表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: RUNA
第2章 わたし、成長する
17/40

17,お姫様

「ひよ、厨房で泣いてただろう?なにかあったのか?」


 仕事が終わって迎えに来てくれたハーシーが、心配そうに言ってきた。見ていないと思っていたけど、見られていたらしい。でも他の子達もいる手前、おおっぴらに話すわけにはいかない。


 わたしはハーシーに、耳打ちをした。


「……ちょっと、ここでは話せないから。帰りながら言うね」

「わかった」


 わたしは、子供たち一人一人に「おやすみ」と伝えて回った。アビーは元気な顔で、「また明日ね!」と言ってくれた。



 夜の星が瞬くなか、ハーシーと二人、ジギス伯爵の屋敷まで歩いている。


 わたしは、アビーのことは置いといて、ラッセルが彼女に花をプレゼントしたことだけ話した。

 するとハーシーは「あいつやるなぁ」と、どこか嬉しそうに笑った。


「あの二人、本当に推しだわ。幸せになってほしすぎる」

「推し?」

「推しっていうのは……応援したい人、かな?」

「なるほどね。じゃあおれも、二人のこと推しになるのかな」

「わぁ、推し被りですね!同担!いえーい!」


 ハーシーはハイタッチに応じてくれながらも、色々聞きなれない言葉に苦笑いしていた。


「ラッセルは16歳になったら、おれの養子にして、貴族の学校に入れるつもりなんだ。

 あいつはここで人生を終わるんじゃなくて、もっと広い世界を見て、見聞を広めたら、才能が開くんじゃないかと思ってる」


「やっぱりそうなんですね……推しカプが離れ離れになったら、辛いなぁ」


「まぁ、離れ離れって言っても。

 同じ世界にいるんだから、いつかはまた会えるだろう」


「そうですね。わたしが元の世界に帰ったら、二人のこと、よろしくお願いします」


 その時、ハーシーが足を止めた。

 わたしは今まで、じっくり人を観察することがなかったけど。今日あんなことがあったから、今度はハーシーを、冷静に観察してみようと思った。


 なんで足を止めてるんだろう?わたしの「帰ったら」っていう言葉に反応した?

 彼は何か言いづらそうな顔で、固まっている。わたしに聞かせたくないけど、言わないといけない話があるのかな?


 その言葉を待ってあげたいけど、沈黙は気まずい。わたしは彼より先に、口を開いた。


「あのね。ハーシー様も、わたしの推しですよ」

「……おれも?」


 その時、彼の瞳に少しだけ、光が宿った。


「はい。お仕事の話をしているとき、真剣な顔が、すごくカッコいいです。

 あと、子どもたちみんなのことも、よく見てくれています。

 ハーシー様は、この護衛士館で働いている人、みんなを大事にしているのが伝わってきて推せます」


 夜の暗闇のなか、耳が赤くなっているかどうかまで見えないけど。彼の表情は穏やかになって、「ありがとう」と優しく微笑んでくれた。


「おれはみんなが、笑顔で暮らしていけるようにしたいんだ。そのために、おれがここを守っていかないといけない。

 でも、おれの笑顔は……きみがいないと、消えてしまいそうだ」


 まただ。また泣きそうな顔になっている。

 大の大人が、男の人が、こんなにも泣き虫なのは初めて見た。


「君が元の世界に帰る日まで……あと、1週間しかない」

「えっ……あと1週間!?」


 急な告知に、わたしは大きな声を出してしまった。


「ちょうど1週間後、満月の日。

 おれがひよを召喚した日から1ヶ月が経つと、召喚を解いて、元の世界に返してあげる事ができる」


「そうなんですね!そんなに早く戻れるって知らなかった。1週間て、きっとあっという間ですね」


 その言葉に、彼は何も答えなかった。

 わたしは我慢の限界にきて、思わず口を開いた。


「なんで、いつも言いたいことを我慢するんですか?わたし察しが悪いから、表情だけでわかったり、人の気持ちに気づいたりできないんです。

 だからちゃんと、ハーシー様の気持ちを言葉にして欲しいです!」


「ひよを、傷つけてしまわないかと思って……」


 彼の、どこか怯えたような表情。もしかしてわたしが、小さくなってしまっていたことと関係があるのかな?


「……わたしも、正直に思ったことを言います。でも、ハーシー様のことを否定はしません。だから安心して、言ってみてください!」


「それじゃあ……聞いてみてもいいかな」


「はい、なんですか?」


「おれがあの女性と、舞踏会に行くのを知った時、なんで怒ったの?」


 予想外の質問に、わたしはうろたえた。てっきり、召喚は裸でやらないといけないとか、そんな感じで言いにくいのかと思ってた……。


「えっと……嫉妬、したからですかね……?」


 するとハーシーが、ぐっと顔を近づいてきた。

 だ、大丈夫。この星明かりだったら、顔が赤くなってても、きっと分かんないだろう。


「嫉妬?なんで?」

「なんでって……なんででしょうね?

 わたしもハーシー様と、舞踏会に行きたいと思ったから……?」


 彼はいつの間にか、膝立ちになっていた。立っていると身長差があるけど、ハーシーの顔が低くなって、いつもよりも彼の表情がよく見える。


 彼はわたしを見上げながら、何を思ってるんだろう。目を合わせると気まずいから、わたしは顔をそっぽ向いた。


 そっと、ハーシーの手が、顔から耳に流れるように触れた。

 わたしはうつむいて「く、くすぐったいです……」と言うと、「うん、ごめん……」と謝りながらも、さらにすりすりとほっぺたを触ってきた。


「……一緒に行く?舞踏会」


「えっ!?で、でも、あの人との約束が……」


「残念ながら、王宮の舞踏会は、ひよが帰った後にあるんだ。

 あれは仕事で行くけど……その前に、伯爵家で舞踏会を開いてもらえないか、お願いしてみようか」


「えっ……それは、みんなでパーティってことですか!?」


「そう。護衛士や見習いたちも呼んで、みんなで」


 わたしは興奮のあまり、ハーシーの肩に手を置いた。


「うわぁ!それ、楽しそうです!!

 やったー!!パーティいつしますか!? 」


「明日。非番だから」


「あ……明日!?!?!?」


 わたしが目を丸くしたとき、彼はわたしの手を取った。そして優しく持ち上げ、手の甲にキスした。


「一日だけ……おれのお姫様になってくれますか?」


 また、川に飛び込みたくなってきた。

 胸が痛くなって、顔がほてって、ハーシーをぎゅっとしたい気持ちが、ぜんぶ一気に襲ってきた。


 まっすぐにわたしを見つめる、青い瞳。

 気のせいじゃない……ハーシーは、私に帰って欲しくないんだ。

 それでも、わたしが帰りたがっているから「一日だけ」って言ってくれたんだ。


 その気持ちは……アビーがラッセルに感じているものと、同じなのかな?

 好きだけど、相手の幸せを願ってってこと……?


 わたしも、言いたいことを正直に言うって約束してしまったから。だけどこの気持ちは、どうやって伝えたらいいんだろう……。


「あの……」

「なに?」

「お姫様抱っこ、してほしいです……」

「……はい、よろこんで」


 その瞬間、ハーシーは立ち上がって、わたしをお姫様抱っこした。

 なにこの展開、少女漫画すぎる……。


「そうとなれば、早く帰って準備しないと」


 こんな嬉しそうな顔、初めて見た。

 でもそこからの、飛ぶような高速移動は……少年漫画すぎて、気絶するかと思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ