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22 愛おしい子



「……で、何故この2人はこんな険悪になってますの?」


金髪碧眼の美女に似合う、真紅の騎士団服を着ているキルアは、テオドールとシルトラリアの表情を見て引き攣った表情を向ける。私はキルアの肩を叩き、首を横に振る。


「……色々あったの」

「……そうですか」


キルアは何かを察したのか、それ以上は何も言わなかった。シルトラリアは不機嫌そうに鼻息を一度出す。


「じゃあ私達は、結界外にいる魔物を始末してくるよ。変態ジジィ!ちゃんとマヨイ守ってよ」

「阿呆国王に言われなくても、魔物を指一本触れさせねぇよ」

「アホ!?アホって言ったな変態ジジィ!!アホって言った方がアホなんだぞ!!!」


食いかかるシルトラリアを、精霊二人が必死に止めながらそのまま彼女は引き摺られて行く。それを見てテオドールは「どっちが主人なんだか」と仏頂面の表情でつぶやくが、それには本当に同意しかない。


私とテオドールは結界魔法を発動させる演習場へ、キルアはゲドナ王を守るために城の大広間へ向かった。





◆◆◆




演習場は城の近くにあり、騎士団員が訓練に使う場所の為かとても広い。私は演習場の真ん中で、深呼吸を何度もする。

目を凝らしながら空を見ると、無数の魔物が結界を攻撃しているのが見える。魔物は前見たような歪な人間もいれば、動物の様な見た目のものもいた。どれも猛獣の様な赤い瞳をしており、思わず肩が竦む。


そんな私の頭に、温かい手が乗せられる。目の前を見ると、テオドールが優しく微笑んでいた。


「大丈夫だ、俺が守る」


その言葉に、竦んでいた肩も、体も軽くなっていく。


空から落ちる自分を救ってくれた目の前の魔法使いに、私は心の拠り所にしているのだと思い知らされる。私はそんな魔法使いテオドールに向かって、真っ直ぐに見つめて頷く。



そしてそのまま目を瞑り、教えられた通りの呪文を唱える。





呪文を唱えていくと、周りの空気は冷たくなっていき、地面一面に赤い魔法陣がゆっくりと浮かび上がっていく。それと同時に、自分の身体中の血が熱を持っているような感覚を感じる。まるで自分の中に火が灯っている様な、鈍い熱さと痛みが全身を襲う。


「◆○■▲▷」


自分が出す雑音の様な声と共に、巨大な赤い魔法陣が完成してく。……あともう少しだ、もう少しで結界魔法が完成する。



「◆●○■、っあ”!?」


呪文の最後を唱えた途端、口から血を吐いた。ボタボタとこぼれ落ちるそれは、自分の服を汚し地面に落ちていく。全身が刺されているような激痛に、私は血を吐きながら地面に両膝をつく。


「マヨイ!!?」


その光景を見たテオドールが、私の名前を叫んでこちらに走ってくる。……その間にも、私の口から、目から。耳から血が大量に流れ出す。あまりの量に目が霞んできてしまうほどだ。


……おかしい、痛みがあると聞いてはいたが、ここまでの激痛と血を吐くなんて聞いていない。それでもどんどん体から流れ出る自分の血を、止める事ができない。


このままでは私は死んでしまう。テオドールの声が、走る姿がどんどん歪んでいく。








「愛おしい子」








その時に、テオドールとは違う、幼い声が聞こえる。霞んだ目でその方向を見ると、そこにはユヴァ国で星祭りの夜に見た、黒髪の少年がいた。その表情はとても辛そうで、あの夜の時のような恐ろしさはない。


そのまま私の頬に触れ、少年は諭すように声を出す。


「大丈夫、もう傷つかなくていい」


そう言うと、少年は自分の左目へ手を当て、そのまま歪な音を鳴らしながら左目を抜き出す。少年は痛みで歪んだ表情のまま、左目を空へ向け、大きく息を吸う。



「戦いの神ヴァンキルよ!結界()()の対価は、死の神アドニレスの目玉を与えよう!」



少年がそう叫ぶと、地面に描かれた魔法陣が、赤色から黄色に変わる。そのまま眩しい閃光を放ち、私は地面に倒れそうになるのを少年に抱きしめられる。あまりに冷たい少年の体が、小さな体が震えている。




「そのままゆっくり眠って、もう何も怖くないから」




震える体から放たれる優しい少年の声が、抱きしめられる心地よさが、私の意識を遠くに追いやった。

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