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わたしを召喚したのは金髪碧眼の騎士様でした  作者: RUNA
第2章 わたし、成長する
11/40

11,反抗期

 ひよを食事に連れて行ったあと、ジギス伯爵家に帰ったときには、疲れて寝落ちしていた。


 しばらく客間に寝かせていたが、目覚めた時に1人だったので、心細くなったのだろう。

 屋敷が小刻みに揺れ始め、まさかと思って駆けつけると、ひよがすすり泣いていた。すぐさま抱きかかえて、彼女を自分の部屋に連れていった。


 メリッサに、寝る前の世話をお願いしたが、一晩中彼女に預けるわけにもいかない。


 おれは多少の後ろめたさを感じながら、ひよを自分のベッドに招き入れた。彼女はるんるんで、おれの腕を枕にして、また眠りについた。



 体も心も子ども返りして、すっかり記憶をなくしている。

 明日からまた仕事だから、彼女も護衛士館に連れていかないといけない。


 見習いたちに説明しても、分かってもらえるか分からないが……とりあえず、面倒はみてくれるだろう。


 あと2週間ほど、この生活が続く。

 おれはひよの柔らかい髪をなでながら、少しだけ、彼女が子どもになってよかったと思ってしまった。



 いつの間にか自分も眠っていて、気がつくと朝だった。

 だが、腕の中にひよがいない。

 急いで辺りを見渡したが、影も形もない。


 おれが部屋を出ると、待ち構えていたように、メリッサが近づいてきた。


「あのう、ハーシー様……」

「なんだ?ひよは大丈夫なのか?」

「それが……」


 言いにくそうにしている彼女は、おれに手招きをして、食堂に招き入れた。

 そこには見知らぬ少女が、すでにテーブルについて、朝食を食べていた。


「え……?」

「なんだよ。人の顔をじろじろ見やがって。あっちいけよ」


 それは、昨日よりずいぶんと大きくなった、10歳くらいのひよの姿だった。彼女の目まぐるしい変化に、そろそろ心が追いつかなくなりそうだ。


「ひよ、おれのことは分かるか?」


 近くに行って膝まづくと、彼女はおれを、毛虫でも見るかのように、嫌そうな顔で見てきた。


「近づいてくんなって、うぜぇな。

 あんたのことなんてどうだっていいんだよ」

「なにを、そんなに怒ってるんだ?

 おれはまた何かしてしまっただろうか?」


 すると彼女はため息をついて、カトラリーをばんとテーブルの上に置いた。


「あんたがあたしを、金で買ったんだろ?」

「え?何を言ってるんだ……」

「あたしはまた捨てられて、新しい家に引き取られた。こんな、どこの国かも分からないところに……あんたも運が悪かったな、こんな出来そこないがきてさ」


 また捨てられた、という言葉が引っかかった。彼女に「それはどういう意味だ?」と聞いても、もう彼女は口をきいてくれなかった。



 なんとか護衛士館には着いてきてくれたものの、ずっと不機嫌そうな顔をしている。

 まさか、ここが嫌で逃げてしまわないだろうか……そんな思いがよぎって、不安で仕方ない。


 ライラには訳を話して、とりあえず困ったら、おれを呼びに来てくれと伝えた。

 ひよにも「執務室にいるからな。何かあったら来てくれ」と声をかけたが、彼女はこちらを見向きもしなかった。


 執務室に入ってきたデイヴィスが、目を丸くした。


「ハーシー……老けたか?」

「ほんとにさ……おれには、手に負えないことばかりだよ。

 いきなり子供ができたと思ったら、思春期の女の子になって……ただでさえ女性に対する免疫がないのに、難しすぎる……」

「まぁ、深くは知らんが頑張れ」


 彼は、我関せずな声で言った。まぁ、他人事だから仕方ない。


「次の仕事は、商人の護衛だ。かなりの大物を運ぶそうで、最近強盗も増えているから、熟練の護衛士が欲しいと依頼が来た。行ってくれるか?」

「報酬は?」

「ここに書いてある」


 おれが差し出した書面を見て、彼は「引き受けた」と短く答えた。

 こうして仕事を引き受け、適任の護衛士にふって行くのが、おれの仕事だ。


 そして各仕事の進捗、成果を管理し、次の依頼に繋げていく。もし護衛士がしくじったときは、自分が出向いて先方に謝りに行く。


 その身をもって、人の盾となる仕事なだけに、不満を抱いて足抜けする護衛士も多い。


 そろそろデイヴィスも働かせすぎだから、ひよのことが終わったら、おれ自身も護衛の仕事に行かなくてはならないだろう。



 大きなため息をつきながら、書類の山を整理しようとしていると、廊下を走る音が聞こえてきた。

 男のものとは違い、体が軽くパタパタと走る音。ライラだ。


「ハーシー、来ておくれ!」


 おれはただごとではないその様子に書類を置き、何も聞かないまま急いで、執務室を飛び出した。

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