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51 行方不明の女性



150年前に突然滅んだ国、エドラス国。かつてこの世界で一番の資源と、栄光を築いたと言われる国が、何故失われたのかは分かっていないそうだ。ただ唯一分かっているのは、時の神を祀り、そしてテオドールもその国にいた可能性があるとだけ。


不老不死の大魔法使い、テオドール。彼は認識阻害魔法の主体をシルトラリアから奪い、そして成功させた。大魔法は一度だけ、それを二度目を成功させた彼は、本当にマギーの言っていた通り神なのだろうか?……ともう少し深く考えたいが、今は目の前で私に襲い掛からんとするこのエロジジィを、どうにかしなくてはならない。二度目の攻防戦は、第三者がやって来ない為か熾烈を極めている。私は疲れによる荒い呼吸をしながら、目の前の服を剥がさんとするテオドールを睨む。


「やめっ、ろッ!!こ、こっ、恋人に、なってッ!はじ、めてが!外はないッッ!!」

「どこでもッ、いい、だろうがッ!!こっちはずっと、お預けされっぱなしッ、なんだよッ!!」


おかしいな、付き合ってまだ一週間も経ってないんだけどな。ジジィだから体感時間がイカれているのかな?


サヴィリエ国から出た後、暫くしてからテオドールの移動魔法でエドラス国の国境付近まで転移し、そのまま夜も遅いので移動は翌日となった。久しぶりのテオドールの作るご飯はかつて、私がテオドールに初めて振る舞われたスープで、懐かしさを感じながらお腹いっぱい頂いた。

明日も早いのですぐに寝ようと準備していた所、急に後ろから掴まれ、何故か地面に敷かれていたテオドールのローブの上に寝転がされ、そして今現在二度目の攻防戦を繰り広げている。前回の様にマギーが突然現れる事もないし、失われた国の周辺だからか家や人もいない。本当に大ピンチである。だめだ、このままでは食後のオヤツみたいな感じになってしまう。別に初めてと言うわけではないが、こう、暫く仲を深めてからするもんじゃないのかそういうのは?あ、いやこのジジィそういえばめちゃくちゃ遊んでたんだっけ?今までの女と一緒にしてほしくないんだが。


そんな事を考えながら、この男相手に攻防戦をしていたのが駄目だったのかもしれない。テオドールが近づかないように押していた足を、一瞬力を抜いた途端簡単に流されてしまった。そのまま空いた隙間を埋めるように近づき、あっという間に口付けをされてしまう。両手で押し出そうとしてもびくともしないし、長い口付けによって力が入らなくなる。これは本当にやばい、本当にオヤツにされてしまう。薄く目を開けば、熱が込められた碧眼がこちらを見ており、それが脳をさらに刺激していく。……やばい、やばいぞ私。




……その時、近くで物音が聞こえた。




テオドールは唇を離し、私を自分の体に隠してその物音のなった方向を睨む。その物音はどんどんこちらへ近づき、私達のそばにある焚き火の灯りで、その人物の形が現れた。


「………えっと、マジで悪かった」


そこには、頭を掻きながら苦笑いを浮かべるオーウェンがいた。








◆◆◆





カスヘロ町の町長が、何故こんな場所にいるのかを聞きたいが、それよりも不機嫌そうに後ろから抱くテオドールの腕の力が強すぎて、先ほど食べたスープを吐き出しそうになる。そんな姿を軽く笑いながらオーウェンは見ていた。


「焚き火の灯りが見えるから、こんな寂れた場所に誰かいるのかと思えば。まさかお楽しみ中のお前らだったとはな」

「アンタの所為でまた食いっぱぐれたけどな」

「だからさっきから謝ってるだろ」


後ろのジジィはどうでもいいとして、私はオーウェンを見る。


「オーウェンさんはどうして此処に?」


こちらを見たオーウェンは、その質問に少し気まずそうにしながら頬を掻く。暫くそのまま無言でいたが、言う気になったのか深く息を吐く。


「……実は、お前らが旅に出た後、ルカの行方が分からなくなったんだ」

「ルカがぁ?年頃の女だから、町に嫌気が差して家出したんじゃねぇのか?」

「あの子が父親代わりの俺に、何も言わずに町から出ねぇよ」


オーウェンは焚き火の火を見つめながら、目を細める。


「あの子を町の外で拾ってもう15年だが、突然姿を消すなんて初めてだ。俺は知り合いのツテを辿ってずっと行方を探していたんだが。……つい先日町に来た旅人が、赤毛のおさげの女性をこの周辺で見たと教えてくれてな。どうにも我慢できなくて、町は役場の奴らに任せて一人探しに来たんだ」


カスヘロ町の役場で働いていたルカが、まさかそんな事になっていると思わず驚く。テオドールもそれは同じで、少し腕の力を緩めながらまっすぐオーウェンを見つめる。


「何で、俺に何も連絡しなかった?」

「お前がさっき言った通り、町が嫌になって出ていった可能性もあったからな。迷惑かけたくなかった」

「……ガキが、迷惑とか考えるんじゃねぇよ」

「お前なぁ、俺はもういい歳のおっさんだぞ?」

「知るか。今も昔もお前は、泣きながら俺の後ろについてきたガキだよ」


テオドールの言葉に、オーウェンは驚いた様な表情を向けた。そして何かを耐えるように微笑みを作る。そんな表情を見て、テオドールは鼻で笑い、そのまま私ごと後ろに倒れる。思わぬ行動に吃驚していると、そのまま私はテオドールの腕に頭を乗せるような形になる。


「明日ルカを探すぞ。……此処らへんで見たって事は、おそらくエドラス国跡にいるだろうしな。見つけたら尻叩いてやる」


テオドールはエドラス国と言葉を出す時だけ、少し目線を逸らす。オーウェンは軽く笑いながら、座っていた場所に寝転がる。


「……有難うな、テオドール」



テオドールは、その言葉には何も言わず、私を抱き寄せて目を瞑った。

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