もうここから、王宮に向かうの?」

「そうだよ」

「だって、王様に会うときの作法とか……この国のマナーとか、わたしなんにも知らないし!」

「とりあえず、ぽかんとしてる口さえ閉じておけば大丈夫さ」


 ハーシーに言われて、わたしはずっと口が開いていたことに気がつき、手で口を覆った。


「そうそう。次にぽかんとしてたら……そのかわいい口に、指を突っ込むからね」


 ……え?今なんて言った?

 ハーシーなりの冗談かな?

 ここは笑ってもいいところ?

 ハーシーって、実はドSなの???


 とりあえずわたしは、気まずくならないように、その場を笑ってやり過ごした。

 そんなこんなで、馬車はあっという間にお城の敷地に入っていることを、わたしはまだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ