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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: RUNA
第2章 わたし、成長する
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12,君の言葉

 ライラについて行くと、見習い館の外で、ひよとアビーが殴りあっていた。

 お互い癇癪を起こして、相手の髪を引っ張ったり、肌をつねったりしている。周りが止めようにも激しすぎて、抑えることができなかったようだ。


 おれは無言で近づいた。2人の腕をほどいて割りいり、さらに殴ろうとしているひよの体を止めて離した。


 華奢な体がジタバタと暴れ、地を踏ん張ってまたつかみかかろうとしたが、おれは微動だにしなかった。


「さすが団長……ぼくたちじゃ、止められなくて……ごめんなさい……」


 気の弱い男児のラッセルが、俺の元に近づいてきて言った。


「あんまり近づきすぎるな。どうしてこうなったか、知っているか?」

「アビーが……ひよに何か言ってたんだけど、それでひよが怒ったみたいで……」

「あたし、変なこと言ってない!また、ごっこ遊びしようねって言ったら、いきなり叩いてきたの!」


 アビーはボロボロ泣きながら、それでもしっかりと状況を話せている。ひよが反論しないところをみると、本当のことなんだろう。


「どうして手を出した?護衛士館では、仲間に手を出すのはご法度だ」

「はっ、そんなこと知らねぇよ。上から目線だったから、どっちが強いか分からせてやろうと思ったんだ」

「上から目線?彼女は、また一緒に遊ぼうと誘っただけだ」

「あんなやつと遊んだ覚えはねぇし!どっかの誰かと間違えてんだろ!」


 自分でも、この状況に頭が追いつかない。

 この子は確かに、小さくなったひよで……ここに来たこと、自分が大人だったことはすっかり忘れている。


 大人だったひよは、あんなに優しかったのに。少女のひよは、どうしてこんなにも荒れているんだろう。


「ここは、強いやつを育てるところなんだろ。それならあたしが、こいつら叩きのめして、強くしてやるよ」


 こんなにも、おれの怒りを煽っている。まるで怒られたがっているかのように。


「……ひよは、この子達と仲良くする気がないんだな?」

「当たり前だ。なんで仲良くしねぇといけねぇんだよ」

「家族だからだ」

「はっ!そう言ってあんたも、しょせん子どもを金としか見てないんだ。いらなくなったら、すぐ捨てるんだろ?

 でも考えてみろよ、強いあたしとそこにいる弱虫。どっちがここにいてほしいんだよ」

「強さは、関係ないよ」


 おれたちの会話を、ほかの子供たちも、固唾を飲んで聞いている。


「たとえ、ここにいるみんなが護衛士にならなくてもいい。それぞれが、自分に合った生き方をしてくれたらいいんだ。

 たとえ強くならなくても……ただ、この子達と遊べて嬉しいと。この仕事ができてよかったと。

 それが、君の言葉だ。おれはそれが、とても嬉しかったんだよ」


 彼女は相変わらず、なんの事か分かんねぇよ!と歯をむいている。

 困った。これ以上話しても無駄なら、掟どおり、地下牢に入れるしかーー。


 その時、おれの肩に誰かがトンと手を置いた。


「お前は、執務室に戻れ。仕事が溜まっているだろう」


 デイヴィスだ。彼の恫喝は恐ろしいが、今のひよにとっては、いい抑止力になるだろう。


「おれたちも、見習いたちのこと見とくからさ。ハーシーは、頑張りすぎないようにしなくちゃ」


 ずっと見習いの頃から一緒に育ってきた同僚のアパトの言葉に、その隣にいるマスルもうなづいた。

 みんな騒ぎを聞きつけて、来てくれたらしい。


 彼らは、子供たちに館に戻るように指示をした。ひよも一緒に抱えて、連れていってくれた。

 彼女は悪びれることもなく、おれに対して「あっかんべー」をしてきた。



 おれは、彼女に言った言葉を思い出した。

 礼儀正しくて、思いやりがあって、子どもたちと遊ぶのが一番楽しそうなひよ。


 そのひよは、生まれつきなんかじゃなく、きっと両親に愛されて身についたものでもなく……紆余曲折を経て、苦労して身につけたものなのだろう。


 また君に、ごめんねと言わなければいけないことが増えた。

『君』とは、召喚の効果が切れて別れる前に、また『会える』のだろうか……。



 仕事をしていると1日が早い。

 日が暮れ始め、あっという間に退勤の時間だ。あれからおれは、もう見習いの館に呼ばれることはなかった。


 書類を片づけ、重い足取りでひよを迎えに行く。するとまだ、子どもたちは夕食の片付けをしているところだった。その中に、ひよもいる。憑き物がとれたみたいに、今は穏やかな顔をしてお皿を拭いている。


 アパトがおれの気配に気がついて、広間にでてきた。


「すまない、大変だったな」

「そんなことないよ。あのあと、デイヴィスがずっとついてあげていたんだよ。力で訴えるなら、勝負でおれに勝ってみろって言って、色んなことして遊んでたら、落ち着いたみたいで」

「遊んだ?デイヴィスが何を?」

「鬼ごっことか、ボール蹴りとか。とにかく体を動かしたあとに、ボードゲームでも勝負してたら、すごく落ち着いたみたい」

「さすがだなぁ」


 おれは、アパトにも礼を言って、台所の中に入った。ひよ、と呼びかけると、手はとめずに顔だけこちらに向けてくれた。


「おれは帰るけど、どうする?一緒に帰るか?」

「えー、ひよ帰っちゃうの?あたしと一緒のベッドで寝たらいいじゃん!」


 そう言ってくれたのはアビーだった。あんなことがあったのに、まだ仲良くしてくれようとしている。

 ひよはなんて言うかなと緊張していると、小さい声で呟いた。


「……ここにいる」

「そうか、わかった。アビー、ひよを頼むよ」


 アビーの頭をなでると、彼女は嬉しそうにうなづいた。

 二人が仲良くしてくれて、良かったような、寂しいような。おれはみんなに「おやすみ」と言って、ひとりでジギス伯爵家に帰った。



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