27 聖女王は、そこまで鈍感ではない
マヨイの体調もすっかり元通りとなり、テオドールの反抗期もどきも、マヨイの説得ですぐに終わりを遂げた。マヨイが部屋から出れなくなっている一週間の間に、私やキルア達がテオドールに連絡をしても全く音沙汰がなかったのにだ。あの聖人は本当に、何故彼女に想いを伝えないのだろうか……どう見ても相思相愛なのに。
キルアと二人で部屋に乗り込むと、案の定テオドールに襲われそうな場面で、私は魔法を、キルアは剣をテオドールに振りかざす。
だが大剣を小型剣で受け止め、魔法を咄嗟の呪文で無効化して来たのには本当に驚いた。伝説の大魔法使い、そう呼ばれているだけあって、同じ加護持ちなのにやる事全てが規格外すぎる。キルアは自分の剣を飾りのような剣で受け止められたのにショックを受けていた。だが男はそのまま何事もなかったかの様に、やけにスッキリとした表情で真っ赤になっているマヨイに、椅子にかけていたローブを被せてお姫様だっこしたあの男の顔!もう思い出すだけで吐き気が来るほど甘い顔!見てらんねぇゲロ甘すぎる!!キルアも私と似た表情だったので同じ事を思っていたのだろう。見てるこっちが恥ずかしくなるほどだった。
「キルアも私も!本当に心配したんだからね!全然連絡返ってこないし!」
夜中にいきなり、謝罪も兼ねてテオドールが私の部屋にやってきた。夜中に女性の、なんなら国王の部屋に来るとは何て奴だと思ったがそこは抑えた。謝罪の品が酒瓶だったので「未成年じゃい!!」と叫んだ所、今目の前で自分で飲んでいる。なんて男だ、いいのかマヨイこんな男と一緒にいて!顔だけだぞ!?コイツとんでもねぇ野郎だぞ!?
「はいはい悪かったよ王様、だから謝罪しに来てやってんだろうが」
「それが謝罪をする奴の態度か!?ほんっっとうに!マヨイにしか優しくないなぁお前は!!」
私は床に胡座をかきながら酒を飲むテオドールに、大きな声で罵倒をする。するとテオドールは、マヨイ、という言葉に反応したのかこちらから目線をずらす。そのままもう一口酒を飲むと、一呼吸置いて口を開く。
「……先日アンタが言ってた「仮定」だが。マヨイに話した」
「えっ?……あの「半端な加護になってる」っていうやつ?」
テオドールは無言で頷いた。それには思わず拍子抜けしてしまった、あれほど動揺していた仮定を、当事者であるマヨイに話すとは思わなかったのだ。私は怒りも収まり、静かにテオドールを見る。
「……マヨイ、どうだった?」
私の質問に、テオドールは酒瓶を置いて大きくため息を吐く。その姿に、まさかショックを受けてしまったのではと心配になったが、テオドールは苦笑いをしてこちらを見た。
「どうだった、だって?……「助けてくれて有難う」だってよ」
「えっ」
「俺が助けた所為で、加護も半端になって、それで危うく死にかけたのにな?」
苦笑いをしているが、その発せられる言葉はとても優しい声だ。碧眼を細め、マヨイに伝えられた言葉を思い出す様に慈しんでいる様だった。
私は、あまりのこの目の前の、彼女に関する所での変わり様に、思わず聞きたかった事を呟いてしまう。
「ねぇ、マヨイに好きだって言わないの?」
するとテオドールは、まるで鳩が鉄砲玉を食ったような表情になる。私は眉間に皺を寄せながらため息を吐く。
「いや、分からないとでも思ったの?」
「……いや、あのゲドナ王は兎も角、アンタらには気づかれてないと思ってた」
「はぁ〜〜〜?テオドールの気持ち知らないの、マヨイだけだと思うよ?」
「……マジか」
恥ずかしそうに頬を少し赤くする男を見て、いつもこんな風に素直なら彼女もさっさと気づくのでは?と思ったが癪なので伝えない事にした。私は頬を掻きながらもう一度ため息を吐く。
「マヨイにしか優しくない、マヨイしか心配しない、マヨイの事で心を病む。……誰でも分かるでしょそんなの」
無言になる男に、私は払うように手を振る。
「謝罪はいいから、大好きなマヨイちゃんの元へ早く行きなよ。今度こそ愛想つかされてもしらないよ?」
「………うるせぇな」
テオドールはそう言いながら小さく舌打ちをして、酒瓶をそのままに部屋から出ていく。酒瓶は持って帰って欲しかったんだが、まぁいい。
もしこれでマヨイを再び悲しませる様な事をしたら、彼女の友として見過ごせない。あの男が何をして来ようが、絶対に自国に連れていくと心に決めた。……むしろ一度嫌われてしまえ!!
◆◆◆
あの後、テオドールに部屋に戻されそのまま寝ていた私は、部屋の扉が静かに開く音が聞こえて目が覚めた。扉の方を見ると、薄暗くても分かるほどに美しい銀髪が見える。私はその人物がわかると、寝具を頭から被って声をかけた。
「また帰ってこないかと思った」
その人物は静かな足音を鳴らしながら、こちらへ向かって来ている様だった。弱く息を吐く音が聞こえる。
「もう離れねぇよ」
それはどういう意味か聞こうとしたが、その前に寝具が勢いよく剥がされる。そのままその人物は覆いかぶさり、その美しい碧眼で真っ直ぐ見つめる。鮮やかな行動に思わず思考が停止するが、行為を理解すればどんどん顔の温度が上がっていく。その表情を見たテオドールは、色っぽく笑ってみせる。
「ッは、いい顔してんじゃねぇか」
「んな、な、なな」
そのまま、あの娼婦館の時のように、彼に頬を撫でられる感触に肩を震わせる。目の前の彼は、目を細めて愛おしそうに見つめる。
「最初は、興味だったんだけどな。まさか、こんな事になるとはな」
「えっ?えっ?」
「小娘一人に、年甲斐も無く夢中になるなんてな」
テオドールの言葉に、その目付きに、本能的に危険だと感じているのに、それを見続けたい気持ちが勝って動けない。そんな姿を見て、テオドールはいつもの様に優しく笑いかけ、美しい顔を近づけてくる。
「アンタ、言葉ではおっかな吃驚したり、嫌々言ってるがな。……俺にどんな事されても、結構受け止めてるの知ってるか?」
「………っ」
「……そんなアンタの姿は、煽ってるだけって知ってるか?」
言い返そうとした唇を、目の前の男の唇をもって塞がれてしまい、言葉を出せなかった。
ちなみに、娼婦館でテオドールが最後までしなかったのは、娼婦達が皆テオドール相手にすると「これ以上されるとこの男以外で満足できなくなる!!!」と逃げられたからです。




