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2 魔法使いと取引成立

銀髪碧眼の魔法使い、テオドールく……さん。

彼は100年ほど前に、突然この世界に飛ばされたらしい。神に愛された存在は皆、それぞれ加護を持っており、テオドールの場合は、時の神の加護を得て不老不死なのだそうだ。そんな事になったら、私なら発狂するが……目の前の不老不死の魔法使いは、手際よく火を起こしスープを作っている。


「ほら、食えよ」


差し出された皿には、肉と野菜が入った、美味しそうなポトフのようなスープが入っていた。とても美味しそうな香りに思わず喉を鳴らす。私は有り難く受け取り、そっと口に運ぶ。


「うっっっま!!!」

「そりゃあよかった。若いんだから、たらふく食えよ」


そう笑いながらテオドールも自分の皿にスープを盛る。外見が10代なのに、喋る言葉が……そう、昔の人のような、年寄り染みている。どちらにせよ、銀髪碧眼の美形が、いい声で話してくるので、ものすごいギャップがある。だが今はこの魔法使いに聞きたい事も山ほどあるので、私は絶品のスープを空腹の腹に詰め込んだ。それを見てテオドールは「ちゃんと噛めよ」と笑いながら声をかけた。


「……で、神から加護を授かった奴らは人間だろうが何だろうが、魔法が使えるようになる」

「魔法って、さっきテオドールさんがやってた、雑音みたいな呪文の事?」


先ほどテオドールは焚き火の火を灯す際、ノイズのような雑音のような声を出していた。突然の意味不明な言葉に吃驚していると、突然火が灯ったのだ。


「さん付けはいい、むず痒い。……魔法は精霊か、神の加護を得た者にしか扱えない。加護を得た、聖人や聖女、魔法使いって言われる奴は、同じ魔法でも精霊が使うものと違って、全く同じ魔法の呪文を唱えても全て「神の言葉」ってのになる。人間には雑音に聞こえるが、神の言葉で唱えられた魔法は、威力が桁違いになる。……だから人前で魔法なんて唱えちまった時には、場合によっちゃあ大変な目に遭う」

「へぇー」

「……他人事みたいに聞いてるがな、アンタも加護を得てるから、ここにいるんだからな?」

「そうだった!!!」


そういえば私も、神様に好かれて?この世界に来たのだった。慌てる私に呆れたようにテオドールはため息を吐く。


「俺ぁこの世界に飛ばされる時、大体の話を得てから、この世界にいるが……アンタはそうじゃないみたいだな」

「そう、もう気づいたら空にいたの」

「信じられねぇが、俺も見てたしなぁ………俺はこの世界に来た時、お告げを聞いた精霊にすぐに見つけてもらって、そこで色々学んだんだ」

「えっ!嘘でしょ!?……まさか私は実は、神様に望まれてなかった?」

「そりゃあないな、神は絶対に間違えない」


真顔で言われるが、そんな事言われてもあまりにも彼と私では境遇が違う。テオドールは私の皿を受け取ると、またノイズのような声を出して水を出し皿を洗う。なんて便利なんだ、魔法。


「で、どうするんだ?何のお告げもないんじゃあ、アンタ行く当ても何もないだろ?」


テオドールの言葉に私は無言になってしまう。確かに、私は突然この世界に来て、神様から何もお告げもない状態だ。……独りで生活する事は確実に難しい。それこそ飢えで死んでしまうだろう。

そんな私の表情を見て、テオドールは微笑みながら頬杖をついて、こちらを見る。


「……俺からの提案なんだが、アンタ俺と一緒に旅をしねぇか?」

「旅?」

「そう、俺は旅をしながら、「不老不死でも死ねる薬」を探してる」


思わずテオドールを見るが、彼は微笑んだままこちらを見ていた。


「俺は不老不死なんて、さっさと辞めたいんだ。だから旅をしながら、神の加護にも勝てる薬を探してる……で、流石に80年も独りで旅をしてると、寂しくてなぁ。……俺はアンタにこの世界での知恵と、魔法を教える事ができる。俺は旅仲間を得る事ができる。お互い損じゃねぇだろ?」

「………」

「ま、こんな年寄りと一緒に旅をするのが嫌なら、断ってくれてもいいけどよ」


そう笑いながら告げるが、明らかにこちらの得まみれの提案だ。私はこの世界で生きるしかないのであれば、100年以上も生きている彼に知恵を貰えるのは有り難い。私は勢いよく立ち上がりテオドールの側に寄って座り込む。急に近づいてきて驚く彼を無視して、彼の手を握る。


「その旅の中で、私を呼んだ神様とも会えるのかな!?」

「あ、ああ……ついでにアンタに加護を与えた神も、探してやるが……」


手を握られて少し照れているのか、少々顔が赤い。私はそんな彼に笑顔で笑いかける。


「一緒に旅する!そして、そして私を空から落とした神様を、一発ぶん殴る!!!」


その言葉を聞いたテオドールは、大きく目を開くが………次には声を出して笑った。それには私も驚くが、そのまま笑い続けるので流石に不機嫌になってくる。テオドールは笑ったままこちらを見る。


「い、いや、悪い!……で、でも、流石に……神をぶん殴る為に会いに行くとか…!!!」


しばらく大笑いしているテオドールに、私はどんどん眉間に皺を寄せていった。


そうしてしばらくすると、笑い疲れた彼は涙目でこちらを見て、握られている手を強くする。


「じゃあ取引成立だな。これからよろしくな、マヨイ」


私は眉間に皺のまま、同じく強く握り返す。


「こちらこそ、よろしくクソジジィ」

「今度それ言ったらゲンコツだからな」



こうして私は、見た目美青年のお爺ちゃん魔法使いと、お互いの目的の為に一緒に旅に出る事になった。

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