34 お互いの秘密を
まさか疲れで倒れてしまうとは、あの副団長の男には迷惑をかけてしまった。
これも全てあのエロジジィの所為だ。首や耳を噛まれて、その後もその衝撃で全く寝付けなかったのだ。最近のテオドールは本当に変だ、やけにスキンシップも増え、まるで口説いているかの様に囁いてくる。こっちはその度に心臓が煩くなってしまうのに。
「……いつかギャフンと言わせてやるぅ」
「何言ってんだお前」
私の独り言に返事が返って来たので、驚いて目を開ける。どうやら自分に当てられた部屋ではない様だったが、天井の作りは同じものだった。そのまま勢いよく起き上がると、自分で寝ているベッドの隣で椅子に腰掛け、恐らくここまで運んでくれたのであろう、怪訝そうな表情でこちらを見ている副団長がいた。周りを更に見ると、薬品棚や複数のベッドが置かれているので、恐らく医務室なのだろう。
「宰相に何されてたのか知らねぇけど、嫌ならちゃんと伝えろよ」
「えっ、あっ……はい」
まさか自分を嫌っているであろう副団長から、そんな心配の言葉を掛けられるとは思わず吃ってしまう。そんな私を見てわざとらしくため息を吐くと、副団長は立ち上がる。
「元団長に、お前に関わるなと言われてるからな。落ち着いたらさっさと部屋に戻れよ」
そのまま立ち去ろうとする副団長に、流石に何の謝罪も、お礼もなしに別れてしまうのは礼儀がないと思った私は、声よりも先に副団長の背中を引っ張ってしまう。だが力が入りすぎて、強く引いてしまったらしい。「うぉっ!?」と声を出しながら副団長はこちらへ倒れ込む。そのままベッドに背中から倒れて、私が下で受け止める様な形になってしまった。一瞬呆然としていた副団長だったが、すぐにこちらに怒りの表情を向ける。
「テメェ!用があるなら声出せ!声!!」
「すっ、すいません!言葉より手が先に出る性格で!」
慌てて離れようとしたが、どうやら彼が付けていたシルバーのネックレスと、私のシャツのボタンが引っかかってしまっている様だ。私は更に怒られない為にも素早くそれを取ろうとするが、かなり絡まっているのか上手く取れない。副団長も自分のネックレスが引っかかっているのがわかったのか、異常に慌て始めた。
「待て!俺がやるからお前は手を離せ!」
「いやいや!私がやりますんで!」
「いいからさっさとネックレスから手を離せよ!じゃじゃ馬!!!」
「んだとコラァ!!じゃじゃ馬じゃなくてマヨイだ堅物!!」
「堅物だァ!?俺にはアレンっていう名前があるんだよ!!」
あまりにも幼稚すぎる口喧嘩に、思わず手に力が入ってしまった。ブチッ!という音と共に、どうやらネックレスの金具が取れたらしい。アレンの首からネックレスが落ち、それと同時に彼は眩しい光に包み込まれる。いきなりの事に思わず目を瞑ってしまったが、暫くすると、何やらふわふわとした感触が体に当たる。
ゆっくりと目を開けると……目の前に茶褐色の、動物の耳のようなものがあった。
「へっ?」
「クソッ!!!」
アレンはベッドから起き上がり、両手で頭上を隠す。だが彼の尻に、まるで猫の様な茶褐色の尻尾がベッドを騒々しく叩いている。……その尻尾を見て、頭上で隠しているのであろう、一瞬見えた耳を見て、私は驚きて目を大きく開ける。
「……えっと………アレン副団長は、その………猫の、獣人だったの?」
「……………」
あんなにも煩かったのに、無言だ。……まさかこの世界に、人間と精霊の他に獣人がいるとは思わなかった。恐らくそれをネックレスに込められた術で隠していたのだろう、壊れてしまったので術が解かれ、何とも可愛らしい耳と尻尾が出てしまったと言うことか。何故隠す必要があるのか分からないが、こんな変な娘に秘密がバレてしまったのだ、本当に最低すぎる私。
「本当にごめん!絶対に誰にも言わないから!!」
私はベッドの上で後ろを向くアレンに土下座をした。それに反応してこちらを見るアレンは、眉間に皺を寄せて深刻そうにこちらを見ている。そしてゆっくりと口を開く。
「……獣人族は莫大な懸賞金が掛かってんだぞ、それを口外しないって信じれると思うか?」
「えっ!副団長何か悪い事したの!?」
「ちげーよ!「獣人族が」って言ってるじゃねーか!!」
怒声に思わず目を瞑る。……なるほど、だから自身が獣人族だと隠していたのか。私はアレンが犯罪を犯していない事にほっとしながら、深刻そうな表情のアレンに笑顔を向ける。
「副団長は悪い事してないんでしょ?なら言うわけないじゃん」
「………いや、だから莫大な懸賞金が」
「えぇ〜別に、生きれる分のお金があればいいからな〜」
「そ、そんな嘘、信じれるか!!」
私の態度に混乱しているのか、まるで変人でも見るようにベッドの端へ下がる。しかし本当に、差し迫って欲しいものもないし、というか金銭面は今の所テオドールに頼っているのだ。もしもテオドールと離れ一人で生活することになっても、まぁ女一人位どうにでもなると思っている。目の前で威嚇しているこの男をどう納得させようか悩むが、すぐに閃いて端に寄るアレンに近づく。威嚇する彼の目の前に手を出して、私は先ほどマギーに教えてもらった呪文を唱える。
「●◇■○○」
ノイズの様に唱える言葉に、アレンは驚愕しているのか目を大きく開く。差し出した手に小さな光が現れ、そしてその光が形を変え、光が収まるとそれは一本の硝子の様な花になった。
「マギーさんにさっき教えてもらったんだ。綺麗でしょ?」
「……………お前」
アレンは両手を頭から離したので、髪色と同じ耳が姿を表す。私は彼の手を取り、魔法で作り出した花を手に握らせる。
「私も秘密をバラしたから、これでおあいこでどう?」
「……………」
彼は無言だったが、返事の代わりの様に猫耳がピクピクと震えた。
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