表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: RUNA
第2章 わたし、成長する
14/40

14,プレゼント

 見習い館の仕事をしていると、護衛士たちが騒ぐ声が聞こえてきた。


 外で薪割りをしていたあたしたちは、顔を見合せた。


「誰か怪我したのかな」

「見に行ってみようよ」


 みんな心配そうな顔で、隣の護衛士館に走った。あたしも、何だか嫌な予感がしてついていった。


「医者を!」

「ジギス伯爵に報告だ!」


 慌ただしく、護衛士たちが動いている。怪我をしている人は、すでに屋敷に入ったのだろう。その中に入っていくと怒られそうで、子どもたちは足を止めた。


 すると中から、見慣れない人が出てきた。その人は高価そうなマントをかぶっていて、護衛士たちは動きを止めて敬礼し、その人の話を聞いている。


 その人の顔は、男か女か分からないほどきれいな人だった。でも声が低くて、男の人だとわかった。

 彼はあたしを見て、近づいてきた。


「これは、あなたのものか?」


 そういって差し出されたものを見て、おどろいた。


「あたしのネックレス!」


 それは、四つ葉のクローバーのネックレス。死んでしまった両親にもらったものだ。ずっと、肌身離さずつけていたのに……いつなくしてしまったんだろう。


「ハーシーは、自分の身を呈して、それを魔物から取り返したんだ」

「えっ!?じゃあ怪我をしたのは、ハーシー様なんですか!?」


 アビーが声を上げた。ハーシーとは、あの金髪の若い団長のことだ。アビーと喧嘩した時、さんざん反抗してしまった……。


「治癒魔法で、だいぶましにはなっているはずだ。それでも治るのには時間がかかるし、痛みもある。ハーシーを頼んだよ」


 あたしの肩をぽんと叩くと、その人は馬車に乗って行ってしまった。

 後で聞くと、あの人がこの国の王様なのだそうだ。



 次の日、やっとジギス家にお見舞いに行ってもいいと言われた。


 それでも、まだ意識はないから話はできないし、なるべく起こさないように静かにしていろと言われた。

 あたしたち見習いは、息を飲んで団長の寝室に入った。


「……ハーシー様」


 だれかが、彼の名前を呼んだ。彼はあちこち包帯を巻かれ、痛々しい姿で寝ていた。


 すすり泣くみんなの姿に、この人は、本当に慕われている人だったんだなと思った。


 あっという間にお見舞いの時間は終わって、外に出されてしまった。

 あたしは、このまま帰れない。

 ジギス伯爵家の使用人さんに、「団長の看病をさせてください!」と言ったけど、首を横に振られた。



 あたしはみんなと一緒に、見習い館に帰るしかなかった。悔しかった。大事なネックレスを取り返してくれたのに、あたしは、あの人のために何もできない。


「ひよ……泣かないで」


 いつの間にか、あたしが1番泣いていた。なんだかもう、あの人に会えない気がして……伝えたい言葉が、伝えられなかったらどうしようって不安が、どんどん湧いてきて止められなかった。


 あたしはアビーになぐさめられながら、同じベッドで眠りについた。



 目が覚めると、体が痛かった。ベットが狭くて、ずっと縮こまって寝ていたのだろう。


 体を起こすと、アビーも一緒に目を覚ました。すると彼女は、びっくり顔でこちらを見た。


「ひ、ひよ……!?」


 自分の体を見ると、貸してもらった服が小さくなっていた。上着の丈が合わず、お腹がさらけ出されてしまっている。


「あなた、また大きくなったの?」

「また……?」


 首を傾げた。前にも、同じことがあったのだろうか。

 昨日より5歳くらい大きくなって、顔も鏡を見せてもらうと、お姉さんという感じになっている。


 何が何だか分からなくて、怖くなってきた。

 アビーがすぐにライラさんを呼んできてくれて、彼女か用意してくれた服に着替えた。


 それは以前、団長が買ってくれた服みたいで、高価な刺繍がついているワンピースだった。


「ひよ、前の記憶は戻ってないの?」

「……はい」

「そう。まだ背も、元通りにはなってないものね」


 ということは、わたしはここに来た時、大人だったんだろうか。でも、なにも覚えてない。

 この服を買ってもらったことも……すごく嬉しかったはずなのに、覚えていないなんて。


 その日はとりあえず、その服でみんなと仕事をした。みんなと一緒にパンを焼いて、食堂で昼食を食べていると、護衛士さんたちが近づいてきた。


「え、ひよちゃん!?」


 その人は、たまに見習い館にお手伝いにきてくれる、アパトさんだった。童顔だけど、これでもハーシー様と同い年らしい。威圧感がないから、あんまり仕事が来ないんだよねぇと前に呟いていた。


 彼は大きくなったわたしを見て、びっくりしていた。


「すっかりお姉さんになっちゃって……記憶は戻ったの?」

「いえ……ごめんなさい」

「え、なんかしおらくなっちゃって可愛いけど……昨日のことは覚えてる?」


 昨日のこと、というのは、団長のお見舞いに行った時のことだろう。


「はい。あの、ハーシー様は……」

「意識が戻ったみたいだよ」


 その言葉を聞いて、みんなわぁー!と声を上げた。アビーが「良かったね」と声をかけてくれて、「うん、よかった……」と言うと、自然と涙がぽろぽろこぼれてきた。


「それを、みんなに伝えに来ようと思って」

「こっちには、まだ来ないの?」

「うん。今日は静養して、家で仕事するそうだよ」


 仕事ができるまでに、回復したんだ。本当に良かった。それでも、けっこうな火傷を負っていたはずだけど……跡は残ってしまうのかな。

 


 その日の夜、仕事を終えて自由時間となったときに、わたしはアビーに「あのね……」と話し始めた。


「わたし、ハーシー様になにか、プレゼントしようと思って」


 すると彼女は、目を光らせた。


「えぇ!?いいじゃん、何をプレゼントする?」

「お金がなくて、何か買うことはできないから……ミサンガでもどうかなって思って」

「ミサンガって、なに?」


 きょとんとする彼女に、わたしは「腕につけるひも飾りなの」と説明した。


「それはね、願いが叶うまで、ずっとつけとかなきゃいけないんだけど……自然に切れたら、願いが叶うって言われているの」

「へぇ、いいじゃん!ひよはそれ、作れるの?」

「うん。学校で流行ってて、友達と休憩時間に作ってたから……」

「わたしにも教えて!一緒に作りたい!」


 わたしたちはさっそく、ライラさんのところに刺繍糸をもらえないか、聞きに行った。

 白くて細い糸しかなかったけど、わたしたちはそれを部屋に持って行った。


 糸の端をベッドに結んで、わたしはアビーに編み方を教えてあげながら、その夜は2人でミサンガ作りに熱中した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ