13,魔物
はじめまして。評価を頂いたことがとても嬉しくて、この場を借りてお礼を申し上げます。
毎回のように、字下げ機能をし忘れて投稿してしまいます。読みにくくて申し訳ありません。
物語も佳境にさしかかっていますので、感想も良かったらお待ちしています。
久しぶりにひとりで帰ると、出迎えてくれたメリッサは「まぁ、寂しいですね」とつぶやいた。
「そういえばハーシー様。少し気になることがあるのですが」
「なんだ?」
「ひよさん、なくし物をされたとかで。子どもに戻る前は毎朝、屋敷を抜け出しては、森に探しに行かれていたのですよ」
それは知らなかった。
どうしてひよは、おれに言ってくれなかったんだろう。
「何をなくしたのか、聞いたのか?」
「えぇ、ネックレスだそうですよ。でも小さいものだから、見つからなければ諦めると……そう言われていましたが、こちらに来てからというもの、1日も欠かさず」
ということは、おれが仕事の日も、休みの日も変わらず朝早く起きて、探しに行っていたのだろう。
ひとりで抱え込んでしまっていたから、よけいに心の余裕がなかったのかもしれない。
「でも、見つからなかったんだよな」
「えぇ、わたしも探しに行きましたが、それと言ったものは……もう誰かに拾われているか、もしくは……」
「魔物が持っているかだな」
魔物は今でこそ、王の魔力を恐れてこの王都には近づかない。けれど夜な夜な、村や隧道をうろついているとの、目撃証言がでている。
魔物は光り物が好きだ。
光り物には魔力があるらしく、それを手に入れると、彼らは強くなると思っているらしい。
……命をかけるほどのことでもないかもしれない。
けれど彼女が、どうしても見つけ出そうとしていたものだ。きっと大事なものなのだろう。
「メリッサ、教えてくれてありがとう。
ちょうど、討伐依頼が来ていたから、明日探してみるよ」
「それで、わたしが呼び出されたのか。ふざけるのも大概にしろ」
そう言いながらも来てくれたのは、クラウスだった。彼は目深にマントを被って、極力王様だと気づかれないようにしている。
だって知り合いの魔法使いは、彼しかいないから……。
「討伐依頼だ。国民が困ってるんだぞ、ほったらかしたら、王様の名が廃るんじゃないか?」
「国王はそもそも、前線に出ない。捜し物なら、適当な魔法使いにでも頼めよ」
「戦闘ともなると命を預けられる信頼と、相性が大切だろう?おれと手を組めるのは、相棒のお前だけだから」
「はいはい、説得してくれなくて結構だ。さっさと終わらせて、わたしは可愛い妻の元に帰る」
真面目な顔でさらっと言えるほど、彼は愛妻家だ。まだクラウスが護衛士で、アレクサンドルがリバティ家の公爵令嬢だった頃。2人は主従関係にあったけれど、本当に仲が良かった。
徐々にに惹かれていき、やがて夫婦となった二人を見ていて、うらやましく思うこともあった。
おれにも、そんな風に愛し愛せる人が見つかったらとーー。
おれとクラウスは、ジギス家の裏山に入り、ひよを召喚した場所辺りまで来た。
「とりあえず、ここら辺に魔物の通った気配があるか、見てくれないか」
「……あるな。こんなところ、以前は魔物なんて来なかったはず……ネックレスを落としたことで、寄ってきたんだろうな」
「じゃあやっぱり、ネックレスは魔物に……」
「その可能性が高い。奴らの巣に行ってみるか」
クラウスの言葉に、おれは固唾を飲んだ。
「生きて帰れる可能性は……?」
「……ないにも等しい」
「わかった。覚悟していこう」
ーーそんな会話をしたのにもかかわらず。
彼に導かれて来たのは、自然にできた洞窟の中。そこは、たくさんのスライムの巣窟になっていた。
彼らは思考を持たないどろどろの半液体で、本能のままに地面をうろついて生きている。
つまり、よっぽどの事がない限り無害だ。巷の魔法使い、いやただの護衛士のおれでも倒せる。
「……さて、派手に暴れるか」
「な、なあ……ネックレスを持っているやつだけ、倒せばいいんじゃないのか?」
「何を言ってる。そんな甘いことを言って、こいつらが集まったら……」
そんな会話をしている間に、スライムたちは危険を察知して合体し、ひとつの大きな魔物となった。
よくみると、その透き通った体の中に、きらきらと輝くものがあった。
「あった!」
おそらく、ひよのネックレスだろう。この国では見たことの無い、四つ葉のような形をした装飾がついている。
「まぁ、合体してくれて良かったな。探す手間が省けた」
「おれは核を探す、お前は援護を頼む」
手短かに伝えると、おれは走りだした。どこかに、スライムの核があるはすだ。
むやみにスライムを切っても、下手に分裂したり、体にまとわりついてきたりする。
核を潰せば、どろどろに溶けて倒せるはずだ。
スライムの反対側に行ってみたものの、それらしいものは見つからない。
「核がない!どうしてだ!」
「落ち着け、よく見ろ!」
クラウスの言葉に、おれは気がついた。
ネックレスの影に核がある……ということは……。
「核を潰せば、ネックレスも壊れる……」
そんなの、本末転倒じゃないか。どうしたらいい?
ネックレスを壊さず、スライムを退治する方法なんて……。
「ハーシー!お前に保護膜を張る。
スライムの中にもぐれ!」
その瞬間、体が光り始めた。クラウスの言葉どおり、おれはスライムに向かっていった。
しかし、スライムの中に入ることは叶わず、体が弾かれた。保護膜を張っているからか?
「クラ、保護膜を解いてくれ!」
「ばかいえ、生身で入ったら窒息死するぞ!」
スライムは人の鼻や口などの穴から入り、窒息死させることで危険とされている。そんな中に飛び込むなんて、自殺行為だとは分かっている……。
「ハーシー、下がれ!」
スライムが突然、形を変えて波のようにおれに覆いかぶさってきた。
そのとき、クラウスの持っている杖が光った。
熱で、スライムを焼いているようだ。スライムは身悶えて、音を立てながら蒸発していく。
そのとき、スライムは逃げるようにおれの身体に迫ってきた。おれは逃げず、スライムの中に手を伸ばした。
光線に灼かれ、スライムは熱湯のように熱い。
肌が灼けていくのを感じながら、おれはネックレスまで溶けないように、その手に掴んで外に出した。
これさえなければ、あとは簡単だ。
おれは腰の剣を引き抜いて、スライムごと地面に突き刺し、核を潰した。その瞬間スライムはどろどろになり、足元で蒸発して消えた。
倒れるおれの体を、クラウスが抱きとめてくれた。
「無茶しやがって……」と言いながら、彼は泣いている気がした。おれは、こんな王様がいる国にいれて幸せだと思う。
体がじんわりあたたかい光に包まれて、腕の激痛がやわらいでいく。
おれは手の中にあるネックレスが、壊れていないのを確認して安心すると、そのまま意識を失ってしまった。