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30 許可取らないと、触れない女じゃないんだが


20年前にテオドールと知り合いだったという大柄で筋肉質の中年、ガラードはサヴィリエ国の騎士団長を任されているそうだ。


「コイツは20年前の初代団長で、腕っ節はいいわ顔はいいわで!そりゃあ女を食い漁っていてなぁ!」

「おいマヨイにその話するな」

「いやもう知ってるから」


ガラード率いる王国騎士団は、この周辺で出没した魔物を狩るために来ていたそうだ。普通なら騎士団総出で討伐するべき巨大鯨の魔物を、たった一人の男が成してしまったのだから、そりゃあ茶褐色の男が睨むのも分かる。

私達がサヴィリエ国へ向かっていると知ったガラードは、バイクに乗せてくれるそうだ。目的地に早く着くのは有り難い、私は女性隊員に乗せてもらおうと声をかけようとしたが、いきなりローブの首根っこを捕まれる。テオドールかと思い後ろを見たが、そこにはあの茶褐色の男が仏頂面をしていた。


「元騎士団長はいいとして、オメーはまだ不審者扱いなんだから、副団長の俺の後ろに乗れ」

「えぇ……」


なんて面倒臭い性格の男だ。テオドールの旅の仲間なのだからもう潔白でいいじゃないか。私の表情でなんとなく言いたい事が分かったのか、男は眉間に皺を寄せながらそのまま引き摺り始めるので、慌てて掴まれている手を掴んで爪を立てる。


「痛い痛い!着いてくから離して!」

「っ、痛ぇな!とんだじゃじゃ馬女じゃねーか!」


お前もカスヘロ町の村長みたいな事を言うのか!?思わず猫の様な威嚇声をあげて暴れると、男は引き攣った表情を向けながら、首根っこを掴むのを辞めて、後ろから抱き込むように持ち上げて連れて行こうとする。この男、副団長なのは伊達じゃない様で暴れてもびくともしない。そのまま無理矢理男に連れて行かれていると、急に抱き込まれていた腕が外れ地面に足がついた。


「誰の許可得て、コイツに触ってんだよ」


背筋が凍る様なドスの効いた声に、思わず自分に告げられている訳ではないのに冷や汗が出る。横から、男の腕を強く掴むテオドールが、人を殺しそうな程の冷たい目線を男に向けている。腕を掴まれた男は痛そうに顔を歪めてその目線に怯えている、駄目だ、このままだと男が危ない!知人が殺人を犯した場面など見たくない!そして私はお前の許可得ないと(さわ)れない女ではない!!私は慌ててテオドールの前に立つと、彼は一度こちらを見る。


「ちょっと!暴力は辞めてよ!テオド」


名前を最後まで言う前に、唇に柔らかい感触が襲う。……おそらく、というか目の前に美しい碧眼が目を細めているので、テオドールに口付けをされているのだろう。そのまま彼の空いた手で腰を引き寄せてくるので、離れようにも離れられない。あまりにも長い口付けに思わず周りを見ると、先ほどまでテオドールに抹殺されそうになっていた男が、顔を真っ赤にしながらこちらに指を刺している。……分かる、驚く理由も分かるが取り敢えず助けてくれないだろうか?先程までの勢いはどうした?

長い口付けが終わり、唇が離されたと同時に耳元で「サヴィリエではテオで通してる」と小さな声で告げられたが、いやもう少し違う方法で止めてくれないかな!?と叫びたい。


「若造、次コイツに触った時には、腕一本折れると思っとけ」

「……………」


テオドールの睨みに男は何も言えないのか、顔を赤くしながら口元は引き攣っている。その他の団員も、頬を赤くしていたり真っ青な表情だったが、唯一ガラードだけは大声で笑っていた。



流石に私を乗せてくれる団員は、先ほどの男も含めて誰もいなかった。その為団員一人が他の団員の後ろへ乗り、過去に操縦経験もあるテオドールの後ろに乗せてもらう事になった……不安だ、この後の国での生活が不安すぎる。目の前で久しぶりに操縦する為かご機嫌なテオドールを見て、大きなため息を吐いてしまった。


そのままテオドールの腰に手を回し、彼の操縦の元サヴィリエ国を目指す。絶対に飛ばすと思っていたが、予想外に安全運転をしてくれるので、久しぶりの乗り物に酔いもせず砂漠の景色の移り変わりを見ながら進む事ができた。……すぐ後ろからの、副団長の睨むような目線が邪魔だったが。











「着いたぞマヨイ、サヴィリエの国境だ」



テオドールが操縦を止めて声をかける。

目の前を見ると、そこには巨大な、終わりの見えない壁がそびえ立っていた。今までのユヴァや、ゲドナでは石造りや煉瓦調だったが、明らかにコンクリートで出来ているであろう近代的な建物に驚いた。そのまま私とテオドールはバイクから降り、元の持ち主である団員へ返す。


「暫くサヴィリエに滞在するんだろう?久しぶりに飲みに行こうぜ」


ガラードは笑顔でテオドールの肩を一度叩いて声をかける。それにはテオドールも軽く笑って返した。


そのまま私達はサヴィリエ国の関所へ向かい、門番であろう男性に戸籍証のブレスレットを見せようとするが、どうやら先の入り口のゲートの液晶にかざすだけでいいらしい。何でこんなにも最先端すぎるんだこの国は、ここだけ時代違いすぎないか?

テオドールが滞在していた時にはそうではなかった様で「あの坊主、年寄りの気持ち考えねぇな」とボヤいている。どこの世界でも年寄りは最先端に弱いらしい。私は門番に伝えられた通りにブレスレットを液晶にかざす。液晶に私の名前と、戸籍所在地が表示される。




……が、次の瞬間、液晶の画面が真っ赤になり『特別重要人物』と出たと思えば、大きな警告音が鳴り響くので、思わず悲鳴を上げる。



『特別重要人物、特別重要人物、(タダ)チニ捕縛セヨ、直チニ捕縛セヨ』

「え!?捕縛!?」


画面から機械の声で告げられる言葉に、思わず後ずさる。隣で同じく液晶に戸籍証を当てていたテオドールも、目を大きく開きこちらに引き寄せようとするが、その前に私の立つ地面から突然鉄格子が現れ阻止される。


「ちょ、待て待て待て!?何で!?何でこうなった!?」

「おい門番!マヨイを離せ!!」


テオドールが門番へ怒声をあげているが、門番の前にも守るように鉄格子が現れる。大きな舌打ちをしながらテオドールが私を囲む鉄格子を掴もうとするが、その前に鉄格子、というか小さな牢屋ごと、頭上に現れた空間に勢いよく吸い込まれていく。



「でえええええええええええええ!!??」



私は恐怖で涙目になりながら、頭上の空間に牢屋ごと吸い込まれていくのであった。

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