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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: 星野 青明
第1章 わたし、召喚される
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3,ジギス伯爵家の人々

 お屋敷の中の客間に連れてこられ、わたしは怪我の手当をしてもらった。


 そのあと、夜更けまでもう少しあるから、一眠りしたほうがいいとハーシーは言った。


「着替えは、夜更けに使用人が起きてきたら、頼んでおくから。ゆっくりお休み」


 そういって、大きなベットに寝かせられた。

 お休みって言われても、初めての場所で緊張して寝れないよ。


「……行っちゃうの?」


 わたしは少し甘えた声で、布団越しにハーシーを覗いた。でもさすがに、いい年した男女が、同じ部屋で夜を過ごすのも、いかがなものか。


「隣の部屋にいるから。何かあったら呼んで」


 わたしは素直にうなずいて、ハーシーを見送った。

 ふかふかの布団の中であくびが出ると、案外眠気がきたみたいだ。


 わたしはいつの間にか、眠りに落ちていた。




「おはようございます」


 その声に、わたしははっと目を覚ました。

 もう日が高い。真っ暗で見えにくかった部屋は、豪華な装飾がめぐらされて、まぶしいくらい煌びやかだった。


 ベッドの近くに立っているのは、使用人らしき年配の女性だった。わたしは急いで起きて、ベッドの上で正座をした。


「は、はじめまして!日向ひなたひよと申します。

  急にお邪魔してしまって申し訳ありません!」


 するとその女性は、目を丸くした。


「まぁ、なんて腰の低い聖女様なんでしょう。

 ハーシー様は、素敵な方を召喚されたのですね」


 その一言に、もうわたしはこの人が大好きになった。この女性は、メリッサさんというらしい。


「差し支えなければ、着替えをお持ちしましたので、お手伝いさせていただけますか?」

「はい、よろしくお願いします!」


 わたしの元気のよすぎる返事に笑みがこぼれ、心を開いてくれたのか、メリッサさんは手を動かしながらたくさんお喋りをしてくれた。


 ハーシーは、このジギス伯爵家の一人息子であること。家族は父親しかおらず、あとここに住んでいるのは、わずかな使用人だけであること。


 隣接する建物は、護衛士館といって、もっとたくさんの人が住んでいる。

 ジギス伯爵家は代々、護衛士を育てて各地に派遣することで、生計を立てている貴族なのだそうだ。


 ハーシーはその護衛士団の団長だが、日中は自分も仕事に出かけたり、夜の当直をしたりしている。


 子供の頃から、周りの護衛士と一緒に育ってきたので、辛い仕事も率先して行い、必要な時は最前線で指揮を行う、それは人望のある団長なのだそうだ。


「助けてくれた時も思ったんですが……すごくかっこいいですよね。女の子も、よりどりみどりでしょう」


 そう言うと、メリッサさんはなぜか表情を曇らせた。


「それが……護衛士は、汚れ仕事ということもあってか、一度も貴族のご令嬢が会いに来られることはございませんでした。

 ハーシー様も、舞踏会の日こそ護衛のお仕事をいたしますので、なかなか交流がないご様子で……」


 その時、コンコンと部屋の扉がノックされた。

「入ってもいい?」と、話題の人物、ハーシーの声がした。


 わたしはいつの間にか、髪まできれいに編み込まれて、お化粧も少し施され、すっかり人に会う準備が整っている状態になっていた。


「ようございますよ」


 メリッサさんが返事をすると、ハーシーが客間に入ってきた。


  うわ……まぶしい!!

 陽の光の中で見る金髪碧眼のハーシーは、車のハイビームをくらった時くらい眩しすぎる!!


 でもそんな例えは、この世界の人には分からないと思うので、わたしは口をつぐんだ。


「申し訳ありません。女性用の着替えはこの、使用人用の服しかなくて……」

「うん、ちゃんとした服を今日、仕立ててもらいに行こう。

 その前に、お腹がすいただろう。一緒に朝食を食べよう」


 ハーシーにエスコートされて、わたしは客間を出た。こんなお姫様みたいな扱い、されてもいいんだろうか……。


 そもそもわたしは、聖女として召喚されたみたいだけど。聖女って、何かしないといけないのかな?

 お役目を果たしたらもしかして、元の世界に帰れる?


 わたしはまだ、家賃滞納の文字が頭から離れない。


 ハーシーに連れられるまま、広間のようなところに入ると、すでに食卓には、初老の男性が座っていた。


「はじめまして。わたしはジギス伯爵。息子が突然、あなたを召喚してしまったと聞いて。迷惑をかけたね」


 その人はわざわざ立ち上がって、挨拶をしてくれた。わたしは、この世界の作法は分からないけど、とにかく無礼にならないように、頭を深々と下げた。


「はじめまして!日向ひよと申します!

 息子さんには、崖から落ちて死にそうになったところを、助けていただきました。お部屋も貸していただいて、本当にありがとうございます」


「そうか、それは大事にならず良かった。見ての通り、この屋敷には全然人がいないからね。部屋もたくさん余ってるし、好きなだけ居るといい。

 なにか困ったことがあれば、使用人のみんなが力になってくれるだろう」


 伯爵を囲むように、数人の使用人たちが立っていて、その中にメリッサさんも加わっている。わたしが「よろしくお願いします!」と頭を下げると、使用人の皆さんも深々とお辞儀を返してくれた。


 貴族のご令嬢が寄りつかないなんて、もったいないほど、この家の人たちはみんな温かいなぁ。


「とりあえずおれ、今日は非番でいいかな。ひよの生活に必要なものを、街で揃えてきたいから」

「あぁ、そうしなさい。たまにはわしも、あっちに顔を出さんとなぁ」

「そうだよ。元団長がずっと庭いじりしてるなんて、みんなが知ったらがっかりだ」


 伯爵は笑いながら、「護衛士館でも、庭いじりするよ」と言った。「ちゃんと仕事しろ!」と真面目に返すハーシーを見て、親子って微笑ましいなと思った。

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