深夜の電話で
プルルル…。
着信音が静かな部屋に響く。
誰だろう?
ベッドに寝転んでいた体を無理やり起こし、子機を手にする。
「風香?私!桜だけど!!」
耳に響く声。少し眠くなっていた体がしゃんとするのが自分でも分かった。
時計を見る。
夜中の1時30分。
「…こんな時間に電話してくるの桜しかいないよ?」
「なにそれ!ひどくない??」
「別にけなしてないし」
「けなしてるように聞こえるも~ん!」
くすくすと笑い声がこぼれる。自然と手は電気のスイッチに手を伸ばして部屋を明るくしていた。
目が少し痛い。
子機を持つ手を利き手じゃない方に持ち替えて話を始める。これは私の癖だった。
そのまま勉強机の近くにある椅子に座った。キィと小さくきしむ音がする。
「で、何のよう?ケータイに電話かければいいじゃない。音家中に鳴ってうるさいでしょ!ちょっとは考えてよね」
若干皮肉なことを言う。でもそんなことを言って喧嘩になるような仲じゃない。
私と桜は小学校2年生で知り合った。
桜が転校生で、人見知りをしなくてすぐに友達を作っていて不思議に思ったことを覚えている。
でもある日桜と隣の席になって、話すようになったのだ。
そのおかげで少し人見知りをしなくなった気がする。
明るくなったね。ともよく言われた。
元から暗いつもりはなかったのだが周りにはそう思われていたみたいだった。
「いいじゃん。だって今親いないでしょ?一緒にいるの太陽くんだけじゃないの」
太陽というのは私の弟の事。
今高2の私に対して太陽は中3。今年受験なのだ。
親が居ないのは仕事中だから。
「まぁね…。でも太陽にだって迷惑じゃない…。で、用件は何?」
「いやぁ。後藤くんの事なんだけどさ~」
でた。後藤信也。桜の話しによく出てくるヤツ。
一つ下の高1。
バスケ部に入っているのにあんまり背が高くない、むしろ小さいことで有名。
桜はたまたま私と一年を探索しに行ったときに後藤くんを見かけた。
それっきり桜は一日に一度は彼の事を話すようになった。
「なんかね。部活中に手を軽く骨折かなんかしちゃったらしくて…。次の新人戦に出られなくなっちゃったらしいのよ…」
「へー…」
「それで、風香はどう思う?」
「え?」
私は『どう思う?』と聞かれるのがニガテだ。
ピーマンとかなすとかよりニガテ。
答えるときに、こう言ったら喜ぶかな?とかいろいろ考えるからだ。
むしろ、『どう思う?』と聞いたほうに問いたいときもある。
『じゃああなたはどう思ったの?』
一度だけ言った事がある。私じゃなくて母がだが。
しつこく感想を求める太陽にやさしく笑いかけていた。
そのときにその言葉がでた。
「何も思わないの?」
「う~ん。まって」
時計を見る。2時30分。
そろそろ寝ないと肌にも悪い。
かと言って興味のないことにウソをついてまで感想を述べたくもない。
眠い頭を無理やり動かしてたどり着いた結論はこうだった。
「明日、後藤くんに会いに行ったら?先輩として」
「え!?明日!!??」
すっとんきょうな桜の声。若干眠気も来ていたから口調がきつくなる。
「だからぁ~。もういっそファンなんですって言ってみれば?後藤くん喜ぶと思うけどなぁ~」
「それが出来ないんだから聞いてるのに…風香ってホント乙女心がわからないのね。もういいわ。晩くにゴメンね。また明日…」
ツーツーツー…。
別の音が部屋に響き渡る。
『オトメゴコロ』だって。そんなの一生わかんなくっていいよ。
いっそ男で生まれたかった。
女がこんなにめんどくさいとは思っていなかった。
男はラクだろうなぁ~。
そんなことを考えながらまぶたが重くなる。
足も動かしたくなくて、そのまま机につっぷした。
適当なこと言わなきゃよかった。と後々後悔するのも知らずに。
続く
2作目です。
続きモノに挑戦してみました。
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