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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: 星野 青明
第1章 わたし、召喚される
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2,金髪碧眼の騎士様

 馬なんて乗ったことないから、どうぞと言われても乗り方も分からない。

  するとハーシーが先に乗り、足をかける場所を教えてくれて、上から引っ張ってくれて乗ることができた。


  うわぁ、めちゃくちゃ視線が高い!

  それにけっこう揺れるから、振り落とされないか心配で怖すぎる。


  そういえば会社の福利厚生で、乗馬体験のチケット入ってたなぁ。1回でも行っておけばよかった。

 

  いやいや、それどころじゃない。一人暮らしの家の家賃もあるし、早く戻らないと滞納になって、住む家がなくなってしまう。

  職場にも迷惑をかけるし……。


「ひよ。きみは、どこから来たんだい?」


  後ろに乗っているハーシーに話しかけられて、わたしは顔を上げた。


「日本ていうところ。ここは……」

「うん、アウル国だ」


  聞いたこともない国。たぶん、わたしの生きていた世界には存在しない。

  ということは、わたし……。


「もしかして、異世界に来ちゃったのかな」

「そうみたいだね。にほんていう国は、おれもはじめて聞いた。近くにもないはずだから」


  となると、歩いて帰れるわけじゃない。わたしがなぜ今ここにいて、どうやって来たのか。その真相を突き止めない限り、戻る方法は分からなそうだ。


「あの……ハーシーさんは、」

「ハーシーでいいよ」

「ハーシーは、どうしてわたしを助けてくれたの?」


  すると彼は、しばらく間を置いたあと、重たそうな口を開けた。


「おれがきみを……召喚したからだよ」

「え!?」

「あ、いや、王様から通達が来ててさ。聖女を召喚して欲しいって」

「聖女?」

「そう。だからひよは、きっと聖女として選ばれたんだろうね。まさか魔法もろくに使えない、護衛士のおれが、召喚に成功するなんて思ってもみなかったから……」


  ごにょごにょと言い始めたハーシー。彼にとっても、わたしが来たのは予想外だったみたいだ。


「でも、召喚できたなら、元の世界に戻る方法もあるよね?」

「うーん……おれは、配られてた聖女召喚の魔法陣を、試しに使ってみただけで。王族や魔法使いなら、わかる人がいるかもしれないけど」


  そうか。この国では、魔法使いがいるんだ。なら希望はありそうだ。早く会いに行って、家賃滞納を阻止しなきゃ。


  それにしても、こんな裸足のパジャマ姿で会いに行くわけにはいかない。

  ハーシーは、貴族のような襟の高いコートを着ているから、明るくなると、なんともわたしは滑稽に見えるだろう。

  まだ暗いうちに、着替えができるといいんだけど。


「ハーシー、今はどこに向かってるの?」

「おれの家だよ。心配しなくてもいい。住むところも、食べるものも、ぜんぶおれが保証するから」

「……ありがとう。でもその前に、何か着るものをくれる?

  この格好じゃ恥ずかしくて、おうちの人にご挨拶もできないから」


  するとハーシーは、笑いながら「可愛い服だと思ったけどなぁ」と言った。

  えぇ、可愛いでしょうよ。社会人のわたしが、年甲斐もなくクマちゃんがプリントされた、耳つきのフードパジャマを着ている。

  仕事に疲れて、家ではテンションを上げたくて、衝動買いしてしまったのよ。


  そんなことを考えていると、急に森が開けて、はるか空まで届きそうなほど高い柵が、目の前に現れた。

  お馬ちゃんに乗ったまま近づくと、中から誰かが、柵を開けてくれた。

  もうご挨拶しないといけないかと思ったけど、その人は柵を閉めると、あっという間に暗闇に消えた。


  中に進むにつれて見えてくる、白くて大きな洋館。

  かつて修学旅行で見た、国会議事堂よりも大きいその建物に、わたしは息を飲んだ。


「ハーシーって……王子様なの?」

「え、いや、そんなことないよ。おれは伯爵だから、身分はそんなに高くない。

  この国じゃ、これくらいの屋敷、どこにでもあるから」


  そう言いながら、ハーシーは馬を止めて、また丁寧に降り方を教えてくれた。乗る時も苦労したけど、降りる時も、なかなか足が地面につかない。


  するとハーシーが、後ろから体を抱きとめてくれて、なぜかお姫様抱っこされてしまった。


「えっ、いやいや、申し訳ないから降ろして!」

「ひよは、裸足だから。森で走って、怪我もしているだろう?」


 お屋敷の中は、ぽつぽつと火の灯りがともっている。そこを通るたびに、ハーシーの髪はきらきらと黄金に輝いて、一瞬、瞳の(あお)さまで鮮明に見えた。


  ……どうしよう。素敵すぎる。こんな経験、日本じゃどんなにお金を積んでも、得られなかったと思う。少しの間でも、召喚されて良かったかも。


  彼はそんなに身分は高くないと言ったけど。

  わたしにとっては充分、かっこよくて、気遣いに溢れていて、王子様みたいだ。


 わたしは恥ずかしさで顔を上げられないまま、ハーシーの腕の中で、身を固くしていた。



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