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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: RUNA
第2章 わたし、成長する
16/40

16,好きな気持ち

「ひよ。今日は……一緒に家に帰らないか?」


 そう聞いてきたハーシーの目は、まるで子どものようだった。


「うん。いいよ」


 そう答えると、彼の涙は引っ込んで、明るい顔になった。


「じゃあ、仕事終わったら迎えに行くから」

「う、うん」


 ようやく手を離してもらえて、わたしは執務室を出れた。わたしは足早に、見習い館に戻った。


 ハーシーに握られていた手が、じんじんする。この手はもう一生洗えない。いや洗うけど。

 ほっぺたも、触ってしまった……張りのある、ちょっとごつごつした、男の人の肌だった。



「ひよ、おかえり!……あれ、顔赤くない?」


 アビーに話しかけられて、わたしは初めて、顔が熱くなっていることを自覚した。


「えっと……な、なんでもないよ……」

「うそー!!絶対ハーシー様となんかあったでしょ!!」


 アビーのその言葉に、みんなわたしに注目した。

 恥ずかしくて恥ずかしくて、わたしは思わず、洗濯をしている子の横から、屋敷の中を流れる川に飛び込んだ。


「えーー!!なにしてるのひよ!!

 びしょびしょじゃん!!」


 目を丸くしてるアビーの横で、何が面白かったのか、小さい子たちがきゃーきゃー笑って、わたしのことを見ている。

 思わず飛び込んだけど、足がついてよかった。流れもそんなに早くなくて……。


 そんなことを思っていると「ぼくも入りたい!」「わたしも!」と、アビーが止める暇もなく、3、4人が飛び込んできてしまった。


 足がつかない子は溺れるんじゃ!?と冷や冷やしたが、みんなさすが、護衛士の卵だ。

 水には慣れているようで、器用に泳ぎながら、遊び始めてしまった。


「こらーーーー!!」


 その声を聞きつけて、近くで洗濯物を干していたライラさんが、駆けつけてきた。わたしは、急いで子どもたちを地面に引き上げた。


「何を遊んでるんだい!洗濯物も終わってないし!日が暮れちまうよ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 わたしは頭を下げながらも、小さい子たちが「楽しかったね、また水遊びしようね」と言ってきてキュンとした。可愛すぎて、今はそれ言う時じゃないよって、怒れない……。



「さっさと着替えてきなさい、風邪ひくよ」


 謝ったあとは、ライラさんも穏やかに接してくれた。わたしは濡れた子たちと一緒に、部屋に着替えに行ったあと、また洗濯物を洗いに戻った。


「アビー、ラッセル、ごめんね……二人にさせちゃって」

「大丈夫だよ。いきなり飛び込んだから、びっくりしたけどね」


 ラッセルがそう言ってくれた後、アビーがわたしに耳打ちした。


「逆にありがとう。二人きりにしてくれて」


 その言葉にピンときた。

 もしかしてアビーって……と言いかけたところで、彼女はわたしの背中をバンバン叩いてきた。


「もうやめて!わたしも川に飛び込みたくなっちゃうから!」


 そのはしゃいでいる声を聞いて、ライラさんがこちらを見ている。

 やばい、今度こそやばい……。


 わたしたちはそれ以降は話さずに、真面目に洗濯をする手を動かした。



 洗濯が終わって、掃除をしたあと、あっという間に夕食を作る時間になった。

 護衛士館にいるみんなの家事をしているから、子どもたちはほとんど、遊ぶ時間もなく働いている。


 護衛士さんたちも暇な時は手伝ってくれるけど、今日はみんな仕事だったみたいだ。夕食ができる頃に、みんな疲れた様子で帰ってきた。


 ちょうどできた料理をお皿に盛り付けているころ、彼らと一緒に、ハーシーも食堂に入ってきた。

 こちらを見ることもなく、真剣な表情で、他の護衛士さんと話をしている。


「……ひよ。そんなに見てたら、ハーシー様が好きだって、みんなにバレちゃうよ」


 わたしはハッとして、「好きってわけじゃ……!」と言い返した。


「……でも、見ていたのは本当。アビー、言ってくれてありがとう」

「うん。人の気持ちは、言葉だけじゃなくてね。その人が無意識に見ているものや、態度で分かっちゃうんだよ」


 年下なのに感心した。アビーは本当に、人を見る力があるというか、わたしよりも大人なところがある気がする。


「そうだよね……でもアビーのこと、わたし全然気がつかなかった」


 その時、裏の勝手口の方から、ライラさんが怒っている声が聞こえた。


「まーたあんたは!必要なものだけとってこいって言っただろ!?こんな遅い時間まで、外にいるんじゃないよ!!」


 怒られているのは、ラッセルのようだった。

 アビーは「またやったわね」と、肩をすくめた。


「……ラッセルは、本で見た植物の名前をすぐ覚えちゃうの。たまにああやって時間を忘れて、ずっと植物を見てるのよ」

「ラッセルって、自由時間はみんなと遊ばないし、何してるんだろうって思ってた。アビーもけっこう、ラッセルのこと見てるのね」


 すると彼女ははにかんで、「ふふ、そうなの。だからひよを見た時、あ、一緒だなって思ったのよ」と言った。


「ハーシー様も言ってたんだけど、ラッセルは将来、護衛士よりどこかの学校に入って、博士とか研究者を目指す方がいいんじゃないかって。

 だからいつか、ラッセルが学校に入れる年になったら、ここを出ていくんだと思う」


 アビーの声が、だんだん元気をなくして、暗くなっていく。


「だから……言わないの。

 その時、笑顔で送り出すために」


 そのとき裏から、ライラさんと、こってり絞られてしゅんとしたラッセルが戻ってきた。


 みんなの前で「遅くなってごめんなさい……」と頭を下げたあと、こちらにきて「なにか手伝うことある……?」とおずおずと聞いてきた。


「あんたね!毎回毎回、わたしが声かけに行かなきゃ戻れないわけ!?

 今日は何の雑草を見てたのよ!」


 ひよは心の中で、アビーったら言葉がきついよ……と思った。それじゃあ、ラッセルは気づいてくれないだろうな……。


 すると彼は、ポケットに隠し持っていた何かを出して、アビーに差し出した。


「これを探してたんだ……そろそろ咲く頃かと思って」


 丁寧に布で包まれていたのは、小さくて黄色い花だった。アビーのイメージぴったりの、明るくて可愛らしい花。


 アビーは、びっくりした顔をしていた。


「それって……」

「うん。前にアビーが、好きだっていってた花」

「これを見つけるために……?」


 その瞬間、なぜかわたしの涙腺がぶわっと緩んだ。

 アビーは、ぼろぼろと泣いているわたしにギョッとして、急いで手ぬぐいを渡してくれた。


「うわぁあああ推しカプすぎる!!」

「推しカプ……?よく分かんないけど、早く拭いて!!」

「またあんたたち、手が止まってるよ!!」

「ごめんなさいーー!!」


 わたしは手を動かしながらも、ふとアビーを見ると、耳たぶが真っ赤になっているのに気がついた。

 ほんとだね、アビー。

 言葉にしなくても、「好き」の気持ちは充分、人に伝わるんだね。


 わたしは、末永くお幸せに……と、心の中で二人を拝んでいた。



お久しぶりです。

筆が止まってしまっていたので、書き直すことにしました。前は完結まで急ぎ気味でしたが、ゆっくりこの物語を紡いで行けたらと思っています。

よろしくお願いします。

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