4 旅の拠点へ
「あんな色男を捕まえるなんて、お嬢ちゃんやるじゃない!」
「……アア、ハイ」
「村に彼が来た時、町の娘達がみんな言い寄ってるのにあの色男ったら、しれっと躱してたのに!」
「……ソウナンデスネ」
テオドールが、魔物退治の依頼者である村長と話している間に、私は村の仕立て屋で服を見繕ってもらっている。一般的な平民の服で、動きやすい服が欲しいと伝えると、白のブラウスに深緑のロングスカートを薦められる。そこまでは前の世界と変わらない為簡単に着れたが、コルセットが難しく、店主である女性に着けてもらっている。店主はかなりおしゃべりな女性なのか、さっきからずっとテオドールの話をされている。……近所のおばさんがこんな感じだったなぁ。
「さてと、出来たよ!」
コルセットがつけ終わったのか、店主は肩を軽く叩く。
私は鏡で自分の姿を見つめる。……うん、悪くない。店主が何かを取り出していると思えば、スカートと同じ色のローブを私に被せた。裾にレースの刺繍がされている、綺麗なローブだ。
「これはオマケね。お嬢ちゃんの恋人のおかげで、魔物にもう怯えなくて良くなったからね」
「あ、有難うございます」
恋人ではないが、善意にお礼を伝えると、店主は笑いながらもう一度肩を軽く叩いた。
「お、良いじゃねぇか」
急に聞こえる声に驚いて、声の聞こえた方向を見るとテオドールがいた。村長との話が終わったのだろう、ローブのフードをすっぽりと被り店に入って、上機嫌に私の服装を見る。
「深緑か、黒髪のお前に似合ういい色だな。……店主、このまま買うから勘定してくれ」
「はいよ!毎度あり!」
そう言って店主は服の値段を計算し始める。私は上機嫌なテオドールを見て、恐る恐る声をかける。
「……えっと、お金は」
「払ってもらおうなんざ思ってねぇよ」
「………で、でも」
私がどもっていると、テオドールは腰に手を添える。急に触れられる感触に、目を大きく開けて彼を見ると、意地の悪そうな、それでいて色気に溢れた表情で、顔を近づけてくる。私は急な美形の顔面アップに驚いて固まる。
「じゃあ……アンタの体で払ってもらおうか?」
「タダでもらいます!有難うございまーす!!!」
しかしその美形から出た言葉に、私は大声を出しながら勢い良く、腰に添えられた手を叩いて落とす。テオドールは叩かれた方の手首を振りながら笑う。対する私は、彼に対して威嚇をしながら少しずつ離れのだが、その行動も面白いのか、更に笑い始めた。……このエロジジィ。
私達は仕立て屋を出た後、そのまま村からも出て再び森に戻った。
出ていく際、胸を強調させた村娘達がテオドールに擦り寄っていたが、彼は笑顔でそれを受け答え躱していく。……確かに、テオドールは銀髪碧眼の、目を引くほどの美形だ、気持ちは分からないでもない、中身エロジジィだけど。その躱された娘達は、こちらを物凄い形相で見てくるのは、思わず顔を引き攣るほど恐ろしかった。
そのまま同じ景色の森の中を、迷う事もなく真っ直ぐ進んでいく。……旅をするとの事だが、次のいく先などは決まっているのだろうか?
「少し村から離れたら、移動魔法で俺の拠点に戻る。そこでお前の旅の分の道具を揃えなきゃな」
すると前を歩くテオドールが、こちらを見ないままにその答えを伝える。私も歩きながら目の前のテオドールに喋りかける。
「拠点なんてあるの?……それに魔法、使っていいの?」
「拠点にしてる町は、知り合いが作ったんだ。俺が魔法使いだって事も、みんな知ってる」
「へー」
移動魔法とは、昨日私を助けてくれた魔法だろうか?
テオドールはこちらに振り向くと、そのまま腕を掴む。どうしたのかと思っている間に、彼に私は再び横抱きをされていた。あまりの華麗な行動に意識がついていかない。
テオドールは、私に綺麗な顔で微笑んで……そしてまた雑音のような声を出す。
それと同時に私達の立つ地面に、あの青色の魔法陣が浮かび上がる。私は昨日の空から落ちていた感触を思い出してしまい、思わず彼のローブを握る。
それを見たテオドールは、呪文を唱えながら目を細めて、愛おしそうにこちらを見る。
……いや、孫を見る様な目で見る、のが正しいかもしれない。
「うぉっ!?」
「ちょっ!?ここを移動魔法の着地点にしないでくださいって!何度も伝えましたよね!?」
森の匂いとは違う、香辛料や人間の汗の匂い。光で見えないがどうやら周りに人がいるらしい。声に向かってテオドールは大きくため息を吐いた。
「うるせぇな、今日はここに用があったんだよ」
光が段々と消えていく……周りを見ると、そこはどこかの建物の中らしい、煉瓦造りだが、中世の様な雰囲気もある。周りにはテーブルが多く置かれており、そこにはこちらに驚き見ている人達が見える。皆私達の同じような平民のような服から、まるで冒険者の様な鎧をつけた者までいる。
そして前を見ると、おそらく先ほどから声を出している声の主達だろう、人一倍大きな体格で、短い白髪の中年男性と、その隣には長い赤毛をおさげにしている女性が、こちらを見ている。中年男性の方はこちらへ恐ろしい形相で向かってきている。
「はぁ!?100年以上戸籍が変わらないお前が、役場に何の…………この子誰だ?」
中年男性は、テオドールに横抱きされている私に気づくと、先ほどの勢いを止めて大きく目を開いてこちらを見る。テオドールは私に顔を近づけて、美しく微笑みながら男性を見る。………嫌な予感がする。
「俺の女だ」
「「はぁ!?」」
中年男性と、後ろのおさげの女性が大きく叫んだ。………本当に、なんてジジィだ。